viva cinema

トニー・スコットが死んだ

BeauMale
2012.8.23

この監督の名前 TV ドラマの「グッド・ワイフ」で兄のリドリー・スコットと並んで総監督として載っているのでそれしか知らなかったが、リドリー・スコットの弟でハリウッド映画の監督だということを知ったのは恥ずかしながらやっと去年の末というていたらく.それで、「マイ・ボディガード (2004)」、「デジャヴ (2006)」、「アンストッパブル (2010)」と観てこの監督の素晴らしさを知り、この最近急にこの監督の作品が観たくなって「サブウェイ123 激突 (2009)」、「ドミノ (2005)」、「エネミー・オブ・アメリカ (1998)」、「スパイ・ゲーム (2001)」と観て矢張り当たり外れが無くどれもがそれぞれ違ったように撮る素晴らしさに、前回、「エネミー・オブ・アメリカ」について書き今度は「スパイ・ゲーム」について書きたいと思っていた矢先の死である.

いつもながら現役として活動している監督が亡くなると云うことは非常にショックである.永遠に映画を作り続けてくれるものだと云う勝手な錯覚を持っている監督が突然存在しなくなってもう新しい作品はないのだという喪失感は大きい.幾らでも作ろうと思ったらひょいひょいこれほどの作品を作っていく人が一体何故自殺しなければならないのかと思うが、人にはそれぞれ事情があってそれをいっても始まらない.

一番最近に観た「スパイ・ゲーム 」は出だしは一体何が起きたのかよく解らない画面でブラッド・ピットが中国の監獄に潜入するが捕まってしまうシーンでその事情は全く分からない.次からは CIA の本部でその日退官するロバート・レッドフォードの話であるが、ブラッド・ピットが捉えられたという話は彼にも伝わっている.その事に関する委員会のようなところでロバート・レッドフォードはブラッド・ピットとの馴れ初めからを語って行くのであるがそれがフラッシュバックで画面に出ていく.

ボーイ・スカウトで射撃を習ったというブラッド・ピットを見込んで彼を CIA のエイジェントとしてレッドフォードが育てていくという話しが委員会で何度も現在に立ち戻るがずっと語られていく.二つの時間が平行に映し出されて、普通フラッシュバックは出だしの説明でちょっとの間語られるか、現在は最初と最後で話の本筋はその間のフラッシュバックであったりするが、このように交互に語られるのが終わり近くまで行くと言うのは初めて観た.

「エネミー・オブ・アメリカ」でもウィル・スミスに元恋人のジョン・ヴォイトがジーン・ハックマンとの連絡方法を教えるのにその説明の言葉はジョン・ヴォイトであるが実際の行動はウィル・スミスという時間の魔法を使っていた.併しよく考えうと「デジャヴ」では時間そのものをコントロールする機械が登場してデンゼル・ワシントンは現実を変えて仕舞った.

そうしたことも興味深いが筆者としてはこういう画面に惹かれてしまう.「スパイ・ゲーム」でベイルートである人物を暗殺する使命を負ったブラッド・ピットが暗殺を頼む医者を助けてボランティアで難民キャンプで働くキャッサリン・マッコーミックに近づくがたちまち彼は彼女に恋をしてしまう.一方 CIA はそれだけでは心許ないとレッドフォードを派遣して別の暗殺計画を実行しようとしている.

ある日のことベイルートのレストランバーにレッドフォードがふらりと入ってきた.

Spy Game

そしてカウンターに腰掛けた姿がバストショットで撮られる.

Spy Game

次いで店内が入り口の方からロングで映される.

Spy Game

キャメラがゆっくり右にパンしていくとブラッド・ピットとキャッサリン・マッコーミックが一つのテーブルで仲睦ましく話している姿が視野に入って来る.

Spy Game

二人の姿はバストショトになり、

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次にはアップになる.

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そして今度はカウンターのレッドフォードを映す.

Spy Game

アップの儘、レッドフォードがベイルートに来ているのを知らされていないブラッド・ピットはああ来ているのだと好意と驚きの目を向けさっきのショットが彼の視線なのだと解る.

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これだけのショットであるが何て的確で素晴らしいのかと息をのむ.このショットはこれだけ独立して素晴らしいというのではなく物語全体に関係しているのである.

彼女は過激派のテロリストで母国のイギリスで中国大使館を爆破した犯人でイギリスには戻れない.レッドフォードはそれをブラッド・ピットに知らせに来ていたのである.実際二人の前でその事を話すと彼女は怒って出て行ってしまう.その後ブラッド・ピットの知らぬ間に彼女は中国当局と捕虜交換で中国に渡されブラッド・ピットには別れの手紙が偽造されて残されていた.

実はこのシーントニー・スコットは最初は違う設定をしていたと語っている.レッド・フォード自身が彼女の元恋人で、あのシーンのあと、レッドフォードが二人のテーブルにやって来るがその時彼女はレッドフォードを見て困った顔つきをするという設定でそのように撮っていたが、今のように変えたのだという.

このシーンがあるからこそブラッド・ピットが中国の監獄に単身潜入する意味が出てくるのである.CIA としてはブラッド・ピットは私的行動で捕まったので見殺しにすることに決めていた.退官間近のたった一日でレッドフォードはこれまでの給料の蓄えや退職金をつぎ込んで監獄のある一体を停電させ、偽の命令書を使って特殊部隊を投入して監獄から二人を救い出す.その最終命令の確認が委員会のさなかに電話でなされるのであるがディナー作戦決行という言葉を聞いた面々は女房にまであんな事云っていると笑うだけで気付かない.

これほどの監督を失ったと云うことは本当に惜しいことである.

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