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山中貞雄「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」語り口と招き猫

BeauMale
2011.10.26

山中貞雄は1909 年生まれで、同世代の監督は、1903 年生まれの小津安二郎、成瀬巳喜男が 1905 年、マキノ雅広は 1908 年、マキノと同じ年生まれに今なお撮り続けているポルトガルのマノエル・デ・オリヴェイラがいる.山中貞雄はこれらの監督と違って若くして死んだ.弱冠二十八歳という若さで1938 年に戦病死で世を去っている.彼らと同じだけ生きていたらどれほどの作品を作ったのか残念なことである.生涯二十本以上の作品を残しているが今のところ観られる作品はこの「丹下左膳餘話 百萬兩の壺 (1935)」に「河内山宗俊 (1936)」と「人情紙風船 (1937)」の三本しかない.そのどれもが傑作である.

この傑作中の傑作である映画は YouTube に全編載っている.


この映画の巧みな語り口にここが変だよと云うところは残念ながら見つけられなかった.話は柳生対馬守(阪東勝太郎)の祖先が百万両という大金がどこかに隠しその場所を示す絵図面がこけ猿の壺という壺に塗り込められていると古老によって明かされるが、家宝ではあるが何の変哲もない壺は江戸の道場に婿入りした弟、源三郎(沢村国太郎)に祝いとして渡してしまった.国表から使者が江戸屋敷に遣わされてその壺を取り戻すべく算段がなされる.

婿入り直後で屋敷には祝いの品が並べてあるが、奥方はこれが気に入らない.二束三文の壺が並んでいては外聞が悪いという.

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源三郎としても大名である兄がこんなものしか持たせないことに腹を立てている.いっそ屑屋に売ってしまおうと言い出す.

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奥方は直ちに屑屋を呼んで売り払う.その屑屋の二人組のコンビがこの二人、彼らは度々登場する.

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屑屋が壺を持って帰ると隣の七兵衛の息子興吉少年が金魚を手に入れて入れ物をどうするかの思案中.その壺を金魚の水槽として少年ににくれてやる.

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七兵衛は持っている旗に江戸名物と書いてあるががそれを商う零細商人であるが大店の旦那のような顔して毎夜矢場に通っている.この矢場の女将(喜代三)の許に丹下左膳(大河内傳次郎)は用心棒として居候している.

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女将がその前に座る長火鉢のある部屋には壁に沿った箪笥の上に招き猫が置かれていて女将が三味線で唄を始めると丹下左膳はこの招き猫を必ず後ろ向きにする.それによって何時も何らかのことが起きるのである.

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女将はそれには気にしないがこの二人どちらも天の邪鬼で丹下左膳がお前の唄を聴くと頭痛がするというと、女将はさぞやお酒が不味くなるのでしょう、酒屋の払いが少なくなるからでは唄を始めると云って唄いだす.

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窓からは源三郎が唄を聴きこの場所の楽しげな雰囲気に目を輝かしている.

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後ろを向いた招き猫は災厄をもたらした.客の二人が的に当たらないのでここの矢は曲がっているといちゃもんをつけるので七兵衛がひょいと命中させ皆の笑いものにされると二人は怒って七兵衛に乱暴狼藉を働くが丹下左膳が呼ばれて二人は追い出される.七兵衛の帰りに女将は丹下左膳に用心のため送るように云うが天の邪鬼の彼が受け入れる訳はない.とは云いながら彼は行くのである.大店の旦那と云うことにしているものだから七兵衛は使用人の手前店まで送らなくて良いと家まで行かずに断ってしまう.

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それが拙かった.二人の暴漢は後をつけていたのである.七兵衛が一人になったところを襲ってしまう.気になった丹下左膳が引き返すと襲われた七兵衛が倒れていて矢場まで連れてくるが虫の息で息子の名を言ってよろしく頼むと事切れる.誰もそれが息子の名だとは気付かない.

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扨、源三郎の方は国元の使者が壺を返せと云ってくるが、腑に落ちず首を縦には振らず、大金まで持ってきたので道場の門弟に尋問させたらあの壺が百万両だと知って奥方に云うと、既に売り払った後である.その日から彼は屑屋を捜して外に行かなくてはならない.江戸は広い、屑屋は多い、まるで敵討ちだ、十年掛かるか二十年掛かるか、というのが彼の口癖である.奥方の顔を二六時中見ていられないのは辛いと云って道場を離れるまでは行きたくないそぶりを見せているが、

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一旦道場を離れればこの通り意気揚々と歩みを進める.

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行き先は矢場である.下手な弓に現を抜かして気に入りの女とたわいもない話に時間を費やす.彼は皆に百万両の壺を捜す口実出来ていることはばらしてある.

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丹下左膳と女将は七兵衛の死を知らせに大店を探すが見つかるわけがない.

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そこでまたあの二人の屑屋に出会って訊くと、住まいは解るが、七兵衛違いであろうと行き掛ける.

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そこで七兵衛の息子の興吉少年と出会ってその名を聞いて七兵衛が嘘をついていたことを悟り息子を矢場に住まわせることにする.

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それから一月してある日招き猫はまた後ろを向かされる.

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興吉は窓の外を友達が竹馬に乗っているのを見て女将に買ってくれと頼むが、女将は危ないから駄目だと聞き入れない.誰々も乗っているという少年の言葉にあそこのお家のお商売はお医者だろう.お医者は怪我人が沢山でた方がよいのだと変な理屈をつける.

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丹下左膳同様に天の邪鬼の女将はそう言ったそばから竹馬に少年を乗せて自ら乗り方を教えている.

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併し、転んでしまって縁側の壺は庭に落ち金魚は飛び出して死んでしまう.

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少年の懇願で丹下左膳は金魚釣りに行こうと云うと、源三郎も女と同行する.

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折しも道場の奥方は家来を連れて宮参りに来ていて百万両の壺が見つかるように願うが家来はお神籤を引いて捜し物は辰巳の方向とあるので遠眼鏡でそちらを見れば金魚釣りの一行の傍らに百万両の壺があるのを発見する.急ぎ奥方に遠眼鏡を渡すと彼女の目に映るのは夫と矢場の女の仲睦まじい姿ばかりである.

こういった話の持って行きようが何とも面白い.竹馬→金魚→遠眼鏡→浮気の発覚と予想も付かない展開である.これで源三郎は屋敷から一歩も外に出ることを禁じられてしまう.

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またある日のこと、招き猫が後ろを向かされていた.丹下左膳は少年を道場に通わせると言い張り女将は寺子屋だと云ってどちらも自説を曲げずに、道場だ、寺子屋だの押し問答が続いたあげく業を煮やした丹下左膳は傍らの三味線を招き猫めがけて投げ飛ばす.

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三味線は見事招き猫に当た三味線は折れ、猫は割れてしまう.

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一瞬間をいて招き猫の代わりに矢場の賞品である達磨が招き猫の場所に置かれている.招き猫が壊れてしまうという事態は一体何が起きるかの事件である.

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困ったことが起きてしまう.あることから六十両もの大金を返さなくてはならない羽目に陥る.丹下左膳は翌日の晩までに返す、武士に二言はないと大見得を切るが、居候の身、そんな金があるわけ無いだろうと女将に頼むが、どうしようもない.先ずは女将の着物を売って博打場に行くがすってんてんである.次は道場破り、源三郎の道場とは知らずに乗り込み門弟達を散々に打ち負かす、大河内傳次郎が飛び跳ねて相手を倒すのである.

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当主の源治郎は怖がって出てこないのを押し出されて道場に来れば何と相手は懇意の丹下左膳である.知らぬ顔して鍔迫り合いをしながら負けてくれと小声で頼む.近頃では門弟達からも馬鹿にされている婿養子である.ここは一気挽回の時である.丹下左膳は金さえ手に入れば勝負などどうでも良い.利害は一致して丹下左膳は負けてやった.

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江戸屋敷の家老達は壺の絵をつけて江戸中に張り紙をして壺を集めたら長蛇の列で壺を持ってくる連中が並ぶ.例の二人組の屑屋も幾つもの壺を抱えて列に並ぶ.源三郎は禁足になる直前にこの二人を見つけていて壺をやった子供を隻眼隻腕の侍が連れて行ったと云うことを知っているのであった.

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丹下左膳をただ一人打ち破った道場一の剣豪である源之助はもはやどこにいようと自由である.彼は百万両よりこの矢場で楽しんでいたい.壺探しの名目で来ているのだから壺は見つかったとは云わない.百万両の壺であると承知の上で当分丹下左膳に預けると云っている.丹下左膳達もその壺が百万両のだと知ってのことである.女将の三味線が鳴っている.丹下左膳は少年に耳打ちしてこれも型どおり運ぶ..

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つまり招き猫ならぬ達磨を少年は女将の顔を窺いながおずおずと後ろ向きにする.これで全てが日常に戻ったのである.

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