viva cinema

ジャ・ジャンクー「長江哀歌」のゆったりした流れ

BeauMale
2011.9.29

ジャ・ジャンクー 賈樟柯の映画は劇場で観たかった.「青の稲妻」、「四川のうた」に次いで三本目の映画であるが、残念なことにどれも DVD でしか観られなかった.「青の稲妻」の退廃が退廃とは言えないほどに徹底した都市の若者の無表情を描いていたが、その素晴らしさに圧倒されて「勝手にしやがれ」を初めて観たときはこれを観たのと同じ驚きだったろうと書いたのだが、この「長江哀歌」にも驚かされた.退廃などどこにもないのである.あるのは長江のゆったりした流れである.

画面の最初船に押し込まれていると言っていいほどにぎゅうぎゅうの船内に座る人々の姿が左から右への横移動でゆっくり映されていく.その最後に映し出されたのがこの人物で山西省から長江の三峡ダムの工事現場に来たハン・サンミンという男である.このキャメラの横移動はキャメラが動いたのか船が右から左に動くのを固定したキャメラで撮っているのかが判断つかない.その次のショットで船の後部の河面と大きな円形の橋が映り水の流れが映し出されるところを見るとセットでキャメラが動いたと思う.

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手品が始まるという所に無理矢理ハン・サンミンは連れ込まれるが無抵抗で押し黙っているので、これはきっとうすのろの主人公が非道い目にあわされるのではと見ていると、札束をドルやユーロや元の人民元に変える手品は直ぐ終わって観客は金を要求される.押し黙っているハン・サンミンが金がないと応えると鞄を取り上げ中のものを出され金目のものがあるかを物色される.ハン・サンミンがポケットに手を突っ込むと相手の男はそこに持っているのだな、出して見ろといわれて出したものは飛び出しナイフであった.

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それでどうなったかは描かれずに船から下りて地図を見たりしているとオートバイの男達が近づいてきて案内するという.住所を書いた紙切れを渡してここに行ってくれと頼むと彼を後ろに乗せてオートバイは彼を河岸に連れて行く.ここのどこだというと、河の中を差してあの草の生えている辺りだという.騙されたと思って文句を言うと、俺の家はあの船のいる辺りであった.という言葉に怒りも消え、その後また金を支払って移住者の事務所や宿泊する場所にも連れて行って貰う.宿泊する下宿では大家に掛け合ってくれて宿泊料を半分以下にして貰う.

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大家は耳が遠いが好人物の老人で、彼が人捜しできているといって住所を渡すとそこの住人の弟が船に住んでいると教えてくれる.ハン・サンミンは船を尋ねると、兄はもっと南に行っていて帰るのを待てと云われる.ハン・サンミンは不思議な男で最初見たときはいかにも無力な文無しだと思っていたが煙草を人々に振る舞ったり酒をお礼に用意していたりする.山西省の酒だといっているが、手品のショーで荷物を開けられたときは持っていなかった.

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世界最大の三峡ダムの建設現場は想像していたものとは違っていた.ここでの仕事は水没する予定の建物を打ち壊すことである.ハン・サンミンもそれに参加する.

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手品ショーで彼の荷物を取り上げた男は、凄んで見せたりもするが、悪い男ではなく、ハン・サンミンが十六年前に出て行った妻と娘を探しに来たという打ち明け話までして、お互いの携帯の番号を教え合う.

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この映画常に背景には長江が控えていてまるでその流れと同調するかのようにキャメラの動きはゆったりとしている.そのゆったりとしたキャメラの動きから長江を背にして一人のすらりとした女性が現れた.この女性がハン・サンミンの妻なのかと思ったがそうではない.同じ山西省出身で二年前から連絡がなくなった夫を探しに来たのだという.このショットの後、急にリズムを替えるように静止した工場のものを映した幾つかの空ショットが挟まれる.そして彼女は夫がいたと思われる工場を訪ねると、夫が置いていった荷物を持って行ってくれと頼まれる.また、夫は河の対岸にいると知らされる.残されていたものの中にお茶の葉の入った袋があってこれが何か意味があるのかと思っていたが何もない.

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対岸に渡るべく河岸に近づくと十六歳だという娘がやってきて仕事はないかと訊いてくる.この挿話は筋書きと全く関係ないのだが、こういう画面があるということが面白い.河を渡る船の中でも彼女のたたずんでいる左から大声で歌う少年が現れて彼女の前を通り舳先まで歌い続けながら進むのをゆっくりキャメラが追うと次には対岸の街の橋の上を歩む彼女の姿が映され少年の歌の続きが街のスピーカーから聞こえる.

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この対岸には夫の友人で彼女も知っている街の考古学者がいるのでその発掘現場を尋ねる.三峡ダム建設では埋没文化財を掘り出してそのまま水没させるか別の場所に保存するかを決めるためにあちこちで発掘調査が行われたようである.

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夫のいるところをあちこち尋ね歩くが中々捕まらない.途中寄った夫の恋人かも知れない女性の経営する野外の幾つか席のある食べ物屋でヤオメイという名の女性が働いていたが、この名はハン・サンミンの妻の名である.見た目は同一人物なのかどうかは解らない.結局その日は考古学者の家で泊まることになって家に向かう途中取り壊し中のビルなのかと思ったが変な形のビルがあってそっちに向かって子供達が大勢駆けだしていった.

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考古学者の家でこの映画唯一のクローズアップで彼女が映し出された.二人が恋に進むのであろうかと思ったがその気配は全くない.彼の手作りの食事の後であろう、二人はビヤホールに行くが、彼女の話は夫の本当のことを教えてくれ、というばかりで、彼の方は一年近く会っていないから知らないと応えると、男同士はそうやってかばい合うと非難される.

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彼女たちが帰った後であろう彼女の夫が同じビヤホールに客を連れて現れ河に掛かる橋を指してあれを建設した、明かりが消えているので携帯で部下にライトアップするように命令すると明かりが灯される.夫は大きな建設会社の社長なのである.

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翌朝早く彼女は洗濯したシャツをベランダに干し退くと、あの不思議な建物は空に向かって飛んでいった.何とも不思議なこの光景には吃驚したが嬉しくなる.

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考古学者が捜し人が見つかったといって退くと彼女の前に夫が現れた.何も言わずに彼女は逃げ出してしまう.夫は車で追ってくるが彼女は止まろうとはしない.車から降りた夫は彼女を追って片手を差し出して手を握り抱き合うと踊り出す.それも直ぐ終わって彼女は好きな人が出来たと告白する.誰なのかいつからなのかの質問には答えない.離婚の手続きをしてくれ、これから好きな人と落ち合って上海に行くからと云って立ち去ってしまう.彼女の乗る観光船が上海に向かいガイドがここは李白が詩に読んだところだとそれを朗読するスピーカーの声が聞こえるばかりである.これで彼女の物語は終わりである.

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話はまたハン・サンミンに戻る.大家の家で、政府の役人がやってきて壁にペンキで取り壊しだという印を付けている.既に移住先は知らされているが、ハン・サンミン達は印のある家を取り壊していく.

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ある日仲良くなった手品ショーの男が彼や他の労働者に飴を配る.それから何日か後ハン・サンミンが頻りに携帯を掛けているが相手が捕まらないようである.取り壊し現場でも携帯を掛けて何かに気付いたように彼は駆け出す.落下した石材の山があってその一つに近づいて石を取りのけながら皆を呼ぶ.あの手品ショーの男が下敷きになっていたのである.遺体を赤とグリーンの布で覆って安置して、写真を飾り煙草を手向ける.

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小舟が到着して戸板に載せた遺体を運び彼だけ残って船は静かに河に出て行く.この時の長江の水の色がグリーンで遺体を包む布と呼応して美しい.

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それから暫くしてヤオメイが戻ったという知らせが来て彼女に会って、そこの主人の老人と交渉する.彼女次第で連れて帰っても良いが彼女の兄に貸した三万元は返してくれと云われる.その支払いは一年待って貰って連れ帰ることになる.

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二人だけになって、彼女が飴をくれるという.その飴は手品ショー男の配ったのと同じ銘柄のものでこれは何か不吉なことでも起こるのかとどきどきしているといきなりの大音響で窓の外、遠く見える大きなビルが一つ爆破された.

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最後に仲間とのお別れ会をやってその中で山西省で良い仕事があるなら皆はここの仕事が終わったら行きたいという.非合法の炭鉱の仕事があって彼もそこで働いているが、良く人が死ぬ.出てくるときも死んだと危険を知らせ、それでも良ければ日当は良いので来れば良いという.宴が終わって外に出ると遠くの取り壊し中のビルの間に綱を張って綱渡りしているところが映し出される.変な形のビルが空に向けて発射されたのと同じく吃驚してしまう.彼の運命の危うさを語っているのだとは思いたくない.

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結局この映画の粗筋を書くだけに終始してしまった.二つの人捜しの物語であるがその双方に何か共通点があるかと思ったが何もない.長江の流れに同調しているゆったりとしたキャメラの動きしか解らなかった.何かが起こるのではと思われる物や事で、話の筋だけではいかにも単調な物語にサスペンスを加えているのかも知れない.

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