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青山真治「サッド ヴァケイション」水の誘惑

BeauMale
2011.10.7

プロローグ
この映画の出だしはどういうことなのか筋が追いにくい.主人公である浅野忠信ともう一人の男が海からやってくる船を待ち構えて、海を渡ってきたらしい船の船底に潜む男達を外に出す.どうやら中国からの密航者達のようである.かなり乱暴に彼らを外に追い立てるが、最後に殺された男がいてその傍らに男の子が蹲っている.死んだ男から金を奪い取り全員を外に出し、翌朝は彼らを働かせる工場に連れて行く.その時またあの男の子がいてその子は浅野が引き取った.

浅野のアパートには施設を出たり入ったりしているらしい辻香緒里の演じる娘と浅野と中国人の男の子の三人が暮らしている.その最初の場面は、辻香緒里が自分を指さしユリという自分の名を男の子に解るように云って、男の子はそれを反復する.

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ユリは今度は浅野を指さし何のゲームか気付いた浅野は健次と名を名乗る.男の子がそれを反復すると、

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次は男の子を指さすが男の子は無言である.同じ反復をもう一度繰り返して最後に男の子はアチョンと答えてそれぞれの名前が分かる.

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最初の水のエピソード
この映画を一度観たとき非常に面白く、何かを書こうと思ったが粗筋以外に所々の映像について語るしかない.何か主題はないのだろうかと、最初から頭の中で反復したとき、最初に一番印象深い画面は何であったかを思い出した.それが名前の認識ゲームのように反復して物語を動かしているのではないかと思ったら、その通りであった.

密航船を出迎えた浅野ともう一人は中国マフィアらしい男達に拉致されて、人目の着かない場所でヴァンから下ろされ、既に痛めつけられているもう一人は射殺されてしまう.浅野の方は子供を連れて行ったのはお前だなと云われて、子供がこのくらいの大きさになったら連れ戻しに行く、そしてお前を殺すといわれてその後どうなったかの映像はない.

道路上に大の字に寝ていた浅野は目を覚まして傍らの大きな川に服の儘入って行く.腰まで浸かりその上仰向けになって流れに身を任せてしまう.その洗礼こそが彼の運命を決するとも知らずにである.物語の進行から考えたら彼が服のまま川に入って行く必要は全くない.ただただいきなり水が恋しいとばかりに入っていき流に身を任すのである.恐らくそうして水に浮くことが彼にとっては快感なのであろう.何故快感かは最後に解ることであろう.ここではこのような事件が突拍子もなく起きたという事実が重要なのである.それがどういう形で反復され物語が進行するのかを以下見ていこう.

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浅野はハイヤーの運転手を生業にしているがある日キャバレーの女、板谷由夏演じる女をマンションまで送り届けるが気に入られて彼女の送り迎えの専属になり、子を宿すまでになる.

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次は宴会帰りの運送会社の社長、中村嘉葎雄である.筆者はこの役者が大好きである.この DVD を買うときも中村嘉葎雄が演じているというのも一つの動機になっている.兄の萬屋錦之介(中村錦之助)よりも好きな役者である.

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彼の運送会社「間宮運送」は脛に傷ある連中が勤めている.免許剥奪された医者とかヤクザに借金があるもの等々であり、中村嘉葎雄は誰に対しても対等に同じに接して好人物を演じている.

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そこに、宮崎あおいが働かせて貰いたいと紹介状を持ってくると、荷物に目をやり住む場所がなさそうだと見ると、社宅だがと自分の所のアパートに住まわせてやる.淺野忠信の物語とは別に彼女の話もあるがここでは省略しておく.ここで働くオダギリジョーからは悉く嫌みを言われ通しなのだが、その結末は後で書く.また彼女の行為や言動がいつも問題を引き起こすのであるがそれは省略する.

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最初の大雨
ある日のこと大雨が降る.その雨の水に導かれるように淺野の車は間宮運送の前に止まって中の様子を窺っている.先日中村嘉葎雄を送った際に彼の妻役の石田えりを見ているのである.そして彼女こそが子供の頃の彼と父を捨てて若い男とともに逃げた実の母親なのであった.

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石田えりは雨の中の不審な車を発見して夫に告げると、中村嘉葎雄はビニール傘を差して車に近づくが、車は立ち去ってしまう.

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夫から乗っていたのは先日のハイヤーの運ちゃんみたいだと聞いて、彼女はそんなはずはないというものの何かを思って虚空を見つめる.水の洗礼を受けたものが空から降る水とともにやってきた者の正体が彼女には解るようである.

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果たしてその翌日か数日後には淺野はやってきた.彼女と中村嘉葎雄の息子が最初応対に出るが母親に何の用だとくってかかるが、来ることが解っていた彼女はその息子を追い払い淺野を迎い入れる.淺野の恨み言には全く動じずにここで働けとあっという間に引き入れる.どんな器にも姿を変えて滑り込める水の威力である.働き出した淺野は、中村嘉葎雄の留守には代わりも務めるほどである.

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そんなある日同僚のオダギリジョーは淺野をある山に連れて行きその場所は珊瑚礁で出来ていてハワイから流れてきた、日本なんてその周りに出来た島で、人間も方々から集まってきたのだという話をする.淺野はそれには大いに関心を示す.併し男達のこうした話もすべて女 = 水に包まれることであろう.

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水の話とは関係ないが浅野忠信は母親騒ぎで恋人の板谷由夏とは暫くあっていなかったが、偶然再開して二人はそれを大いに歓びベッドに寝そべったとき傍らにある帽子を淺野はひょいと被ってみる.

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そして次にはその帽子を板谷由夏に被せてみるが、ゴダールの「勝手にしやがれ」でジャン・ポール・ベルモンドがジーン・セバーグに被せるようには上手く行かない.彼女の顔をばかっと覆った帽子は直ぐにも淺野に投げ返される.監督はゴダールを充分に意識しているだろうがテレもあって同じ演出はしない.

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義理の弟は突然現れた義理の兄によって自分が影が薄くなるのを怒っているのであろう、ある日高校生仲間とスパーマーケットで集団万引きするところを捕まってしまった.弟はオートバイのキーを取り上げられ謹慎状態である.

二度目の大雨
そんなある日また大雨である.今度は何をもたらすのであろうか.この晩の大雨は唯々雨が豪勢に降って淺野は外に誰かいるように思ったのか出てみるが誰もいない.フラッシュバックで昔の事件の映像が一瞬差し挟まれるが何も起こらない.

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翌朝のこと、頭を濡らした淺野は義理の弟の部屋に行く.塗れた頭のしずくは前の晩の雨ではないjかも知れないが、雨が降ったという事実が物語を動かしている.淺野は義理の弟にバイクの鍵を渡してここから出て行かせる.彼としては母親に息子を亡くさせて悲しませてそれが復讐だと思っている.

併し母親はそんな事は平気なのである.息子はお前一人になったので跡継ぎだから良い嫁を貰わなくてはとまで云ってくる.今ではユリもここで一緒に暮らしているが義弟は彼女を強姦して出て行ったのである.そのことで淺野が彼女に手を出していなかったことに母親は喜んでいる.

更に、淺野の恋人板谷由夏にも会って彼女が妊娠していることを知る.淺野もそれは聞かされている.母親は良い嫁だと喜んでいる.

良いことばかりではなく、この間、中国人の男の子は淺野のいないうちに中国マフィアが連れて行ってしまった.

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そんなある日事件は起きた.彼の車の前を義弟の運転するオートバイが出てきて彼を人気のないところに連れ出し金属棒で殺そうとするが、淺野に叶うわけがない.諦めたと思った淺野に義弟は後ろから殴りかかってきたが、再び金属棒を取り上げ怒り任せに打ち据えたら弟は死んでしまう.

弟の葬式には淺野の恋人板谷由夏も姿を現し、水はすべてを飲み込んでしまう.彼女も嫁として同居することになる.また、強姦のショックで施設に入ったユリも養女として引き取るのである.

刑務所に面接に来た母親から板谷由夏もユリも一緒に暮らしてお前の出所を待っている.子供が小学生になったときお前は帰ってこれるのだねという母親に、淺野は余計なことはするなと突っぱねるのであるが、

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妹のユリは父親と別の女の子供で、だから私は家を出たのだと云われて、淺野は今までの恨みは何だったのかとばかりにうなだれてしまう.更に続けてお前が板谷由夏もユリも子供も捨てられるわけはない、必ず戻ってくるよといって、まるで水がすべてを飲み込んでもう男は逃げられないというばかりに笑顔を見せる.これで映画は終わりだと思ったら水の強さを表す挿話がもう一つ付いていた.

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エピローグ
間宮運送はいつもの通り健在であるがある日のこと外にいた従業員が建物へと逃げてきた.中村嘉葎雄が門前に行くと何人かのヤクザがオダギリジョーを出せと凄んでいる.当のオダギリジョーは中で震え上がって、あれほどいじめていた宮崎あおいに慰められている.するとヤクザ達との押し問答の門前にシャボン玉が飛んできた.

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そのシャボン玉はユリが作っているものであった.最後に息を思い切り吹き込んだ巨大なシャボン玉が出来た.

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それがゆらゆらとヤクザ達の頭上まで飛んでいき、いきなり破裂したら大雨のように水が彼らにかかって水浸しにしてしまう.ユリも直系の女 = 水 なのである.男達の争いや世迷い言は全て飲み見込んでしまうのだ.

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この DVD はもう一枚おまけが付いていて、靑山真治監督のインタビューが載っていた.上のシャボン玉の話を観たとき監督は水の繰り返しを意識的だったのだろうと、感じてインタビューでそのことを喋るのではと思ったが、最初の水の場面はカッパ伝説のあるところで、異人 = 淺野忠信が最後は一つ場所に吸い寄せられるがそこには不在だという意味だといったことを語っていた.

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