viva cinema

ゴダール「気狂いピエロ」の素晴らしさ

BeauMale
2011.11.24

この映画は「勝手にしやがれ」より遙かに感動した映画であった.「勝手にしやがれ」は 1969 年の制作で日本での公開は 1960 年でまだ子供であったので理解できないでいたのだと思う.「気狂いピエロ」の方は 1965 年が制作年で、日本での公開は 1967 年.少年だか青年だかの七年は大きい.「気狂いピエロ」はよい時期に観られたと云うことである.いつものように疾風のように通り過ぎたこの映画の筋はよく解らなかった.当時フランス人の女性にフランス語の会話を習っていて、先生もその旦那さんも大の映画好きで、まだ当時は書物を出していなかったその旦那さんがそんなに偉い人だとは知らなかったが、「気狂いピエロ」を観た後の最初の授業はこの映画の話ばかりだったと思う.アンナ・カリーナが「私の短い運命線」と歌うのにジャン・ポール・ベルモンドが「君の腰の線」と言い返す画面の話で、腰というのがフランス語で何といっているのか解らなくて hanche だと教えられたのを憶えている.先生は滔々と感動を話すがこちらは感動を言い表せなく、あなたの感動しているのは解るが、日本人は感動すると黙り込んでしまう.といわれたことも覚えている.

そうなんだ、今回久々に DVD でだが観て当時よりも感動したのであるが言葉が出ない.何に感動したかというこの映画の内面ではなく外面性である.それは豊富な色であり、アンナ・カリーナのしなやかで何時も飛び跳ねている身体でありその外面性がベルモンドの書物を超えて行く.


書物から離れられないジャン・ポール・ベルモンドの登場で映画は始まるが、本屋の店先全体が平面的に現れてそこにベルモンドがいるだけである.併し目に着くのは色彩である.その赤と青を中心にした色彩が目立っている.

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次は自分のアパートでお湯の入っていない湯船でベルモンドがエリー・フォールの美術史を朗読して娘に聞かせているところである.映画を見終わってからフランス語書籍を扱っている店に行ったらこの本が山積みされていて、ベルモンドが読んでいるのと同じ、安い文庫本であったので筆者も買って読んだ.流れるような文体の本でだからベルモンドは朗読していると思った.でもそうではない.映画は書物を音声として表現するか活字そのものを映像として表すことしかできない.

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ベルモンドの妻はイタリア人で金持ちの娘であるがフランス語がイタリア語訛りであるが何故かアンナ・カリーナのデンマーク語訛りのフランス語ほどに可愛くない.その日妻の実家でパーティーがあって妻に早く行く支度をしろと煩く云われ、娘と残りたいというが友達のフランクが姪を連れてきてまだ学生で彼女が娘の面倒を見るから急いで支度しろといわれ渋々従う.筆者はどういう経過でアンナ・カリーナと南仏に向かうのだったかすっかり忘れていたが、その姪というのがアンナ・カリーヌに違いないと思ったらその通りであった.

金持ちの集まるパーティーはベルモンドには退屈である.面白いことに退屈な画面は赤や青のモノクロームで表される.あるいは色のとんだハレーションを起こしているような画面で表される.

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赤や青のものクロームの画面の中に通常の画面が出たら、ベルモンドは一人の老紳士に話しかけると、紳士は向かって左の赤い服の女性に通訳を頼む.ベルモンドの質問で彼がサミュエル・フラーだと解る.そこでベルモンドは彼に映画とは何かを尋ねる.「映画は戦場のようだ」、「愛だ」、「憎しみだ」、「行動だ」、「暴力だ」、「死だ」そして最後に「つまり感動だ」と一言一言赤い服の女性に通訳させる.物語の中で、果たしてベルモンドはサミュエル・フラーという名を知っているのだろうか?前に女房に急き立てられるシーンで、今「大砂塵」が掛かっていて勉強になると発言しているから当然ニコラス・レイは知っているであろうしサミュエル・フラーは同年配である.このシーン、一言一言が英語からフランス語あるいはその逆に行き来して面白い.また、右端の女性は全く静止しているが緑の服で通訳をしている女性の赤と補色で対比させている.

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パーティーを中座して帰ると云ってフランクから車の鍵を貰って出る際に女達が寄り集まっている大きなケーキに近づいてそれを手で取っては周囲の女性達に投げつける.これが一つの決別の合図である.外に出ると闇に花火が上がり「絶望」、「記憶と自由」、「失望 希望」、「失われた時を求めて」、「マリアンヌ・ルノワール」とナレーションが入る.「マリアンヌ・ルノワール」は家でベビーシッターをしているアンナ・カリーナの演じる女性である.

戻るとアンナ・カリーナは椅子で居眠りをしているのを起こして地下鉄がもうないので彼女を送ることになる.車の中の会話で二人は五年前からの知り合いであることが解る.またフランクの姪であるという触れ込みも出鱈目であることが想像できる.

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車内の会話に連続して画面が変わり水色のバスローブを着たアンナ・カリーナが真っ赤な鍋を持って室内を動くのをキャメラは追う.壁には、モジリアーニが掛かり、何丁もの銃が置いてあり、ベッドに撃たれて死んでいる男性が横たわっている.別の部屋のベッドにはベルモンドが寝ている.彼女のローブの水色と赤い鍋、冷蔵庫の上の濃い緑のグラス、ランプ型スタンドの傘やサイドテーブルや衝立の濃い赤などの色彩が映える.

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目覚めたベルモンド(フェルディナン=ピエロ)の「前に言っただろう.一生愛し合うって.」の言葉に彼女は「Jamais je ne t'ai dit que je t'aimerai toujour (あなたをずっと愛し続けるなんていったことない)」と応えて、その言葉で歌を歌う.この映画はミュージカルという側面もあるのだ.(音楽は下の YouTube で観られる.)

YouTube - Anna Karina - Jamais je ne t'ai dit que je t'aimerai toujour

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歌が終わると、ピカソ、マティス、ピカソ、ルノワールと会話の声が被さる空のショットが挿入され、

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次いで、ランプにピストルに本や恐らくピストルの弾丸の入った箱の画像、

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次はまたもピストルに彩り豊かな置物の空ショット、

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その後が、水色のベッドカバーに撃たれて横たわる男の死体の赤い血とが奥の赤いトランクと赤いマットレスの色彩に呼応している画面でアンナ・カリーナは薄いピンクの服に着替えている、部屋に置いてある武器や箱から殺された男もフランクも武器密輸の犯罪組織の人間であると解る.

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そこにフランクが戻ってくる.彼女はフランクの愛人であり、フランクをワインの瓶で倒して二人の逃避行が始まる.

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その逃避行の出だしが奇妙なカットの繋ぎ方をしている.最初、アンナ・カリーナの運転する車にベルモンドが飛び乗るところが出て来たかと思ったら、アパートメントのテラスから下を見るアンナ・カリーナの視線の先には密輸団の仲間らしい男達の姿が見え、

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二人は階段ではなくアパートメントの壁伝いに下まで降り、その降りる瞬間が映され、彼女は駐車場から臙脂色の車を出し、それに、飛び乗るベルモンドといった具合に、時間を前後させている.後々、似たようなこと、時間が吃るということが出てくる.全く同じ言葉が直後に繰り返されるのである.二人はこうして南仏へと向かう.

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時々絵画やポスターが空ショットで挿入され、これはベルモンドが何時も抱えている漫画の表紙である.これが出た後二人は車を燃やして痕跡を消すことにする.車が炎に包まれたとき莫大なドル紙幣が入っていたことをベルモンドは彼女に知らせる.

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車を無くして二人は川を越え、

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森を抜け逃避行は続けられる.

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結局また今度は白い車を盗んで旅は続けられるが、車に乗るとベルモンドは憂鬱になる.併し海が近づくと元気を取り戻して、見てろと云う言葉とともに車を砂浜の海岸から海に乗り入れ使えなくしてしまう.

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二人は浜辺で寝て月に住む男の話をしたり、その間月影が水面に映っていたり、

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ロビンソン・クルーソー宜しくベルモンドは鸚鵡を肩に止まらせ読書三昧、書き物三昧である.

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アンナ・カリーナはフライデイ・ガールと呼ばれるほどに海の幸を採るのが上手い.

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食事の画面でこの映画初めての大きなクローズアップでアンナ・カリーナが映し出される、波形の右に赤い色を配し日だlが我が青や緑で画面の美しさを際立たせている.それと同時に二人の最も幸福な生活が極点まで到達したことを表しているように見える.

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ベルモンドが海岸の岩の上で読書と書き物に耽っているとアンナカリーナが「何が出来るのか」「何をしてよいか解らない」と繰り返し叫びながら波打ち際を水音を立てながら近づいてくる.(下の YouTube ヴィデオ参照.)

YouTube - Qu'est-ce que je peux faire ?

そこで二人の会話.

ベルモンド:悲しそうだ
カリーナ:あなたは言葉で語る.私は感情で見つめてているのに.
ベルモンド:君とは会話にならない.思想がない 感情だけだ.
カリーナ:違うわ、思想は感情にあるのよ.
ベルモンド:それじゃ本気で会話してみよう.君の好きなこと してみたい事は?僕も言うよ.君からだ.
カリーナ:花 動物 空の青 音楽 分からない 全部よ.あなたは?
ベルモンド:野望 希望 物の動き 偶然 分からない 全部だ.
カリーナ:5年前に言った通りね 分かり合えないわ.

と云って、「何が出来るのか」「何をしてよいか解らない」と繰り返して去っていく.

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結局彼女はこの生活が嫌になっている.ここから出たいという.海も太陽も砂浜もうんざりだ、生きたいのだという.ベルモンドも致し方なく従うことにそのためには金が必要である.船が観光客を沢山運んできたからそいつらから巻き上げようと云うことになる.

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ここで街に向かうべく二人が歩み横移動があるのだが、これが奇妙なことに右から左に進む二人の姿が段々と下から画面の外に消えていく.これは何故なのかよく解らない.

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アメリカ兵が観光しているのでベルモンドはアメリカの軍人に扮してアンナ・カリーナは化粧と傘でベトナム娘を演じてピストル片手に、イヤー、とニューヨークとハリウッドしか言えないアメリカ軍人がベトナム娘を追い立てるという寸劇が好評で、貰った金の他に相手の持っていた札束も奪って逃げてしまう.

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戻ってからアンナ・カリーナは自分の掌を見て私の「生命線の短いこと ma petite ligne de chance」と歌い、ベルモンドは「君の腰の線 ta ligne de hannche」と歌い返してそれが海辺の林で歌われて、アンナ・カリーナが林の木々の間を踊りながら歌って回る身のこなしの美しさは圧巻である.(YoyTube にヴィデオがある.)

YouTube - Anna Karina - Ma ligne de chance

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そして二人は船でこれまでの場所を出ていく.その画面が縦の構図で美しい河面を奥から進んできた白いボートに赤いアンナカリーナの服が映えて船が近づくとキャメラは右にパンしながら船を追うと対岸は船着き場になっていて何艘もの船が繋がれている.

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所が船着き場にいたのは最初に殺して逃げてきたフレッドの仲間であった.彼女が言うにはパリで死に神にあって逃げ出して逃げおおせたかと思ったら交通事故で死んでしまうという気分だという.彼女は彼らのアパートメントに行きその間ダンスホールでベルモンドは待っているが、彼女は脅され隙を見て助けてくれとベルモンドに電話してくる.

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ベルモンドは助けに疾走する姿が上から映される.

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ギャングの所ではピストルを持った手を前に差し出しピストルが巨大に見えるように映されると、

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アンナカリーナは鋏を同様に前に持ってきて大きく見せるという面白い撮影方法が取られ小男のギャングと彼女がその武器で戦ったことが暗示される.

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ベルモンドが到着すると彼女は赤い服を残して既に姿はなく、小男のギャングが首に鋏を突き立てられ死んでいる.

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そこに二人のギャングが現れベルモンドは彼女の残した服を被せられ水責めの拷問が行われる.併し余りよく分からない理由で彼は釈放される.

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それからどれだけ時間が経ったか全く分からないが、彼は軍港であるツーロンで元レバノン王妃でフランスに亡命している老婆に使えていた.そこにアンナ・カリーナが現れるのである.これまでずっとスカートであったがズボンをはき船員帽を被っていてそれもよく似合う.小男のギャングを殺したのは自分ではないと言い張っている.仲間が来たのでダンスホールにベルモンドを探しに行くが行き違いで戻るとギャング達が出て来てベルモンドが殺されたものと思ったという.ツーロンで前々から探しているという兄フレッドに出会ったとのこと.

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その兄フレッドというのは海岸の砂浜で女性達のミュージカルの踊りの指導をしているが、ベルモンドはその兄という人物がギャングと取引する手助けをさせられるということになってしまった.

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双方の車が行き交う取引の場所で、それはフレッド側の罠であって、網で相手の車を動けなくしたり、

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アンナ・カリーナは照準機付きの銃で網で動けなくなった相手を撃ち殺して嬉々としている.

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ベルモンドは金を敵から奪って、躊躇するが、怪しまれるから急ぐというアンナ・カリーナに金を渡して遅れて波止場に着けば、

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フレッドとアンナ・カリーナは既に船に乗って港を離れたところである.兄だというのは真っ赤な嘘であった.

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がっくりした、ベルモンドは変な大男に出会う.男は大声で歌っている.「私を愛してくれますか?」と歌って最初の女性の腕を上から撫でたが拒絶で、次の女性は今度は下から撫でたが拒絶、三人目は上下から撫でたら承諾されそれ以来十年もの間その曲が鳴り響いている.聞こえないか?それとも私が変なのか言ってくるので、お前は変だといって立ち去る、これだけの話であるが、これに注目したのはジャ・ジャンクーが「青の稲妻」で監督自身が大声で「椿姫」歌う画面があるがあれはこれを引用しているのではと思ったからである.

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ベルモンドはアンナ・カリーナとフレッドの隠れる島を知っていて乗り込み二人を射殺する.

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その後顔を青いペンキで塗り立てるが、ゴダールがこの映画について随分血が流されますねと尋ねられ、血など一滴も流れない.赤いペンキだと応えたという話を思い出した.映画が如何に作り物かを語って面白い.この映画でベルモンドがこちらを向いて何かを言うのでアンナ・カリーナが誰に向かって話しているのだと訊くと、観客に向かってだと応えるか箇所があった.その後何回かアンナ・カリーナが観客に向かって語っているところがある.

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ベルモンドは黄色のダイナマイトを青い顔に巻き付けその上に赤いダイナマイトを巻き付け、この映画の主題とも云うべき三つの原色を合わせてマッチで火を点ける.このクロースアップが前にあった海岸でのアンナ・カリーナのクローズアップと対をなす.

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何馬鹿やっているのだとベルモンドはダイナマイトを巻いて目が見えないので導火線に手探りで火を消そうとした一瞬に爆発してしまう.

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その光景からキャメラは虚空を右に移動するとどこからともなくアルチュール・ランボーのこの詩が女性の声で聞こえてくる.

L'Éternité
Elle est retrouvée.
Quoi ? — L'Éternité.
C'est la mer allée
Avec le soleil

永遠
見つかった.
何がって、永遠が
それは太陽と一つになる海だ.

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女によって死ぬ羽目になるのは「勝手にしやがれ」とこの直ぐ後に出来た「男性女性」であるが、この映画の場合は相手を殺しているから少し違うのかも知れない.表面では悪女が男を散々利用して死に至らしめると見えるけれども、この映画の主題は色であり表層であると思えるので、表層が深層を常に追い越していることを感じているのに理解しなかった男が罰を受けたと思いたい.

もし映画を作るのであったらこういう映画が撮りたいものである.この映画が出来てから半世紀近いというのに全く古びたところがない.「勝手に逃げろ」以前のゴダールもこんなにも素晴らしいのである.

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