viva cinema

「パリ、テキサス」届けるための視線

BeauMale
2011.9.23

この映画がヴィム・ヴェンダースで観た初めての映画であり、パリはフランスの首都のパリではなくテキサスの地名であるということ以外は何の予備知識もなく劇場で観た映画である.その後何度もヴィデオや DVD で観て、「都会のアリス」や「アメリカの友人」や「ことの次第」や「ベルリン・天使の詩 」や「リスボン物語 」等々と並んで好きな映画である.初めて観たとき一体これは何が始まるのであろう、赤いキャップを被って、よれよれの服を着た髭だらけのやせぎすの男がただ一人とりつかれたように砂漠を彷徨っている.これからパリという場所が出てきて物語が始まるのだろうかと思っている中に、水が無くてうち捨てられたバーのような所で氷があってそれを口に含んだ瞬間にぶっ倒れてしまい.その地の小さな診療所に運ばれるが、何を訊かれても一言も喋らない.持っていたカードの番号に医者が電話すると、相手はロスアンジェルスの郊外の高台に住む弟であった.弟は仕事を中断して急いで駆けつける.

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併し彼は最初は何も喋らないし、この男が四年間行方不明で同時にその妻も行方不明で彼らのの子供を弟夫婦が育てていることが解る.一体この四年の出来事は何があったか尋ねても応えない.彼は、眠らず、食べず、話さずなのである.一度は逃げ出してしまうし、手の掛かる届け物なのである.弟は彼を息子の元に届ける義務を負っていると自認している.その中喋って食べるようになるが、飛行機は一度搭乗しても降りたいと行って離陸前に下ろされ結局車でロスアンジェルスに向かうことになるが、レンタカーはさっきと全く同じ車でないと嫌だとだだをこねる.運転を代わるから寝てろと兄に言われて寝ていると、何もない場所で車は止まっている.ここがパリで妻と一緒に買った土地だという.

何とかロスアンジェルスの高台の弟の家に戻って、実の息子ハンターと出会う.二人とももじもじして言葉を掛けられない.ハンターは弟を父と思い、そのフランス人の妻でハンターをフランス語訛りでアンタ-と呼ぶ女性を母と思っている.勿論本当の父母の存在を知らないわけではない.翌朝妻が息子を車で学校に送るとき、実の父は帰りは自分が行って歩いて迎えに行き歩いて帰ってくると云うと、ハンターは猛烈に嫌がるが、この母親から強くそうしろと云われる.学校の帰り校門の前の道で実の父は待っているがハンターは友達に耳打ちして友達の車で帰ってしまう.

この「パリ、テキサス」という映画は弟が兄を息子の元に届けて兄は息子を妻の元に届けるというリレーのような物語であるが、簡単には人一人を届けられない.届けることが完了するには視線を交わさなくてはならないのである.ではどうやってそれが成立するのか.その晩、弟は四年前に海辺で撮った 8mm のホームムーヴィーを編集したから見てくれという.妻は、彼が嫌がるのではではないかと心配するが、彼自身は観たいという.

映画の中に出てくる手持ちの 8mm フィルムの映画はいつ見ても生き生きして大好きであるがこれもそうである.父と三歳の息子が桟橋で踊っている.

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彼と、妻のナスターシャ・キンスキーが抱き合っている.

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それを観る父と息子は視線は平行に同じ一つの映画に向けられているが、時折り相手は画面をどう見ているかちらちらと観察しているが、決定的に相手と視線を交わす瞬間が訪れる.これがないと届け物は完成しない.二人が微笑みを浮かべて相手を見つめるのである.

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実際、翌日父が迎えに行くと、息子は、友達に、運の良いことに父親が二人いるのだ、まあ気にするな、と云って道を挟んでお互いを見ながら歩いて帰ることにする.駐車中の車の陰から出てきた父親が後ろ向きに歩くと、

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息子はそれを真似る.

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急速に二人の仲がよくなると、弟の妻は嫉妬し出す.そこである朝内明け話をする.実は彼の妻、ナスターシャ・キンスキーから失踪後に電話があって毎月お金を送るからハンター名義の通帳を作ってくれと云われ、毎月決まった日に金額はまちまちだが必ず振り込まれているという.振り込み銀行はヒューストンのこれこれ銀行だという.それを聞けば彼は妻を捜しに出て行くと思ったのであろう.

しかし、そうはいかない.弟夫婦の仕事はもう終わりで出る幕がない.ここで第二の人を届ける仕事の始まりである.父は息子に、これから母親を探しに行くというと、自分も一緒に行くと言い張る.途中、ハンターに弟夫婦に電話させるが、煩く云ってくるのでどうしようと父に合図すると父は切ってしまえと身振りで示してこれで彼らはお役ご免である.

ハンターの忠告でトランスシーバーで通信しながら、近代ビルの乱立する都市の銀行でお互いが見える距離であるが二手に分かれて見張ることにする.その日が振り込みの行われる日なのである.見逃したらもう一月待たねばならない.見張っている中に二人とも寝てしまう.所が奇跡が起きた.息子が目を覚まして傍らを見ると真っ赤な車が止まっていて横顔しか見えない金髪の女性が運転いている.父に渡された写真を見るが彼にはそれが母親に違いないと直感している.観るる観客にもそれに違いないと直感される.

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大急ぎでトランスシーバーで父お起こして二人の追跡が始まる.行き着いた先はうらぶれたビルの裏手の駐車場で、父はそこがどういう所か解ったのであろう.息子にロックして車を出るなと言い残してそのビルに入っていく.中は女達がいてまさに風俗店である.裏口から入っているので女達の控えている広い部屋で、女達からは文句を言われないので辺りを見回すと別に部屋がある.その部屋を覗くと向こう側にカウンターがあってナスターシャ・キンスキーと思しき女性が向こう向きで座り、横に怖いお兄さんがいる.この男、ジャームッシュの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」に出ていたジョン・ルーリである.彼が父親を睨みつけ、ここはお前の来る場所ではない、女が欲しいなら下に行けと凄まれてすごすごと引き返して向きを変えるところでキャメラは切り替わり、

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再びカウンターの方にキャメラが向くと、騒ぎに気付いて何だろうと振り向いたのが紛れもなくナスターシャ・キンスキーの美しい姿である.彼はそれを見ることが出来なかった.観客は観客の特権で見ることが出来た.

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下の階に行くとカーテンの掛かった幾つもの小部屋が並んでいて一つに入ると硝子で仕切られ向こう側にも部屋があり電話機で通信するという仕組みの部屋である.受話器を取り上げると好みを聞かれる.年齢を云うとやってきたのは彼女ではなかった.行き当たりばったりに別の小部屋に入ると彼女がいた.向こう側からは鏡になっているのでこちらは見えない.見えないということは視線を交わすことが出来ないということである.

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その晩、彼は酒を飲み息子からそんな臭いもの飲むのは大嫌いだと云われながらも、翌日を期す.彼が弟に砂漠から連れ出されて連れて行かれるのはロスアンジェルス郊外の高台の家であった.今度は何故かもっと高い場所でなくてはならない.高層ビルのホテルに息子を置き、必ず母親が行くようにするからそこで待っているように録音したメッセージを息子に残して行く.息子はそれを聞きながら窓辺に座っている.

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男は同じ風俗店に戻って彼女が服を黒に変えて現れる.彼女はどんな相談でも話してくれと云うが、ある男の話を聞いてくれと云って、正視できないのか後ろ向きで受話器で話し出す.昔女は十八ぐらいで男はもっと年嵩でそれはそれは幸せに毎日を暮らしていた.男は彼女と一時も離れられなくなって仕事を辞めいつでも一緒にいることになった.金がなくなるとその時だけ仕事に出る.そんな生活に彼女が文句を言うようになると、彼は彼女が他に男がいるのではと疑いだした.その内彼女を縛り付けるようになってと話して行くにつれて彼女は自分のことだと気づき涙を流し出す.夫が来ているということが解るが視線を交わすことが出来ない.

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まるでそれを暗示するかのように下のような演出には驚きである.彼の0硝子に映る顔が硝子の向こうで何とかこちらを観ようとしている彼女の顔に一瞬であるが重なるのだ.

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そちらの明かりを消して見てくれといって明かりを消させ、彼は傍らのスタンドの明かりで自分の顔を照らす.こうして、二人の視線が出逢ったのである.彼女の方も告白をする.常にあなたのことを思っていて、ここに来る客と話すときもあなたを重ねていたという.彼はハンターも来ていてといるホテルと部屋番号を教え必ず会いに行くことを約束させる.

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彼女がホテルに行くと二人は一瞬見つめ合って、ハンターは母親に抱きつき、母親は、同じ動作があの 8mm に収まっていたのだがくるくると回る.

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父はどうしたかというとビルの外から双眼鏡でその姿を見て届け人の仕事が無事完了したというばかりに車でその場を立ち去る.この物語は仕事を完遂したら用無しと規則は厳しいのである.砂漠ではなく近代ビルの建ち並ぶ中を去って行く.

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何故より高い場所に運ぶのかはよく解らなかったが、二つとも仕事が完成するにはスクリーンが必要であった.最初は 8mm 映画のスクリーンで二度目は風俗店のマジックミラーというスクリーンである.それが映画そのものに対して何かを言っているのだろうという気がするがそれが何かは解らない.

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