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ジョン・カサヴェテスの「オープニング・ナイト」

BeauMale
2012.3.20

カサヴェテスはニューヨークのインディペンデント映画を確立したと云われ、作品はこの十二本と数は少ないがどれもが傑作と云って良い出来映えである.昔渋谷でカサヴェテス特集があってこの殆どが上映されたと思うが、この殆どは観ている.「アメリカの影 (1959)」、「よみがえるブルース (1962)」、「愛の奇跡 (1963)」、「フェイシズ (1968)」、「ハズバンズ (1970)」、「ミニー&モスコウィッツ (1971)」、「こわれゆく女 (1974)」、「チャイニーズ・ブッキーを殺した男 (1976)」、「オープニング・ナイト (1978)」、「グロリア (1980)」、「ラヴ・ストリームス (1983)」、「ピーター・フォークの ビッグ・トラブル (1986)」.彼の映画の多くに登場するジーナ・ローランズは彼の実の妻であり、もう一人多く登場するのが刑事コロンボでしか知られていないピーター・フォークであるが、彼は多分コロンボで稼いだ金をカサヴェテスのためにつぎ込んだ.この映画でも二箇所出演しているところを見つけた.

ゴダールはどの作品でだったか忘れたが、カサヴェテスに捧げている.アルドリッチの「カリフォルニアドールズ」ということもあるが、ヴェンダースが「ベルリン天使の詩」でピーター・フォークを起用しているのは偶然ではないであろう.、カサヴェテスの作品どれも好きであるが一番観たかった「ラヴ・ストリームス」は日本では DVD が出ていない.彼の作品の魅力は何処にあるのか目ははっきり認識しているのにこれと指摘するのが難しい.大好きな作家なのに、難儀なことである.

予告編

"Opening Night" trailer
YouTube - Trailer Opening Night


ジーナ・ローランズが有名な大女優として登場する.くわえ煙草でお付きがの女性が髪の毛を直したり別の男性が舞台の袖でバーボンを貰って飲む.

Opening Night Hosted by Picasa

次の画面は技師が幕を開ける機械を操作する手元のシーンで次に幕が真上に登っていくので驚かされる.そして観客が映し出され、

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客席側からの舞台のシーンへと変わり舞台中央奥の階段の上の踊り場で男が座り、そこにジーナ・ローランズが荷物を沢山抱えて左からドアの音を立てて入ってきて舞台を横切り右奥の扉を開けて荷物を置きまた戻ってくる.階段の上にいた男がカサヴェテスその人である.男優役として登場している.階段の上と下で言葉のやりとりがなされ、カサヴェテスは降りてきてジーナ・ローランズが階段の上に行き会話は続けられ、その間ずっとキャメラは客席に固定されている.そしてタイトルの文字が出てバックは黒に変わる.そのタイトルの役者の名前がそれぞれの役者のクローズアップが茶色のモノクロの粗い写真付きで表示され、白黒の初期作品、「アメリカの影」の画面を想起させる.

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そしてその画面に被って、ジーナ・ローランズの独白が聞こえこの映像になり愛に人々は飢えていること、十七歳の頃は素直で何でも出来たが今はそうではないと、白黒の観客の上をこの女優の半透明の像が上へと移動いていく.

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これは舞台が撥ねて楽屋の出口である.サインを求めるファンで埋め尽くされ、ジーナ・ローランズが出ていくと歓声と共にもみくちゃにされる.

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その中に異常な行動を取る娘がいる.好きだと唸るような叫びを上げてジーナ・ローランズに抱きついて来る.サインするとき彼女の名前がナンシー(ローラ・ジョンソン)で十七歳と云うことが解る.

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雨の中主要スタッフと主要俳優が大きな車に乗ってこれからレストランでの食事であるが、車にさっきの娘が張り付くように纏わり付いて窓をたたき頻りにジーナ・ローランズに投げキスを送る.様子が変だと、ジーナ・ローランズは窓を開けさせ一言二言労りの声を娘に掛けてやり娘はそれで納得した様子であった.

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一同の車が立ち去ると見送っていた彼女が他の車にはね飛ばされる所がロングで映される.この光景はジーナ・ローランズの目にも入っていた.この雨の中の一瞬の出来事を撮ったこのショットも素晴らしい.

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そのままレストランに行かずにジーナ・ローランズは自分の住むホテルで降り、食べる気がしないと、カサヴェテスに従いてくるように云い、自分の部屋に招じ入れる.

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彼女はこの居間が広大なホテル住まいである.この広い空間は今後何度も出てくるが奥でジーナ・ローランズが一杯飲めと誘っている.こういう大きな空間での縦の構図というのは不思議な印象を与える.

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皆が車で待っているし腹が減ったというカサヴェテスに彼女はあの娘が死んだというのによく食べていられると不満を漏らす.

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彼が近づくと彼女は彼に抱きつき唇に接吻をする.併しカサヴェテスは彼女は女ではなく女優だし人間関係も、愛もセックスも感情も何も気にしていない、彼は端役だし人気もないので相応しくないと云って出ていく.彼女は一人残され酒を飲む.この二枚で示したクローズアップ、この後もクローズアップは多用されこれはカサヴェテスの特徴の一つである.

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ここは舞台監督マーニー・ヴィクター(ベン・ギャザラ)の家で、妻ドロシー(ゾーラ・ランパート)は女優でジーナ・ローランズの代役を頼まれている.彼自身あの芝居の退屈さを話している.このシーン、妻が夫の背中から脇の下に伸ばした手のグラスに夫が氷を入れそれも左手でウィスキーを注ぐ所だが随分変な演出だが面白い.良くもこんなシーンを思いつくものである.

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そこにジーナ・ローランズからの電話である.彼女は寂しいのである.ここでも面白い演出.妻は早く電話を切れと様々な身振りをしてみせる.彼女はこの後ずっと芝居する一行と供にいるが常に目立たない存在であるのにここではその身振りはおかしく噴き出してしまう.夫は妻の前でジーナ・ローランズに君を一番愛しているということまで云わされる.

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翌日の舞台稽古は大荒れである.ジーナ・ローランズもこの芝居が嫌なのである.女性の老いをテーマとした退屈さに我慢が出来ない.彼女自身の現実と照らしてそれをなぞるようなことの何処が面白いのか希望がないと云って彼女に年齢を云わせたがる劇作家の女性サラ(ジョーン・ブロンデル)と対立する.そして楽屋に戻ってからも落ち込んでいる.

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その姿がこんなにも美しいクローズアップで撮られるのである.

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何の気なしにひょいと鏡を見る.

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そこに映っているのは目の色で解る通り彼女ではない.

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このシーン鏡なのか鏡でないのかはっきりしないが二人の女性が映されるのである.

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掌を差し伸べると相手の掌も伸びて鏡像のように重なるが映っているわけではない.

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この娘は車に撥ねられたナンシーであった.

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超クローズアップで二人の姿が映される.ジーナ・ローランズが微笑むと、

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ナンシーも微笑む.

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目だけの超クローズアップ.

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ナンシーも同様に目だけのクローズアップだが斜めに映しているので左右の目のピントが合わない.これらのクローズアップはまさにカサヴェテスである.

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しばしの幻想的場面はノックの音で打ち破られる.入ってきたのは劇作家で彼女に説得を試みる.何度も彼女の年齢を尋ねるが、そうした考え自体が嫌いな彼女は話を聞かずにさっきの娘の姿を求めて周りを見回すばかりである.

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このシーン特に意味があるわけではないが劇場の正面だと思うが舞台監督とその妻がいて奥に前と同じ車が止まっていて通行人とその子供達が巫山戯あっている.こういうシーンが挿入されていることもカサヴェテスの魅力ではないかと思う.ゴダールのように多いわけではないが時偶こういったシーンが挿入される.

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次の公演で彼女は台詞を替えて終った.それについて、舞台監督はその台詞が良いというものの、劇作家の手前彼女に怒る.劇作家は大いに不満を持ている.もう一人プロデューサーのデイヴィド(ポール・スチュワート)はこの男だが彼女の慰め役であるが舞台監督は悉く彼の干渉を嫌がる.

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劇作家は彼女と同じホテルの下の階に住んでいるがそこで話をするシーンの出だしが縦の構図でこのように映される.楽屋の舞台の後ろの狭い通路では縦の構図しか取りようがないがここは態々そのシーンを作っている.話の内容はまたしても劇作家は相手の年齢を訊きたがるが彼女は応えず、この役は自分より年上を想定していてそんなのは演じられないという.だったら役を降りるのかの問いに、降りはしない、歳を取るのは嫌なことだがそれがどうしたのだというのだ.私は年齢を無化したように演じたいと主張する.この劇作家は年齢差別する日本人みたいな奴だ.彼女はナンシーのことを話してしまう.

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そのまま自分の部屋に戻るとプロデューサーが来ていた.併し後から舞台監督が来るとプロデューサーはまたどやしつけられるのかと出ていった.舞台監督は彼女の演技を散々腐し彼女は年寄りの主婦ではなく年齢無しで演じるべきだと云って奥の部屋に籠もってしまう.これは彼女が顔を洗っているのかと思ったら、

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ナンシーであった.

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無体監督がと部屋の戸を開くと二人の姿が見えるが彼には見えていない.ジーナ・ローランズは舞台監督に私が失敗して名声に傷がつくのを恐れているのだろうと云ってやる.

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次の舞台では彼女は幾つか台詞を変えただけではなくもっと大胆なことをする.一つの幕で全体をアドリブで変えて憂鬱な舞台を喜劇にしてしまう.舞台監督は慌てて途中で幕を下ろすが彼女の剣幕でまた元に戻す.この舞台はアドリブであったので観客の反応は笑い転げたもののそれ程0芳しくなかった.そしてあの三人との談判である.その中、劇作家はオカルト趣味があるらしく彼女を霊媒師の所に連れて行くと霊媒師はその娘は悪い子だという.途中で彼女は厭気が差して出て来てしまう.

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ホテルの自室に戻るとナンシーが出て来てジーナ・ローランズに襲いかかり目の周りに傷を作るが娘を打ち負かし、下の部屋の劇作家の所に逃げ込みあの霊媒師の所為で悪化したから別の霊媒師を紹介しろと云う.

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別の霊媒師の許を訪れたらまだ何もしていないのにナンシーが霊媒師の後ろから出て来た.

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ナンシーは顎を突き出して非常に威嚇的に向かってくる.

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そしてそのクローズアップ.

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この画面鏡像のように見えるが、手前がジーナ・ローランズで鏡像ではない.併し意識的に鏡像のように見える画面作りだと思う.

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戦いが始まると、ジーナ・ローランズの方が強い.このナンシーは彼女の若い頃の鏡像なのであろう.経験を積んだ現在の方がずっと強いのである.

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倒れた彼女に手当たり次第にあらゆるものを投げつけて彼女は死んでしまう.

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物音に駆けつけたボーイが見ると彼女は不在の相手にものを投げつけていた.

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その翌日は、ニューヨーク公演の初日である.前の晩に彼女はカサヴェテスの許を訪れた.アップの顔は落ち着いている.

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彼女が芝居の内容を替えて終おうとしているのだと悟って自分のようなランクの役者ではそれは出来ないと云ってジーナ・ローランズを帰らせるが、直ぐに彼女は戻ってきて彼は部屋に入れる.それ以上は映されない.彼の姿もアップである.カサヴェテスは監督した作品より役者として出演した方が多くこんなに男前なのである.

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オープニングの当日正装した男女が芝居小屋には沢山やってきた.奥の白い壁の前にはピーター・フォークの姿が見える.ピーター・フォークは昨年の夏亡くなったが、特集はなかったと思う.カサヴェテス特集でもまたやってくれるかと思ったのであるが.

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観客が沢山入ったが幕が中々開かない.手拍子を打つものまで現れる始末である.

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出演すると電話はあったがジーナ・ローランズが現れないのである.プロデューサーも劇作家もこれで名声に傷がつくと諦め気味である.

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皆が諦めかけていたときに彼女が現れた.しかもぐてんぐてんに酔って一人では歩けないほどである.この縦の構図一番奥に舞台監督が待ち構え、彼の指示で彼女に自分一人で歩かせろと云われて信望厚いジーナ・ローランズを誰しもが助け起こしたいが彼女は何度も転びながら楽屋に辿り着くところである.

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最初の幕は舞台の後ろの扉からでその扉が面している舞台裏の通路でさえこんな調子なのである.併し最初の幕は男優の咄嗟の判断もあって問題なく演じられた.

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そして最後の幕は昨晩周到に打ち合わせが出来ていたようにそこだけ観ていても笑い出す程おかしい見事な喜劇に変えられていた.これは幕が下りる直前のシーンで友情の印の挨拶だと云ってお互いがすれ違うときに相手を持つというギャグで幕がおり、舞台挨拶のためもう一度幕が上がったときも同じ格好で観客は大喜びである.まるっきり違うので席を外したプロデューサーも劇作家も気になって戻ってきて最後まで観て出来の良さに満足であり、打ち上げの祝賀会にも参加する.

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観客はスタンディングオベイジョンでその感激を表明した.

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祝賀会でスタッフ一同からジーナ・ローランズに花束が渡されその後最初にキスを送るのはピーター・フォークであった.

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この映画圧倒的にジーナ・ローランズの映画である.勿論カサヴェテスの演技も素晴らしい.カサヴェテス監督もルノワールのように自由自在にその場その場の撮り方を自由自在に操っていて、ここが特徴だという所はクローズアップぐらいしか見付からない.この映画は二時間を越えていて長い映画であるが時間を忘れて見入ってしまう.兎に角カサヴェテス映画は素晴らしいのだ.

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