viva cinema

川島雄三の「女であること」の冒頭の素晴らしさ

BeauMale
2014.10.22

川島雄三の「女であること (1958)」である.この監督は四十五歳という若さで亡くなりその生涯に 51 本もの作品を残し、筋萎縮性側索硬化症という難病に罹っていたが作品の多くが奇想天外の喜劇であった.何かしっちゃかめっちゃかといった映画なのだが、幾つかの映画はもっとおとなしい普通と云ったらよいのかそういうドラマも作っている.「雁の寺(1962)」とかこの「女であること (1958)」はそのおとなしい部類の映画である.この映画全体的に傑作であるが滑るような冒頭の素晴らしさを書きたくなった.


タイトル前に大阪の街を自転車に乗った娘があちこちに行く様子が後ろ姿で短いカットで重ねられその娘に道行く人が大阪弁で声を掛けその娘は久我美子演じる飛んでいる大阪娘だと後で分かる.これらのショットも驚くショットである.猛スピードで大阪の町を自転車で疾走する彼女の顔は決して出さない.銀行に立ち寄り中に入っていく下半身だけ映され、また自転車で駆け去っていく.その間ずっと大阪弁で声を掛けられそれに彼女は応えていく.

Hosted by Picasa

Hosted by Picasa

Hosted by Picasa

Hosted by Picasa

次に女装の女の顔のアップでこの人物が「女であること」と歌い出すとタイトルが始る.タイトルが歌の終りと共に終わって最初の画面、大きな川が映り河面には何艘ものボートが浮かんでいるのが見える.

Hosted by Picasa

カットが変わると少し引いて同じ川が映るが右にパンしていって高台の家のテラスが映る.

Hosted by Picasa

Hosted by Picasa

そこでカメラは止って小鳥の鳴き声がするとの木に吊された鳥籠が映る.切り返しで映されている.

Hosted by Picasa

そこに何かゴーという音が被さってくる.切り替えされて空には戦闘機の編隊が五・六機も急降下してくる.一体これは何なのか後にも説明はない奇妙な光景である.奇妙以上に異様な光景である.

Hosted by Picasa

今度はもう一度鳥籠がアップになったかと思うと女性の手が伸びてきて鳥籠を下ろす.

Hosted by Picasa

切り替えされ篭を下ろした女性が怯えるように鳥籠を抱えて奥に行く.その女性の様子からさっきの戦闘機は実在であったと思える.基地の近くの町なのだろうかというしか説明のしようがない.

Hosted by Picasa

彼女の名を呼ぶ声に立ち止まると彼女が香川京子であることが解る.

Hosted by Picasa

彼女の名を呼んだ主は目覚めて蒲団から起き上がった原節子で香川京子の怯えた様子に心配しながらどうしたかを尋ねる.香川京子は今朝も父が殺される夢を見たと云い、先生はもうお食事ですと答え外は風が強いという.

Hosted by Picasa

原節子は眠いと云いながら羽織を上に羽織って襖を開けるうと香川京子の姿はなく奥の階段を見上げる.その姿がロングで捉えられる.

Hosted by Picasa

そして風の音が聞こえるとバストショットになって原節子が振り向き髪の毛が風に揺らぐ.この瞬間の素晴らしいこと.

Hosted by Picasa

そしてさっと画面が変わって台所の中からの映像で香川京子が扉を開いて入って来ると中で食事を作っている女中の中北千枝子からこれお願いしますと紅茶のポットを渡され頷く香川京子はポットの廻りを布巾で拭って下向き加減になるとカット.

Hosted by Picasa

小鳥の鳴き声が入っていきなり新聞の紙面が「子供一人の場合が一番多い 家庭裁判所で扱った離婚の数」という大見出しが目に入り新聞を見ているのは香川京子だと思わせられているので彼女とどう関係があるのかと思った瞬間カット.

Hosted by Picasa

次のカットは二階の食堂で眼鏡を掛け新聞を読む森雅之で、何だ新聞は彼が読んでいたのだと思うところに香川京子が紅茶のポットを持ってフレームインしてきてお茶を淹れると森雅之は彼女にこの記事切り抜いてくれと頼む.彼女がハイと返事をして新聞を受け取り記事を見ながら奥に向かうと、森雅之は香川京子の小鳥が良く鳴いているねと云うと、彼女は振り返り、朝早くからお邪魔でしょうかと詫びる.森雅之は朝から鳥の声で目を覚ますのは良い気持ちだよと云う.そしてカット.

Hosted by Picasa

次は原節子が洗面所で顔を洗うシーン.

Hosted by Picasa

今度は二間続きの畳の間で森雅之が出掛ける準備に洋服ダンスからスーツを出しているところに原節子が来て寝坊して済みませんと彼にスーツを後ろから着せる.

Hosted by Picasa

そのまま二人は書庫に向かい森雅之が持って行く書物を撰ぶが原節子が香川京子が今朝も悪い夢を見たと云うと、彼女の父が死刑囚で森雅之が担当弁護人、娘香川京子は預かっていると云うことが森の言葉で解る.

Hosted by Picasa

二人が日本間に戻り香川京子が見ちがえるように顔色が良くなったと話しているところに廊下を行く香川京子に原節子は気付いて今日も出掛けるのかと声を掛ける.頷く彼女にこんな酷い風の日にというが気をつけますという返事、それに対して森雅之は一緒に出掛けようかと誘うが彼女に断られ、原節子はまた振られたと森雅之をからかう.ここのシーンは幾つもの切り返しショット、バストショットになったりで素晴らしいリズムである.

Hosted by Picasa

次の画面は香川京子が外に出て風が庭の草花や木の葉を揺らし彼女の髪も風に吹かれるところがロングショットで、庭を出た所で立ち止まって化粧を直すところでバストショットになる.彼女が男に会いに行くのだろうと想像できる.

Hosted by Picasa

次は森雅之の出勤を原節子が見送る.彼は自家用車で出掛けるが、香川京子は遠慮してどうしても車に乗らないのだというと、原節子は彼女も隠しておきたい秘密があるのでしょうと云うのに、森雅之は彼女の秘密は裁判で洗いざらい出ているだろうというが原節子はだから自分だけの秘密を持ちたいのだという.

Hosted by Picasa

画面変わって小鳥を売る店で香川京子は新しく一篭買っている.想像通りそこに学生服姿の石浜朗が奥から駆けてくる.彼は彼女の恋人で法科の学生であるが彼女が高名な弁護士の家にいることを羨ましがっている.

Hosted by Picasa

二人はデパートの屋上のような所にジュースを飲みに行くが突然何かの事件らしく人々が下の見える柵に押しかけるので二人も駆けつける.何が起きているのかは一切映されない.人殺しだという声も聞こえる.何を見たのか香川京子は気分が悪くなって人中から抜け出す.

Hosted by Picasa

香川京子はふらふらと倒れ込み石浜朗は手を添えているが何が起きたか分からない様子である.

Hosted by Picasa

そして冒頭からここまでの息を飲むようなシーンの連続に句読点を押すように鳥籠が映される.

Hosted by Picasa

鳥籠は正に句読点で段落を表しているようで凡そ十分ほどの画面の中にこの物語の登場人物の半分が手際よく紹介されるのである.ここまで見たらもう止められない傑作と思うほか無い作品である.

この後は最初に自転車で疾走していた久我美子が東京に来て彼女は女学校時代の原節子の友人の娘で家出して森雅之と原節子の家に転がり込む.彼女はトラブルメーカーで一家に波風を立て香川京子も家を出、またもう一人の主要人物原節子の結婚前の恋人三橋達也も登場してドラマが始る.この物語の終りまで書こうかと思ったがここまでで止める.

top