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ドライヤー「ミカエル」拒絶の後の承諾は美しい横移動を生み出した

BeauMale
2011.11.7

カール・テオドア・ドライヤーは 1989 年生まれだからサイレント映画から出発している.同年生まれはチャップリンである.F・W・ムルナウが 1888 年生まれで一つ違いである.フリッツ・ラングが 1890 年、エルンスト・ルビッチは 1892 年、ジョン・フォードは 1894 年、同じ年にジャン・ルノワールが生まれハワード・ホークスは 1896 年とリュミエール兄弟が 1895 年に映画を発明したその数年前に生まれた監督はきら星の如くにいるのは驚きである.当然ながらこれらの監督はサイレント映画から出発している.残念ながらチャプリン以外のこれらの監督のサイレント映画は殆ど観ていない.このカール・ドライヤーのサイレント映画はこの「ミカエル(1924)」が初めてである.この映画は二十年以上行方不明であったのが 1950 年になってベルリンで発見されたという話である.この「ミカエル」の DVD は幸いなことに弁士なしで字幕だけで見られた.

筆者はこの映画こてこての表現主義の映画で「カリガリ博士(1919)」やムルナウの「ノスフェラトゥ」のようなものかと思っていたがそうではなかった.表現主義の映画の特徴は白黒の対比が強く壁に人物の影を映す効果を多用して役者の化粧は濃く、演技が大袈裟である.フリッツ・ラングの「メトロポリス」でもエーゼンシュタインの「戦艦ポチョムキン」でもその傾向は強いが「ミカエル」全く違っている.トーキー映画にしても可笑しくないほど慎ましやかである.尚この作品はドライヤーと同じデンマークの作家 Herman Bang のモネまたはロダンをモデルにした同名の小説を忠実に映画化したものだという.

最初の画面は巨匠であるゾレの屋敷に来客が集っている広い居間で壁には彼の絵が廻り中架けられているところがロングで映し出される.

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最初にゾレの養子となっている美形の若者ミカエルが腰から上のショットで紹介される.

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手に長い煙管のようなパイプを持ち口から煙草の煙を吐いているのが巨匠のゾレで、彼が絶対に売りたくないというアルジェリアのスケッチを鑑賞しているのがジャーナリストで彼の親友で常に彼に忠実な男である.

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ミカエルに語りかけるのは公爵で彼もこの家の常連である.公爵はミカエルにどういう経緯で巨匠の専属モデルとなったか尋ねる.

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するとフラッシュバックで四年前に作品を見て貰いにゾレの許を訪れると、作品はお話にならないと追い返されそうになるが、ミカエルの美貌に惹かれたのであろう、巨匠は君を描きたくなったがどうだろうと持ちかけてきて彼は二つ返事で承諾して、ミカエルをモデルにした作品が次々と大評判になったのである.ミカエルはそのまま養子として迎えられこの屋敷に同居する.

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客として親友のジャーナリストと若い公爵が来ているがもう一組のブルジョワの夫婦が登場する.実は公爵はこの妻を恋しているのである.この物語は二重の不倫を描いているのである.こちらについては書かないが、夫と公爵は決闘にまで到る.

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以上の来客四人に食事が振る舞われその四人に巨匠ゾレとミカエルの六人が食堂で丸い食卓を囲んでの晩餐会、キャメラはバストショットの切り返しと横移動で全員を映す.食事が済んで客が帰った後、これはさっきの公爵とは関係ない公爵夫人が自らの肖像画の注文にやってきた.実はもっと前に玄関口まで来ていたが、オペラが始まる前にもう一度来ると云っていたのである.その時、ジャーナリストとこの屋敷の執事が、公爵夫人は金銭的に困っていて先生に絵を描いて貰えば信用が出来ると陰口を利いていた.

巨匠は注文で肖像画は描かないと断るのだが、ミカエルの場合と同じに公爵夫人の美貌に心惹かれて承諾する.この繰り替えされた拒絶と受諾は何が生まれるのかもう分かったようなものである.

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巨匠はミカエルに電灯を持ってこさせて彼女に自分壁面を飾り立てる絵をを見せて回る.ミカエルが裸体で描かれた「勝利」という題名の絵は自他共に認める彼の大傑作であり、この絵はミカエルに与えられる.

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扨、翌日からは彼女はモデルとしてポーズを取ることになる.画家とモデルというテーマは絵画自体でも映画でも直截二人の視線を捉えることの出来ない視覚の芸術にとって大きなテーマである.ドライヤーはそれをどう扱うか興味津々であった.

画家は三日間寝ずに描いているがどうしてもしっくりいかないものがある.画布に向かう画家とモデルの彼女が交互に切り替えされて取られるという普通の表現から、画家はパレット片手に彼女に近づいてきてしげしげとのぞき込むような画面が彼女の後ろから撮られその後はアップで交互に切り替えされた.

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巨匠はどうも描けないと諦めて食事をし、遊びから戻ったミカエルも再開された仕事に同席する.画家の悩みは目を上手く描けないということである.ひょいと思い立ってミカエルに描けと絵筆を渡す.眼をぱちくりさせながらミカエルに成し遂げられるようにと心で願う彼女とミカエルが交互に切り替えされる.その一瞬後に彼女の目ばかりの映像が挿入される.こんな表現をするとは思いの他である.キャメラは切り替えされてミカエルの顔がどんどんアップになって行き、

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解ったとばかりに一気に描き上げてしまう.巨匠はこれだこれだと絶賛する.

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そうとなればもうこれしかないであろう.彼女の帰り際に二人は抱き合う.

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ミカエルは巨匠の許を出てしまい別に住んで恩師の許からも足は遠のく.彼の許を彼女は初めて訪れ、彼は彼女を二階へと誘う.映画で室内の階段はそれほど撮られない.おまけにこれは螺旋階段である.どうするのかと思っていたら矢張り上り口だけであった.

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二階は巨匠の一番の傑作の「勝利」が架けてあり居間兼寝室兼食堂である.そして当然ながら二人は口吻を交わす.

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その後、ある時借金取りが巨匠の許にやってきてミカエルが大金を借りていると告げると彼はその金は自分にツケておくように言う.またあるとき数点に絵を売るので画商を呼ぶと、今は市場が一杯だと告げられる.理由を尋ねると巨匠の傑作「勝利」が売りに出ていると知らされる.ミカエルは彼女に金をせびられ売ってしまったのだ.これには大いに衝撃を受けた巨匠であるが金に糸目はつけないので買い戻し、戻った絵はミカエルに戻すように云う.

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その暗澹たる巨匠の姿の後に突如吃驚するほど美しい画面が挿入された、手前に背の低い灌木の枝が見えてその奥は芝生のように見える草原を若い二人が腕を組んで左から右へと歩む姿が枝の隙間に見え隠れしながら横移動で映される.この映画全体は動きを欠いている所にはっと目を見張るような美しい横移動である.

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扨、巨匠は新たな作品を発表する.三対一組の絵で、真ん中が大きく左右は幅が半分ほどで左に若い青年の裸体像、右に若い女性の裸体像を配して真ん中の広い部分に海を背にした絶望の淵にいる老人が描かれる.そのお披露目パーティーで彼は勲章を授与される晴れがましい集まりであるがミカエルは招待してもやってこない.

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その後病気がちの巨匠は親友のジャーナリストに看取られて死ぬのであるが臨終だと何度もミカエルに使いが行くが空しく戻ってくる.最期の時に当たって公証人が呼ばれ巨匠は全財産をミカエルに残すのである.

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巨匠の死後余りものことに怒ったジャーナリストは自らミカエルの許を訪れて、二階に向かって巨匠の死を告げるが、二階の窓のブラインドの陰から彼女が下を覗くだけで二人は抱き合いエンドマークが出る.

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