viva cinema

ゴダール「男性・女性」の男と女

BeauMale
2011.11.20

ゴダールの「男性・女性」は昔劇場で観て大いに気に入った映画であり、その後 VHS のヴィデオを持っていて、ある時、インタビューの多い映画にした素材のヴィデオを貰ってそれを自由に編集して一本の映画に仕立てたことがあるのだが、自分で撮った映像も追加して、何か映画作品を引用したいと思ったときインタビューはこの映画だと、後でここでも出てくる画面を挿入した懐かしい映画である.今にして思うと、ゴダールを引用するなど随分図々しいことをしたものである.

今改めて DVD で見たこの映画について何かを書こうとしたが想像したようにそれは難しい.何故難しいかは少し解るような気がする.この映画は動きそのものでその動いているものを静的に捉えることが出来ない.こういう感覚を受けるのは、クリンスト・イーストウッドの作品やジャン・ルノワールの作品やジャ・ジャンクーの作品である.

取り敢えず、インタビューというか誰かが誰かにものを尋ねる形式の対話を拾っていくことにした.この映画は物語を描いているには描いているが起承転結のある普通に物語というものではないが、一応映画の順番に沿って画像を広い、インタビューの他にも幾つかの挿話も拾っていく.


トリュフォーの映画を観ている人ならお馴染みのジャン.ピエール・レオの演じるポールがカフェーのテーブルに口ずさみながら何か書き物をしている.ジャン.ピエール・レオがゴダール作品に出るのはこの映画が最初である.

Hosted by Picasa

すると、カフェーの硝子戸を開いて一人の若い娘が入ってきた.

Hosted by Picasa

娘はポールの座席の左前の別のテーブルにこちら向きで座り化粧を始める.ポールを映さずに声だけで、ポールが彼女に話しかける.君はマドレーヌだね、君の友達の誰々の紹介で仕事を貰ったといった話をしてくる.それだったら雑誌の仕事かと訊くが、ポールは何の仕事か解らない.マドレーヌは今はレコーディングをやっているという話をする.キャメラはずっとマドレーヌの方を向いて切り返さない.これまでポールは兵役に就いていてそれがどんなに非道いものかという話をする.トリュフォーでジャン.ピエール・レオが演じているアントワーヌ・ドワネルと同じ境遇である.

Hosted by Picasa

キャメラの切り返しはポールの正面からかと思っていたら、真横からである.小津だと互い違いに二人をこの二人と同じに座らせてそれぞれ正面から撮るという切り返しをするがゴダールはそうはしない.

Hosted by Picasa

後、何回かカフェーでの画面があるが、ゴダールは必ず他の客を映す.それも過剰なやり方でそれをやるのである.先に一人の男が急ぎ足でこのカフェーに入ってきて戸を閉めないのをポールから閉めろと云われるのであるが、その男の待ち合わせ相手の女性といざこざを起こす.二人とも声を荒げている.二人は夫婦で幼い子供がいる.怒った夫が出て行こうとするが、子供を渡せと連れて行く.

Hosted by Picasa

出て行くときポールは戸を閉めろと同じ事を反復するが、あの女と一緒に住む気なのかと怒った妻はピストルを取り出し男を射殺してしまう.これは、トリュフォーの「柔らかい肌」の最後の画面の引用である.

Hosted by Picasa

次の画面はポールと何時もつるんでいる自称熟練工だと行って労働運動をやっているロベールがいるカフェーである.ポールの元気かの挨拶に十時前は元気ではないとロベールは応えるが、今は十時五分過ぎだというポールの指摘にそれなら元気だと応える.

Hosted by Picasa

二人が腰掛けて話していると外から男が入ってきて店の人の体育館はどこかと尋ねる.場所が解って出て行くと、ポールが立ち上がる.

Hosted by Picasa

何をするのかと思っていると、入り口の方に向かったと思うとまた戻ってきて、店の人に体育館はどこかと同じ事を尋ねる.ロベールはこれにはあっけにとられている.

Hosted by Picasa

砂糖壺に砂糖がないのを確かめたら今度はロベールが立ち上がり、一人の女性客の席に行き、お砂糖を下さいといって角砂糖を摘んで戻ってくる.

Hosted by Picasa

ポールのどうだったかの問いかけに凄いと応える.次にポールも立ち上がって、今度はキャメラは彼を追わず同様に砂糖を貰う声だけが聞こえる.戻ったなり彼も凄いという..二人して女性の胸元を覗き込んできたのである.二度まで反復が行われるというのは驚きである.反復は映画的テーマであろう.

Hosted by Picasa

ポールは雑誌社に就職したようで、この深い縦の構図はその会社の通路である.こんな深く穿たれた縦の構図というのは観た事がない.左から女性が出てきて右側に入るところである.この女性は、カトリーヌで最初の女性マドレーヌの友達である.

Hosted by Picasa

カトリーヌの姿が消えたところに奥からポールが勢いよく走ってくる.

Hosted by Picasa

右側から出てきたカトリーヌと危なくぶつかりそうになるが彼女にトイレの場所を尋ねると、左側のさっき彼女の出てきた場所であった.

Hosted by Picasa

ポールはトイレに行きたかったわけではないらしい.トイレの戸は閉まっていてそれを待っていたが出てきたのはマドレーヌである.早速彼は話を始める.今日は二十三日だ、今日はデートを約束した日だろうと云うが彼女は約束した憶えはないという.あれこれ話していく中にポールの何故デートが嫌なのだという問いに彼女はからかおうとしたのであろう、あなただからと云ってしまって、憶えていないというのは嘘だとばれてしまう.

Hosted by Picasa

最初こそ洗面台の鏡に映る二人という構図であるが、その後は切り替えを極力避けた片方だけをじっくり映し出す、最初の出会いの時と同じキャメラワークで会話は続けられる.

Hosted by Picasa

次はおかしな挿話である.ポールとロベールがペンキ缶を片手に歩いているとアメリカ国旗を掲げたぴかぴかの車が来て二人の歩む先で止まって、中から士官と女性が降りてくる.二人が建物に姿を消したところで、ポールはロベールに耳打ちする.ポールは運転手に話しかけ、ベトナムは調子良いだろう.共産主義者を沢山殺しただろう、ナパーム弾で焼き払っただろうと話しかける.この映画の出来たのは 1965 年でベトナム戦争闌わで世界中で反ベトナム戦争の運動が広がっていた.

Hosted by Picasa

そしてロベールは車の車体に白いペンキで「ベトナムに平和を」と書き付け、将校が戻ってきて車に乗ると二人は大声で US Go home! と叫び出す.ペンキに気付かない車はそのまま無視して発車する.

Hosted by Picasa

「ゴダールのマリア (1984)」を見た時列車の車列が画面を斜めに横切る姿が如何に画面全体に生気を与えるのかを知ったがその原点がこの映画にあった.街の通りを映してそれにマドレーヌの日記のような独白の声が被さって列車が画面を横切る.

Hosted by Picasa

次に夜の画面に同じに反対方向に列車が横切り車列の明かりが美しい.

Hosted by Picasa

次いでマドレーヌが自分のアパートメントから外を眺めると直ぐ目の前に列車が走っている.

Hosted by Picasa

最後は何と列車の中でポールが列車の戸を開いて外を流れる光を見ている.物語的に何とも解釈できようが、列車が空間を変容させているという事実だけでよい.

Hosted by Picasa

次は女だけの対話でこの映画でそれはここしかなかった.おまけに二人とも下着姿で、左がカトリーヌ、右の鏡に顔の映っているのがエリザベートである.二人は事もあろうに性感とは何かを話し合っている.この二人にマドレーヌは同じアパートメントに住んでいる.

Hosted by Picasa

次は外の屋台のような店のカウンターに左からポール、マドレーヌ、エリザベートが並んで座り、並んでいるときはキャメラは切り返さない.女二人はこそこそ話しポールは除け者にされている.清涼飲料を飲み終えた二人はポールに金を払っておけと言い残して立ち去ってしまう.

Hosted by Picasa

二人が立ち去った後にいかにも清純そうな娘がやってきた.いきなり記念写真を一緒に撮ってくれと頼んでくる.

Hosted by Picasa

写真ボックスに二人が入って、カーテンを閉めると中から声だけが聞こえてくる.前をはだけるから幾ら出せと要求してくる.高いと云えばおさわりはなしだという.余りのことにポールはいい加減にしろと怒って出てきてしまう.

Hosted by Picasa

娘を追い払ってポールは写真ボックスの隣の録音ボックスに入りマドレーヌへの愛を語って録音する.ポールと女二人の画面からここまで全く想像の付かない展開である.

Hosted by Picasa

ポールは自分のアパートから追い出されてこの日から三人の娘のアパートに転がり込む.彼の時々見せる突飛さに三人ともポールを好いている.マドレーヌとエリザベートは一つの寝台を二人で使い、カトリーヌは別の部屋らしい.カトリーヌにこっちだと云われるがマドレーヌが彼の腕を捕まえて自分の隣に寝かせるのである.狭い寝台に文字通り川の字になって.左からポール、マドレーヌ、エリザベートが並んで寝る.後でマドレーヌは妊娠するのだが、こんな状態でなのかは最後まで解らない.

Hosted by Picasa

ポールもロベールも国勢調査のアルバイトをやっているのであるが、これはミス十九歳に選ばれたという娘にロベールがインタビューしているところである.「社会主義に未来があるか?」といった質問や「反動」とは何か、更に「避妊具で知っているものを言え」と云った質問で国勢調査にそんな設問があるのだろうかと思うが、娘は最初の二つは全く応えられなく、三番目は嫌々応える.このインタビュー画面はロベールは声だけで姿は映されない.

Hosted by Picasa

今度はエリザベートとポールがマドレーヌと三人で食事をすることになっているがマドレーヌが遅れてくるので二人が先に食事を始めたところである.一番右の男は隣の席の客で何故か二人の直ぐ側にいる.食事をしながらエリザベートはマドレーヌが浮気している事をばらしてしまい、可愛そうなポールと同情して見せる.ポールは怒ってそれがどうしたと怒鳴りつけ、君は何も解っていない、マドレーヌは妊娠していると云うが、嘘かも知れないと云われもする.二人はそのまま食事を続けて、キャメラは正面から撮り続ける.

Hosted by Picasa

マドレーヌが到着するとキャメラは九十度回転して縦の構図で三人を捉える.さっきまで隣にいた男は姿を消している.歌手でデビューしたばかりのマドレーヌはチャートで上位に入っていて上にはビートルズ、ボブ・ディラン等々がいると歓びを伝え、シルビー・バルタンに会ってサイン入りのレコードを二人のために貰ってきたと渡す.ポールはポップスには興味を示さない.三人の娘の所に転がり込んだときもモーツアルトのクラリネット協奏曲を野蛮な曲だという彼女たちに聴かせる.「勝手にしやがれ」でもジャン・ポール・ベルモンドはクラリネット協奏曲を聴いていた.今回はバッハである.貰ったレコードよりバッハの方が良い、ロ短調のコンチェルトだと云って指揮をしながら口笛を吹く.

Hosted by Picasa

女二人はしらけてしまうが、マドレーヌは映画の冒頭で夫を射殺した女がいるというと三人はそちらを見る.彼女は売春をしている.併し向かいのドイツ人の客に彼女の両親は強制収容所で殺されたと男を詰っている.ドイツ人というと直ぐそれだ、俺は当時子供だったのだぞと云うが、誤魔化すな、大人もいただろうと尚も詰っている.この三人の娘達は売春婦に興味津々である.ポールも、ロベールも経験があるかを訊かれ、どうだったかを尋ねられている.

Hosted by Picasa

三人の目はもう一組の客に注がれる.ブリジット・バルドーがいた.台詞回しを教えられている.ゴダールはこの二年前にあの美しい「軽蔑」をフリッツ・ラングとバルドーで撮っている.台詞の説明が終わって始めから朗読するように云われてバルドーが読み出すと画面はパリの街のあちらこちらを映してそれにバルドーの声が被さって何とも素晴らしい画面展開である.

Hosted by Picasa

女三人組はポールと映画を見に行く.ポールが何処に座るかもめて、後ろから五月蠅いと云われれば、「黙れトロツキスト」と言い返す.筆者も数年前オペラを見に行って後ろから五月蠅いと云われたことがあったが、この台詞を憶えていればよかったと今更ながら思う.併し、今時トロツキストではあるまい.他に何と叫べばよいかと思案する.映画がポルノで面白くないのでポールはトイレに行ったり、映画の画面の寸法が間違っていると云って飛びだしていく.

Hosted by Picasa

この映画とは別にこの映画館の横を走るポールを見ていて、今では映画館は何処もビルに入ってしまったが、昔はこうだったことを思い出した. 映画館というのは正面こそ華やかであるが裏に回るとこんなにも殺風景なのである.

Hosted by Picasa

上の画面に見える鉄骨の階段を登ったところが映写室である.ポールは映画の画面の大きさについてを読み聞かせるが映写技師達は知らん顔である.戻ってからもう出ようと云うが女達は動こうとしない.

Hosted by Picasa

この画面が筆者の引用したインタビューである.インタビューと云ってもこれは国勢調査ではなくて私的な調査である.ロベールはこのカトリーヌが好きでデートに誘うが聞き入れて貰えない.彼はポールのようにおっちょこちょいではなくて女達に好かれていない.この画面で、カトリーヌは最初はずっとリンゴを囓りながらのらりくらりと受け答えしているのであるが、その姿が確かに馬鹿女であっても何とも魅力的なのである.

Hosted by Picasa

この対話もこれまでのと同じに一人一人をじっくり撮ってどちらの発話で切り返すようなことをしない.

Hosted by Picasa

屋外で壁を背にというのはこの画面だけであるが、ポールとカトリーヌがマドレーヌのレコーディングを見物に行くところである.二人が壁沿いに右に向かうと男が近づいて来てマッチを貸せという.箱毎渡すそのまま持って行ってしまった、車の所まで行って何かを受け取りまた壁沿いの二人の前を通り過ぎて足早に行ってしまう.ポールは何度もマッチを返せと叫ぶが無視される.何をするつもりかカトリーヌを残して見に行って戻ってきたところが下の写真である.ベトナム反戦を訴えての焼身自殺である.カトリーヌはお調子者のポールの言葉を信じず自分で見に行くがげっそりした顔で戻ってくる.

Hosted by Picasa

二人はスタジオでレコーディングを見て三人で出てきたところにラジオのインタビューである.マドレーヌは見栄を張ってインタビューの前に秘書に話すと云って、ポールに車を用意するように命じる.一瞬きょとんとしたポールは事態を察してかしこまりましたお嬢様といって、カトリーヌにどうしたら良いか相談するが、何でも出来ると云っているくせにと詰られて車を探しに行く.インタビューはマドレーヌが出鱈目の限りを話す.あなたの特徴はといわれれば化粧しないことだと云い、好きな音楽はと訊かれれば、ビートルズとバッハを挙げる.

Hosted by Picasa

ポールは車を調達してきた.陸軍省に電話してドワネル将軍がお待ちかねだと云ったら、本当に軍のの車が来た.ドワネルは勿論トリュフォーの映画での彼の役アントワーヌ・ドワネルである.

Hosted by Picasa

これが最後のインタビューである.今度は警察の事情聴取である.最初はカトリーヌで母親から勇んで貰った大きなアパートメントで記念撮影をしていて後ろに下がっていくポールが落ちて、自殺ではないという.

Hosted by Picasa

次はマドレーヌで内容は右に同じだと応えると、君は妊娠しているがどうするつもりなのだと訊かれて答えようがない.

Hosted by Picasa

女によって死ぬ羽目になるのは「勝手にしやがれ」がそうであった.ジーン・セバーグの裏切りでジャン・ポール・ベルモンドは死ぬ.ベルトルッチの「ラストタンゴ・イン・パリ (1972)」も最後にマーロン・ブランドがマリア・シュナイダーに撃ち殺される.併しどちらもこの映画のポールほどにばかばかしい死に方ではなかった.

この映画のことを書いていたら、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)の「青の稲妻」と似ているように感じてならなかった.勿論逆で「青の稲妻」が「男性・女性」に似ているのであるが.無為に過ごす若い男女を描いているという点は同じであるが、それだけでない何か共通点がある.反復であったり男女の会話の視線に気を遣っているところであったり、どちらも男と女がいれば簡単に映画が撮れると云うことを明かしている.

top