viva cinema

トリュフォー「柔らかい肌」のショットと足

BeauMale
2011.12.9

フランソワ・トリュフィーのこの「柔らかい肌(1963)」は、「ピアニストを撃て (1960)」、「突然炎のごとく (1961)」に続いて観た長編映画で、この前年の「二十歳の恋 (1962)」はオムニバス映画で未だに観ていない.「ピアニストを撃て」も「突然炎のごとく」も充分に喜劇的要素を持った素晴らしい映画であるが、この「柔らかい肌」は悲劇である.併し、「ピアニストを撃て」や「突然炎のごとく」のスピード感は共有している.スピード感を持った悲劇は最後に向けて息せき切って運命に導かれていくようで、筆者にはギリシャ悲劇のように思われた.前の作品の喜劇性がないからかこの映画は人気がなく封切り時も当たらなかったらしい.

まず主人公、ピエール・ラシュネーはジャン・ドザイーが演じているが、バルザックの専門家で文芸雑誌の主幹で TV にも出る売れっ子批評家である.この映画の原題は La Peau Douce で邦題はその通りであるが、バルザックの作品に La Peau de chagrin 「あら皮」という作品がある.昔バルザックに夢中であったとき読んだが話はよく憶えていない.自殺しようと思っていた青年がこのあら皮を手に入れたらこれは持ち主の願いを叶えてくれるが皮は縮んで命も縮んで行くと行った話だった.トリュフォーは「夜霧の恋人たち (1968)」で営巣に入れられたジャン・ピエール・レオーに「谷間の百合」を読ませているぐらいだからバルザック好きに違いない.La Peau Douce 「柔らかい肌」との距離が縮まれば命も縮まるということなのかも知れない.

YouTube - La Peau Douce - bande annonce (2005)


慌ただしいリスボン行き

ピエール・ラシュネーはこれからポルトガルのリスボンで公演しなくてはならないが、飛行機の時間に間に合うかどうかの慌ただしいときである.その慌ただしさをどうカットで繋いでいるかを観てみた.ほぼショットは拾っている.地下鉄から出て来て急ぎ足で階段を登る.道路に出て横断歩道を渡れば直ぐに自分のアパートメントである.これが冒頭である.

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ふと見上げた所にショットは切り替えられt.

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見上げた先は歩行者用の信号である.

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中々渡れない横断歩道を忌々しげに見つめる.

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渡りだしたらキャメラはロングになる.渡り終えて道を一寸進んだところでカット.

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入り口の階段を登りドアを開くところでカット.

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登りのエレベーターに乗って上昇するところに繋ぎ、止まったエレーベーターから降り部屋のベルを鳴らすと妻が出てくるところでカット.

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室内で出迎えた妻(ネリー・ベネデッティ)と二人の所に繋ぐ.これ以降暫くカットなしで進行する.

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妻と話しているところに家族ぐるみの友人の奥さんが出て来て挨拶を交わす.

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ラシュネー夫妻は多分寝室に向かい、友人は一段下がった居間に行くと娘がいる.娘は父が帰ったことに気付き、寝室から居間を見下ろす窓に父の姿を認めて手を振る.

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キャメラがパンして上の部屋から下を見下ろす夫妻が映り父も上から娘に声を掛ける.キャメラはまた居間に戻りその時ベルが鳴って友人の妻が玄関に行くところでカット.

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玄関の戸をを開くと彼女の夫である.

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結局時間の危ない空港には今来た友人の車で送って貰うことになる.娘も見送りに行くことになって皆玄関に集まる.玄関を出るまでこの間カットは一度だけしか入らなかった.

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カットの後は下の道路に出るところからで友人は車に乗り込み娘と父が後に従う.こうしてラシュネーはタラップの外され掛けたリスボン行きの飛行機にぎりぎり間に合ったのである.その飛行機で出迎えたスチュワーデスがフランソワーズ・ドルレアックである.

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こうしてラシュネーはタラップの外され掛けたリスボン行きの飛行機にぎりぎり間に合ったのである.その飛行機で出迎えたスチュワーデスがフランソワーズ・ドルレアックである.

ここの冒頭の慌ただしいシーンのカット割りが気になったのは、地下鉄を出てアパートメントの部屋のドアーまでが細かくカット割りがされているのに対して複数の人々が動き回る室内ではカットが一度しかないこの落差に感心したからである.動き回る人々は勝手に動かしておけといった案配である.

足の誘惑

リスボン行きの飛行機は目的地に着陸しようとする、

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飛行機の内部では着陸に備えてスチュワーデスが立ち上がり、奥のカーテンの中に隠れる.

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ラシュネーはその姿に見とれている.

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彼の眼に映るのはカーテンの下から見える靴をハイヒールに履き替えている彼女の足ばかりである.

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その足の動きに彼はうっとりしているのである.

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到着するとタラップを降りるのを彼は彼女から最後に降りるようにと止められる.下でラシュネーを待ち構えていたのは記者達である.記者の要望で彼女と並んで写真に収まる.

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リスボンで彼女とラシュネーは同じホテルであった、偶々同じエレベーターに乗り合わせて、うっかり自分の階で降りずにもっと上の彼女の部屋の階まで上ってしまった.彼女は両腕に荷物を抱えていた.それをエレベーター内の床に落としたときに部屋の鍵も落として部屋番号は彼の知るところとなる.自分の部屋に戻ってから彼は彼女に電話する.荷物を部屋まで持って行って上げるべきだったのに済まなかったという口実である.お詫びの印にバーで一杯どうかと誘うが今の時間を考えろ、もう閉まっている断られる.所が彼女の方からまたすぐに翌日の夕食はどうかと誘われる.そして二人は一夜をともに過ごしさえする.

YouTube - La Peau Douce - Francois Truffaut

その後パリへの帰りの飛行機も彼女が担当乗務員で、彼女の電話番号をこっそり渡される.こうして二人は度々会うようになるが、彼が今度ランスで公演があるがその時一緒に来ないかと誘う.公演の後田舎で二・三日過ごそうというのである.

足の誘惑(2)

ランスに向かう車で彼は彼女がジーンズなのに気付く.

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彼女はそれを見逃さない.

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彼は正直にスカートの方が良いという.

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ガソリンスタンドで給油中に彼女はこっそりと抜け出す.

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給油が終わり彼女の姿がないのに気付いた彼の顔はこの世の終わりといった顔で辺りを見回している.

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そこにスカートの着替えた彼女が現れたら、

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彼はもうニンマリである.女はこう言うことはよく心得ている.

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ランスに着くと手違いが生じる.折角目立たないホテルを選んだのに田舎町のお偉方と昼食をしなくてはならない.講演はアンドレ・ジードの生前の姿を撮った映画の前振りで、併し、パリの有名批評家が来るというので座席は一杯で何人もからサインを頼まれる.ホテルを出るとき講演の切符を貰うのを忘れてしまった.急ぎ昼食に行かなくてはならないので自分で切符を買って入ってくれと彼女に断り、昼食をしたりサインをしたりして、短い講演を終えて、映画は観ないで直ぐ帰ると云うが彼を呼んだ友人が放さない.彼女の方は劇場まで来て切符を求めたが売れ残りがなく入れない.彼女としてもどうしたら良いか解らない.一杯やろうという友人を振り切れないでいると夜の闇に彼女がいる.あまつさえ男にしつこく絡まれたりもしている.友人が放さないので彼にはどうすることも出来ない.どうしても今すぐパリに帰るというと友人は一緒にパリに連れて行ってくれと言う.今は田舎町にいるがパリにも部屋はあるという.致し方なく承諾すると友人はは荷物を取ってくるから五分待てと云う.この隙に逃げ出すしかない.急ぎホテルに戻ってこんな屈辱的な眼にあったことない涙に暮れる彼女を急がせて車に乗って田舎へと向かう.

その道中であるが彼女が欠伸をする.こういう複線が丁寧な作りなのである.目的のバンガローに着いた頃は夜も白々としてきた.

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バンガローで彼女は直ぐに寝入ってしまったので彼はカーテンを閉めて部屋を暗くする.眠る彼女の顔に手をやり胸元の手に口吻をする.そしてカット.

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彼女の様子を窺う.またカット.

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彼の両の手は彼女の胴体を撫でるに下に向かう.そしてカット.

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またも彼女を見る.

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手は足に触れる.そしてカット.

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彼の視線は手元に変わる.

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今度は靴を履いた彼女の足首を軽く握る.そしてカット.

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また彼女を窺う.

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彼女の靴を両足とも脱がして足先は彼の掌にある.そしてカット.

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彼の視線は何処にあるのか.

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手は足先ではなくもっと上に来る.そしてカット.

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彼の視線は彼女の顔には向かない.

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スカートを少し持ち上げてストッキングのリボンを解き留め金を外して脱がして手は太ももを下に向けて撫でていく、そしてカットで、

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視線は彼女の顔に戻るのである.

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眠り込む彼女の顔は本当に寝ているかどうか解らないが、欠伸を見せたのだから起きてはいけないのだ.

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細かいカット割りでゆっくりする進行は何ともエロティックな雰囲気を醸し出している.こういう細かなカット割りは TV ドラマやポルノには決して登場しないものである.

足のテーマはもう一つある.彼はキャメラを持ってきていた.翌日森を二人で散策しながら彼女のことを撮りまくるのである.これが彼の身に降りかかる災難の元になるとは知るよしもない.彼女が足を組んでいるとそうではないと足をほどいて両手で膝頭を抱えるポーズを撮らせようとする.シャッターを切ろうとする寸前に彼女はもう沢山だと注文に応じない.諦めた彼はセルフタイマーで二人を撮る.

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もう帰るという時になって、彼の様子から奥さんに電話したいのだろうと図星を突かれる.彼女が外にいるというので妻に電話して手違いで講演が一日延びて今夜返ると云うが、今どこにいるかと尋ねられランスと応えてしまう.昨日ランスに電話したらパリに帰った後だと言われといって妻は電話を切ってしまう.

エロティシズム

妻の許に戻ると別れ話になって彼は事務所で眠る.家にものを取りに戻ると妻はなんだかんだ言いながらもよりを戻したい.どちらからともなく口吻に到と妻は屈んでハンドルを回すと目隠しが上に上がってくる.エロティシズムと言うよりブルジョワ家庭に隠されたこの猥雑な装置、ごろごろと言わせて仕切りが上に持ち上がってくる.

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寝室の外側から見るとこういう山の絵が描かれた敷居が持ち上がって、それを見るとお手伝いさんは子供を外に連れ出すのである.この映画でこれは二度まで登場した.併し今回は何時もの友人の妻が二人の関係を心配して駆けつけて事にいたらず、彼は出て行く.

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終末

夫は妻でない女性に会って離婚を打ち明ける.彼女はそれにはよそよそしい.彼は新築中のアパートメントに彼女を連れて生き、彼女と暮らす部屋割りなどを説明するが、彼女はあなたは急ぎすぎる、この間あなたは私を煩がったがその時あなたを恨みさえした.そんなでは結婚など出来るわけはない.時々会って食事でもするのがいいというが、彼はショックの余りその申し出を断ると、悲しいと云って彼女は行ってしまう.

妻の方は、出しておいた夫の服がクリーニング屋から届けられてポケットにあったという紙切れを見ると写真屋の受け取りである.写真を受け取って中を見れば夫と女の写真が沢山出て来た.彼女は家に戻り猟銃に弾を込めて、古いトレンチコートを出して銃を隠した姿を鏡で見る.

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そして外に出て、夫が何時もいるカフェーに向かう.

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夫は友人夫妻に電話してよりを戻したいが妻に意向を聞いてくれと頼むが彼女はそれは大歓迎だから今すぐ直接電話しろと言われるが、カフェーの電話が中々空かなくて自宅に電話したら出たところであった.この辺りのヒッチコックばりのサスペンスも素晴らしい.

妻の車はカフェーの前に到着する.以降は全てのショットである.

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車から出る.

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後部座席から銃を手に取る.

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夫のいるカフェーに視線を移す.

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銃をトレンチコートに隠し持ってカフェーの入り口に向かい中に入る.

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入ってから硝子の敷居越しに夫の席に眼をやる.

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画面奥に夫の姿を捉える.

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夫めがけて進むと、カフェーのボーイから「いらっしゃい、マダム・ラシュネー」と声を掛けられる.

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それを無視して夫の目の前まで進む.

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夫は全く気付かない.

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目の前で止まって夫を見据える.

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夫は眼を上げてただならぬ妻の様子にあっけにとられて見返してくる.

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妻はコートのポケットから写真の束を取り出し、

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夫目がけて投げつける.

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写真は夫の顔に降り注ぐが、夫はそれが何であるかさえ知らないで唖然とするが、

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彼女は銃を構えて夫に発射する.

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弾丸は過たずに夫に命中して、妻は銃を投げ捨て傍らの椅子に座り込む.

YouTube - La Peau Douce (Truffaut, 1964) - Scena finale


今回これを観て、周到なカットの割り方、エロティシズムと猥雑さが濃厚なこの映画は改めて素晴らしいと感じた.この映画の批評を Web 上で幾つか読んでみたが物語とトリュフォーの愛といったことを書いたものしかない.そうした映像以外のことは何とでも語れるだろうが、最後の悲劇へとぐいぐいと進んで行くその力を語ったものは無い.今回はショットを拾ってみようと思ったので今までで一番写真の数が増えてしまった.

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