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クロード・シャブロル「悪の華」の魅力

BeauMale
2012.1.5

クロード・シャブロルの作品は「いとこ同志 (1959)」、オムニバスの「パリところどころ (1965)」を観た後は「主婦マリーがしたこと (1988)」を見てフランスで最後の死刑を受けた女性(イザベル・ユペール)の陰惨な話し、それと彼の作品とは知らずにヘンリー・ミラーへの興味で「クリシーの静かな日々 (1990)」を見ただけで、これまで映画作家として一つの個性を意識して観たことが無かった.ヌーヴェルヴァーグはゴダールでありトリュフォーでありロメールでありリヴェットであって彼の名前を意識していなかった.

併し今回この「悪の華 (2003) La Fleur du Mal」を DVD で観てその素晴らしさには目を見張った、邦題が「悪の華」であるのでボードレールの詩集を思ったがボードレールのは Les Fleurs de Mal と複数である.


最初プロダクション関係のタイトルが入ったらこのように始まる.この黒は一体何だろう.こんな深い闇はエリセしか出せないものだと思っていたらキャメラは木立の向こうの白く見える屋敷に向かって進んで行く.

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屋敷は次第に大きく見えてくる.

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白い車や横たわる大型の犬まで入るところまで来たら、オーバーラップして、

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映画のタイトルが木立を背景にして現れ、それが再びさっきの続きへとオーバーラップで変わり、

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白い扉が開かれて中の階段が見える.この後ずっと俳優やスタッフの文字が出てくる.

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キャメラは階段の目の前までいって階段が暗い中見えるが左にパンして壁に沿って進み、

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後で解ることだがこの屋敷の食堂の中が見えるところまで来る.中には女性が一人いる.

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そしてキャメラはまた許の階段まで戻って上に登り出す.

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右に曲がっていく階段に沿って尚も登り続ける.手すりの本物の木製の質感がしっかりと映されている.この間ずっとタイトルの文字が入れ替わり出て来ている.

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階段を登り切った正面の白い扉が映され、ここから向きは左に変えられる.ずっとカットなしのショットである.

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左に二階の廊下の奥が映され廊下の左右には部屋が並んでいるのである.

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右側の一つの部屋の中を映すと女性が一人蹲っている.

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また廊下に沿ってキャメラは進み別の部屋の内部を映す.そこにはベッドの脇に一人の男が右手をベッドに掛け大の字に横たわっている.

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キャメラはその右手に沿ってアップしていくと手が血で汚れこの男が死んでいるものと想像されこの映画の監督の名前が出てくる.

映画のタイトルの文字が出るところを除きキャメラは長回すでここまでをゆっくりと映して行くのである.ここまで観ただけで完全にこの映画の虜になってしまう.階段に蹲る女性のことは憶えておこう.

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上のタイトル部分を終えるといきなり飛行機の着陸のシーンである.多くの映画は次は飛行機内を映し降り立つ人を紹介するだろうがそんなと所はこの賢い監督は全て省略する.

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預けた荷物の受け取り場所にキャメラは変わり回ってくる荷物と、胸から下だけを映した自分の荷物を待つ男の指がじれったそうに動いているショットである.

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荷物を受け取った男は篭に入れてそのコーナーを出て迎えの人を目で探す.彼はフランソワ・ヴァスール(ブノワ・マジメル)である.

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父ジェラール・ヴァスール(ベルナール・ル・コク)に出迎えられる.

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ショットは変わって車の所まで二人が歩んできたところがロングで捉えられる.ここまでの画面展開の適切さは何とも素晴らしい.何故素晴らしいのか問われても説明出来ない.その素晴らしさは次の車の乗り込むまでの幾つかのショットにも発揮される.単に車に乗って発車するのではなくミディアムショットで二人の軽い会話とともにショットが挟まれる.

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車の屋根越しに映される息子フランソワ.

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息子の荷物をトランクに入れる父ジェラール.

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あと三つほどの乗り込む前の車の屋根越しの会話の切り返しショットが入って、ロングで車の出発する様子が捉えられる.

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車の中の会話は最初は二人が並んだショットで描かれ、フランソワが三年ぶりでアメリカから戻ってきたことが解る.煙草に火を点け父に渡す息子に父はアメリカでは煙草は吸えないのだろうと質問するが、息子はそんな事もないと答える.

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車の中の二人の姿は横からのショットに変わる.車の中のショットは簡単なことと思うが走行中の二人を実際にこう撮ることは出来ないのである.以前、高倉健がインタビューで映画では颯爽と格好良くオートバイに乗っている所だが、トラックの荷台に載った静止しているオートバイに乗ってさも風を受けて格好良く乗っているような顔をしてその撮影が皇居の廻りで行われたら見物人が沢山出て撮られている自分の無様な格好を観られて恥ずかしかったという話をしていたが、車での撮影も同じ事なのである.

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父の後には息子と切り替えされる.こうした切り替えショットもキャメラは反対側に移動しなくてはならないし、二台のキャメラを使ったとしても反対側のキャメラが映らないようにすなくてはならない.

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車中の会話でジェラールの妻アンヌ(ナタリー・バイ)が市長選に立候補したという話が出て、その選挙本部が途中車の中から映される.後で解ることであるがジェラールとアンヌは従兄妹同士で義理の兄妹でもあり、フランソワの実の母の死後に後妻としてきた人物であるという複雑な家系である.

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ジェラールの経営している薬局は新装されている.更にジェラールは葡萄園を売って非合法な医療研究所も作ったという話である.葡萄園を売ったことに息子フランソワは不満を抱いている.ここはボルドー地方なのである.そしてこの一家はこの地方の名家なのでもある.

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二人のショットは後ろからのショットで、

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切り替えされる.この後、車の前の光景が映され、

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キャメラはロングに変わり後ろから車が向こうに見える白い屋敷の前で止まるところまでが収められる.

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このショットも驚きである.普通であれば車から降り玄関に近づくシーンが入るであろうが、いきなり屋敷の中から、玄関の扉が映されそれが開くと足が入って来るというショットである.

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父は帰ってきたことを悟られずに驚かそうと沈黙を促す.

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次にキャメラは切り替えされて階段を映す.あのタイトル画面で上っていた階段と同じ階段である.

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そして次にはタイトル画面同様にカメラは左にパンして壁に知って食堂が映され中には叔母がリーヌ(スーザンヌ・フロン)が鰻の料理を用意している.フランソワの三年のアメリカ生活では彼の好物の鰻は食べられなかったという配慮である.

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帰って来た二人はこっそり食堂の入り口まで行き、期待通りに大好きな叔母と挨拶を交わすが挨拶もそこそこに目は階段の方向に向く.

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階段を下りてきたのはミシェル(メラニー・ドゥーテ)で彼女は父ジェラールの後妻アンヌの連れ子である.フランソワとミシェルは従兄妹同士であり且つ義理の兄妹でもあるが二人は恋人同士でもある.叔母のリーヌは二人から叔母と呼ばれているが父の妹では年格好が合わない.多分大叔母なのだろうと思われる.

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叔母に荷物を運ぶように促されてミシェルはは運ぼうとするが重くて持ち上がらない.慌ててフランソワが助けに駆け寄る.叔母リーヌはこの二人が大好きで二人だけにしてやろうという配慮であろう.二人で一緒に運ぶことになるが、

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またしても階段が映される.こうまで階段だけのショットがあるということは偶然ではない.

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二人で荷物を持ちその階段を上っていく.このシーンも憶えていくと良い.後々彼女はもっと重いものを運び上げることになろう.

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階段を登って自分の部屋を憶えているかの問いにフランソワは一つの部屋に入るがそこはミシェルの部屋であり元の彼の部屋は彼女が取り上げてしまっていた.こういう演出が実に感心する.こうやって彼女の部屋がそれとなく映し出されるのである.元の彼女の部屋が彼の部屋だと聞いて二人で行くと元通りだと彼は言う.彼が何故アメリカに発ったか、彼女は彼が逃げたと主張するがそうではないことを説明をする.このシーンで彼女の形の良い素足に注目しよう.筆者が足フェチだからと言うのではなく、監督が選んでいるのである.それも後々解るであろう.

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外の音に敏感に気付いた彼女は窓に近づき俯瞰で撮られた玄関前の車から彼女の母アンヌが降り立つところを見る.

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車を運転してきた男はフランソワは知らない.彼女から彼はマチュー(トマ・シャブロル 監督の実の息子)でアンヌの選挙参謀で副候補でもあるが父ジェラールは妻を選挙に引っ張り込んでいると嫌っているという話をする.

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二人は下に降りてフランソワはアンヌと再開を喜ぶ奥でミシェルが話しているのがマチューで父ジェラールは後ろを向いてしまった.

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仕事があると鰻料理に誘われたマチューが一旦選挙事務所に戻ったがまたやってきた.怪文書が出たという.その文章をアンヌは皆の前で読み上げる.この一家は呪われていて叔母のリーヌは父を殺しでアンヌは尻軽女であると一家を中傷するものである.

ここまで映画が始まってから十分一寸であるが、物語の全貌が描かれたに等しい.

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フランソワの部屋でのシーンでミシェルに足指の長くて魅力的な足先を憶えておくように書いたが、その足先が繰り返し映し出されるのである.先ずはこれ、草履を履いている彼女である.

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次は父親は決して許さないであろう叔母リーヌの海辺の別荘で叔母から鍵を借りて二人は二日間を過ごすのであるが、靴を履いている彼女の足先は見たこと無いが素足はこうやって映される.態々テーブルの下を映してフランソワの足に触れジーンズの中にまで足先を滑り込ませる.

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次は別荘で父ジェラールと電話で話すシーンであるがここでは足指が良く動き、この映画ベッドシーンが無いわけではないがベッドは睡眠する場所以上の存在ではなくエロティシズムはミシェルの足先で表現されているのである.それをこんなになまめかしく撮る監督が他にいるだろうかと思う.

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別荘滞在は三日であるが最後の一日は叔母リーヌもやってくる.別荘での滞在中ミシェルはあの怪文書を書いたのはジェラールではないかと疑っているとフランソワに告げる.フランソワは実は自分の父を嫌っている.偽善者で好色であると嫌っているので父が犯人だという話には乗ってくる.叔母リーヌに話しても良いかの問いにフランソワは賛成する.こうして仲良し三人は同盟関係である.

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父ジェラールは選挙前の今の市長の引退のパーティーがあってジェラールも参加するがそこで出会った若い女優を誘惑して自分の薬局に誘い入れる.叔母リーヌは薬局で事務の仕事の手伝いもしているが怪文書の証拠はないかと塵箱まであさっている.ジェラールが女優を誘い込んでいるのを聞き耳を立て汚らしいと吐き捨てるように言う.

アンヌの選挙は今の引退する市長も応援していて怪文書にも拘わらず好調である.選挙の投票に当日ジェラールとアンヌの夫婦はいかにも仲睦まじくやってくる.この選挙は候補者一人一人の名前の書かれたカードから投票する候補者の名前のカードを選んで小さな袋に入れてその袋を投票箱に投函するのであるが、ジェラールは妻の名の書いてあるカードを破り捨てる.

家族全員が投票を済ませた後ミシェルと叔母リーヌを家に残して皆は選挙本部で投票結果を待つ.ミシェルは勉強のために残ったのである.特別だと言われてジェラールの書斎を借りて「罪の意識について」という本を読みながら論文を書いている.

そこにジェラールが戻ってきた.酔っている.書斎にずかずか入ってきて彼女に酒を勧めたりして、母アンヌの投票結果を聞くとそんな事知るかと吐き捨てるように言う.その中彼女の身体に触ってきて俺の息子と寝ている癖にと抱きついてくる.彼女は咄嗟に机の上にあったスタンドで殴ると彼は倒れてしまう.彼女は急いで叔母リーヌに助けを求める.彼女は心臓の音を確かめ事切れていると悟り、急いで証拠隠滅を計る.スタンドは別のと取り替え、あなたは何もやっていない.これをやったのは私だと言い、彼を二階まで運ばなくてはならないが一人では運べないと彼女に手伝わせる.

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二人は渾身の力でジェラールの死体を引っ張り上げる.屡々階段が映し出されたのはこのためであった.途中休んで叔母リーヌが彼女に告白をする.第二次大戦が終わった年に父を殺したのは本当だという.裁判では無罪になったが父は対独協力者でユダヤ人のリストを作りドイツ軍に渡していたしレジスタンスを密告していた.彼女の最愛の兄フランソワがレジスタンスに加わったら突き出して殺させてしまった.だから殺したが後悔さえしていないという.

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ミシェルは部屋で蹲っているところにフランソワが電話で話を聞いて駆けつけてきた.冒頭のタイトル画面で出るこれと同じ姿勢の女性は最初はミシェルで最後を最初に示したのかと思ったがそうではなく叔母リーヌなのだった.下では選挙にアンヌが勝ってその祝勝会に人々が集まってきていた.叔母リーヌの指示で叔母自身も二人も何事もなかったように笑顔で祝勝会に加わった.

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この映画は話の語り口と言い、ショットの繋げ方と言い、画面の美しさと言い何処を取っても文句の付けようが無く素晴らしい.この映画は是非劇場で観たいがそんな事が何時か叶うのであろうか.

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