viva cinema

ゴダール「中国女」は色彩についての映画

BeauMale
2011.12.21

このゴダールの「中国女(1967) LA CHINOISE」は日本公開は 1969 年で「気狂いピエロ(1965)」の二年後には公開され、同じ年に公開された「ウイークエンド(1967)」は観ているのに何故か見逃した映画である.ずっと後になって VHS で人の所で見せて貰ったが、この題名からして一体どんな映画なのか、1968 年の前年の映画で、1969 年からは商業映画を作らなくなったというこの監督の映画、観る前には「中国女」という題名からして一体どんな映画かと何とも言えない心持ちで観た映画であった.観てみたら色彩が「気狂いピエロ」を更に洗練されたほぼ室内だけの若者達が革命ごっこを繰り広げる話であったが、今回 DVD で観てこれは映画を作っている映画だと云うことを観ていなかった事に気付かされた.


出だしの方のこのショット、「気狂いピエロ」の色彩が洗練されたと感じたのは黒という色が加わっていたからだった.壁には「曖昧な思想を明確にしなければならない」と書かれている、

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このアパルトマンで革命に興じる若者は五人で、その一人がこのアパルトマンの所有者である銀行家の娘ヴェロニックをアンヌ・ヴィアゼムスキーが演じて彼女は「ラジオ北京」を聴いている.北京かフランス語で流れてくる放送は「文化大革命」と紅衛兵の話ばかりである.

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本棚は「毛沢東語録」が何冊も並べられ、傍らに立つのは中世のか木彫の神の像である.

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ヴェロニックの恋人で「同士」であるギヨームをジャン・ピエール・レオーが演じ彼は道化役でもある.

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ヴェロニックの背景はアール・デコのファッションのポスターと思われるが、この映画は壁の映画と云ってもよいほどに若者達は壁を背景に喋る.

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今、ギヨームの話を撮影しているところであるが壁を背にしたギヨームのショットには写真やポスターが挿入される.

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この映画の冒頭で出来つつある映画だと字幕が出るがその通り撮影しているのである.

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カチンコ も登場して映画が撮られているのだと云うことが解るようにする.カチンコの後ろにいるのはアンリを演じるミシェル・セメニアコである.彼は理論派の闘志である.

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ひょいと挿入されるヴェロニックのショットだが背景には「毛沢東語録」を「学習」する中国の子供達を描いた中国の絵のポスターが貼ってある.登場人物はショット毎にと云ってよいほどに服を替え、それらの色に相応しく背景が用意される.

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ギヨームの次に撮影されるのはジュリエット・ベルトの演じるイヴォンヌで彼女は地方で農業をやっていたが数年前にパリに出て来て家政婦をしていたがそこの大きなアパルトマンは低い階にあって暗かったがここは明るく皆が議論を活発にして良いのだという話をする.

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田舎では牛の乳搾りをしながら喋っていたという話をするとこのショットが挿入される.この映画は壁に囲われた室内で、壁を背にした登場人物の話の時はその壁を突き破るように外の風景が挿入される.

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彼女は一年間売春して貯めたお金でフィアットのオープンカーを買ったという話や、今でも資金が足りなくなったり、アンリの発行する「紅衛兵通信」が売れない時はその資金援助で売春するという.売春という言葉が出ると下の絵が挿入される.

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革命家達は毎日何をして過ごしているかというと、このようにアンリは黒板に何曜には誰がどういう題名の講演をするかのスケジュールを書いている傍らギヨームは大声で「毛沢東語録」を朗読して歩き回ったりしてる.

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ヴェロニックは壁に標語を描き、ギヨームは「毛沢東語録」を朗読する.

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ある日の講演はヴェロニックの学校仲間の話である.最初は正面から講演者と観客といってもここで同居する五人組であるが、撮った後キャメラはテラスにあるのだと思うが、横から室内を映す.向こうに見えるのはキリーロフでレクス・デ・ブロインが演じる五人組最後の一人である.キリーロフという役名はドストエフスキーの「悪霊」の登場人物と同じ名前であるがそれは偶然でないことが後で解る.

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キャメラは横移動して室内の見えるところで止まり、

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また右に移動しまた室内が見えたら止まる.そして今度は左に移動して再び同じ移動を繰り返す.この横移動は別の人の講演の時も全部で三回繰り返される.

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次はヴェロニックへのインタビューであるが、最初に「不思議の国のアリス」のジョン・テニエルの挿絵が挿入されるが赤く色がつけられている.彼女が労働者も私たちも兎小屋に住んでいると語るのだがそれを先取りしてこの絵の挿入である.

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彼女は銀行家の娘で裕福であるが大学で哲学を勉強していてある日退屈な時にマルクス主義と出会い、隣接する労働者地区や外国人労働者を見て、資本主義の矛楯を知った.知的労働と肉体労働の分離、都会と農村の分離、工業と農業の分離.大学と図書館を爆破してやりたいと語る.

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彼女のインタビューでも背景の壁を突き破るかのように労働者地区が移される.このショットはもっと右のクレーンが林立する地帯から左にゆっくりパンして映されている.

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いろいろな絵も挿入される.これはひょっとするとエイゼンシュテインの映像「戦艦ポチョムキン」のような気がするがロシア革命の写真に赤く赤旗や銃を握る手が描き込まれている.

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ジャン・ポール・ベルモンドの写真まで挿入される.

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そしてまた日常の映像.ゆっくりお茶をすすりながら読書するが、音とリズムで会話するといってそれぞれお互いのいう単語に別の単語を繋げて行く.ヴェロニックはニコラス・レイという単語を挿入したりもする.

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夜の就寝時間である.アンリとイヴォンヌは恋人同士らしく一つのベッドを共有しギヨームは椅子で寝る.そこにキリーロフがラジカセでインターナショナの歌をがなり立ててやってきてベッドを超えてどこかに行ったかと思うとまた戻ってくる.

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朝になればテラスで革命家達は革命の標語を叫びながら体操をする.右の窓から見えるギヨームは前にいるイヴォンヌのおしりを突っついたり蹴飛ばしたりいたずらばかりしている.

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次はギヨームの講演である.彼の講演と次のアンリのは外から撮った横移動がない.どちらも特別扱いなのである.話は前半と後半に別れていて、前半に面白いことをいう.テーマはニュース映画でニュース映画には誤解があるという.所で、TV が普及してからもニュース映画というものがあって劇場では本編の開始の前に上映された.渋谷にニュース映画だけの専門館もあったが今は昔である.リュミエール が記録映画(ニュース映画)の発明者であり、メリエス が劇映画の発明者であると云われるがそれは反対なのだという.シネマテークのラングロワがそれを証明した.リュミエールは画家であり同時代の画家、ピカソ、マネ、ルノワールと同じものを撮っている.後期印象派やプルーストと同時代の人間だ.メリアスは同時代人でも夢想家で「月世界旅行(1902)」を撮ったが今から見ればこれはニュース映画なのだという.これは恐らくプラトンの洞窟の光とセザンヌの光で映画を撮りたいといったゴダールの考えそのものなのであろう.

後半の話はベトナム戦争だがこれは話であるより演劇である.ギヨームは眼鏡を五つ用意している.最初に掛ける眼鏡は下の写真のレンズ部分が星条旗のである.次に、ソ連のを掛けてソ連の裏切りを詰り、

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次は中国の五星紅旗を掛ければ毛沢東語録を朗読し出す.まだ二つ眼鏡は残っている.それらはユニオンジャックと三色旗で英仏は傍観者とする.他にまだある、ベトナム人民だと指さしたら、

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この画面.「気狂いピエロ」でアンナ.カリーナが演じたのと同じにステレオタイプのベトナム人、張り子の虎に小さな米軍の爆撃機が空中を舞っている.

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YouTube - irene rios, ríe al ir

ショットは変わって毛沢東語録を積んだ塹壕から自動小銃を撃つベトナム人.その他にも小さな戦車の模型やミサイルなども登場するという講演であった.

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次のアンリの講演は割愛.幾つかエピソードを挟んで今度はキリーロフである.彼の話は芸術についてである.マヤコフスキーやエイゼンシュタインの名を口にする.

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この映像の色彩も美しいが、彼もこの構図を取ったからには横移動されると見ていると、

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全ての色は赤、青、黄色の三原色で表されるという言葉が被さって例の横移動が開始される.

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所がこれまでとは違って開いている室内が映されることなく色見本が出て来た.

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次のショットは外で赤い看板に緑の幌をしたトラックに奥には赤い車が見える.

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そして次にはこの絵が挿入される.これは誰の絵だろうか、クリムトの色彩に似ているが定かではない.

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次はこれである.マチスかボナールだと思う.

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キリーロフの講演をギヨームとヴェロニックは聞きながら何かを喋っている.キリーロフは文化と両面で戦わなくてはならないというのに対して、ギヨームは音楽を聴きながら他の事は出来ないというと、ヴェロニックからあなたのことは何処もかも嫌いになったと宣言されてギヨームが落ち込むというエピソードである.しょげているギヨームにヴェロニックはほら両面作戦が出来るといって、からかわれたことが解るというおかしなシーンである.

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この映像は二度ほど挿入されるが 0 度の色彩ということであろうか.三原色に加えられた黒という意味で.

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この映画では平面に奥行きを穿つ縦の構図というのが殆どない.そんな中でのこのシーンである.ということは画面を出来るだけ平面に作っているということである.この浅い縦の構図では赤とグリーンが補色で対立して、弓の空色と美しい色の組み合わせを見せている.

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さっきは割愛したけれども今度はアンリの講演である.この講演のっけからウォーウォーガーガーと野次が飛ぶ.

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横移動して映る室内で皆が野次を飛ばしている.

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構わずアンリは話を続けるが恋人のイヴォンヌまでが修正主義者と野次るが窓の外に向かって叫んでいる.それでも全く不自然ではない.

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その後の全体会合で賛否を問う.アンリ以外の全員が挙手をしてこれでアンリは追放と決まる.彼の平和共存路線が批判されたのである.イヴォンヌを連れて行こうとするが拒絶される.

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ここでもう一度カチンコが鳴ってこれが映画を撮っているのだということを思い出させてくれる.この後アンリの独占インタビューが続く.彼はロシア革命のヒーローでもあるブハーリンが追放粛正される話などをする.

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画面が何時もの部屋から出て、列車でのインタビューである.恐らく実際の列車を使っての撮影だと思うが左がヴェロニックで右がフランシス・ジャンソン(Francis Jeanson)という実在の哲学者で、フランスは第二次大戦後第四共和政になるがその末期は独立を主張するアルジェリアの民族解放戦線と闘うことになる.この哲学者は解放戦線を支持して欠席裁判ので十年の重労働の刑を宣告される.アルジェリア問題はド・ゴールの登場によってフランスは第五共和制に移行してアルジェリアは独立が認められる.文化大臣のアンドレ・マルローによって彼には恩赦が出て亡命生活から帰国する.「女と男のいる舗道」でアンナ・カリーナが話を聞くブリス・ペラン(Brice Parain)同様に彼の台詞は用意されているものではなく自分の言葉で話している.

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この後暫くフランシス・ジャンソンだけを映してヴェロニックの質問が入る.何をこれからするのかの質問に対して文化運動だという答えに不満なヴェロニックは今時それは何だというが、哲学者は文化と運動はこれまで結びつかなかったのだと反論する.

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彼女は何をしたいのか話になってキャメラは彼女を写し続ける.彼女は大学を爆破するという話をするが、彼はその後どうするかは考えているかと問い詰められ、先生だって同じ事をしたのではないかというと、全く違う.大衆の支持があった.そんな事をしても警察に捕まり社会に何の影響を及ぼさないといわれる.

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彼女はそのことを聴こうとしない.一つの起爆剤になるのだという.このインタビュー、列車が駅を二つ止まる間続いていた.

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彼女の言葉通りにソ連からやってくる文化大臣を暗殺することになっている.実行は志願したキリーロフが行うことになる.その目的などを記した宣誓書にサインをしたかどうかギヨームが見に行って宣誓書を貰って朗読している間キリーロフは部屋にペンキで線を描いている.様子が変だと思ったら彼は「悪霊」のキリーロフと同じ運命を辿る.

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つまり自殺したのである.

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それにも懲りずにヴェロニックは今度は彼女が暗殺に出掛ける.ホテルのフロントで宿帳を見てやってきたと戻るが、部屋番号が 23 なのを反対から見て 32 の部屋で殺してきたことに気付きもう一度殺しに行き殺してくる.殺しの画面は一切出てこない.この数字のギャグはハワード・ホークスが「教授と美女(1941)」で、999 の部屋番号がひっくり返って 666 になって間違えるというギャグの借用である.このままの数字でゴダールは他の映画でも使っていた.「ゴダールの探偵 (1985)」だったような気がする.

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家族不在のアパルトマンを自由に使っていたヴェロニックであるが家族が戻ってきた.これで革命ごっこは終わりである.併し人が三人死んでいる.それも映画の中の話か.姉と思われる女性が本棚の毛沢東語録は床に叩き出し、壁のビラ剝がされる.

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テラスの壁に書いた標語も拭き取られヴェロニックは反省を求められる.彼女の独白が聞こえて過ちがあったという言葉が聞かれる.

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リュミエールが後期印象派でこの映画全体を覆う色彩の美しさを見ればこの映画は色彩のために出来たものと思わざるを得ない.ある意味前期のゴダールの一つの達成のように感じる.

YouTube - La chinoise 予告編

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