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山中貞雄「河内山宗俊」のショット

「河内山宗俊(1936)」を観たのであるが何に感心したかというとショットの繋ぎ方とそのリズムである.河内山宗俊というのは僧形をした身分的には幕府に使えているが博徒と交わり不良御家人と交わりと実在した人物であるが、金持ちから金銭を奪い弱者を助けた義賊のような存在として流布している.歌舞伎や講談の世界の人間である.その河内山宗俊を河原崎長十郎が演じて、彼と仲が良くなる、ヤクザの用心棒の浪人を中村翫右衛門が演じている.この浪人は屋台の店から所場代の徴収を行っているが、原節子の店だけからは金を取らず何くれと無く助けてやっている.河内山宗俊もこの娘に好意を抱いている.宗俊は家の二階は賭博場で下は食べ物屋をやりそれは連れ合いの女に任せている.原節子の弟は宗俊の賭場に来ているが宗俊は原節子の弟だということを知らずに可愛がっている.店を閉めて屡々弟を迎えに原節子は宗俊の許を訪れるが弟は名前を偽っているので宗俊には解らないのである.そうして最近は弟は姉の許から遠ざかっている.

心中

ある時その弟が問題を起こした.ヤクザの配下の女郎屋から女を逃がすことにして、最初宗俊の許に匿ってもらいに来たが、宗俊は用心棒の浪人と女房の悋気に嫌気がさし外に飲みに行っている.女房は宗俊が原節子に好意を持っていることが気に入らない.また、出入りの弟が原節子の弟だということは知ってしまっていたので姉が憎ければ弟も憎しで匿ってはくれない..匿って貰えるものと思っていた弟は諦めて外に待たした女に駄目だったと告げる.

その瞬間ゴーンと金の音が鳴りこの画面に変わる.柳に月で薄曇りの絵のような光景である.

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次のショットはうなだれた女である.

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切り替えされたキャメラに弟が映される.

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そしてこれは驚いたが次は水に杭が出ている空ショットである.水に映るは月影であろうか.

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次はキャメラはロングになって二人が大川の橋の手前にいる全体が映される.後ろの河面は水が流れていて絵ではないことが解る.

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女が覚悟は出来ていると語ると弟が近づき本当なのかとその意志を確かめる.

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弟はそれなら俺も一緒に死ぬと言い出すと、女は立ち上がりお姉さんに悪いからそんな事出来ないというが弟は姉の事はどうでも良いと言い返す.

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そこでキャメラはいきなり場面を変えて川辺を歩む二人の男をロングで映すと、ボチャンという水音が二度聞こえて驚いた二人は奥の川の方に何が水に落ちたか見にいく.

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そしてショットはいきなり水面に何かが落ちて沈んだ波紋だけを映し出す.

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これだけで男女が身投げしたことを表現しているのである.このショットの繋ぎ方は言葉に言い表せないほどに素晴らしい.余計なものは一切入らない.

弟の帰還

この後心中事件は人に知られ、酒屋で飲んでぐでんぐでんになっている宗俊と浪人の耳にも入っている.一方原節子はその日も宗俊の許に弟を徒に探しにやってきたが、原節子に嫉妬している女将一人なので散々嫌みを言われ、半べそを掻いて家に戻る.項垂れながら入って来る姿がキャメラに収まる.

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キャメラが切り替えされ、奥に人影があるのに気付く.弟が裏の庭に面した縁側に佇んでいる.彼だけ心中から助かったことが観客には解る.

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もう一度キャメラは切り替えされて、奥の部屋との敷居の所であれほど待った弟がいるのを喜ぶ満面笑みを浮かべた原節子が映し出される.

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またキャメラは切り替えされ無表情の弟が振り返る様が映される.

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そのまま原節子は弟の前に進んで座りにこやかに何くれと無く機嫌を取るように言葉を掛け、庭の物干しには濡れた着物が干されているのに気付くが原節子にはその事情を知るよしもない.

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奥から手前の入って来る原節子が映され縦の構図の儘原節子と弟との距離が縮まっていく様子が切り返しで交互に映され、手前の入り口の方からの光と奥の裏庭の方からの光が柔らかく、このシーンの撮り方も完璧と言えるものである.

最後の戦い

弟のしでかしたことは大問題に発展した.ヤクザは女郎屋から弟が女を連れて逃げてきたというので、原節子の許にやってきた.さっきの画面の直後である.弟は奥の縁側に面した障子の影に身を潜めている.原節子は弟は近頃寄りつかないので知らぬ存ぜぬを決め込むが、あの女には三百両という金が掛かっている.お前の稼ぐ金では償いきれないから身体としっかり相談しろと行って帰っていく.

弟の知らせで宗俊と浪人はその三百両をこしらえるために一計を案じる.高僧に扮した宗俊が立派な篭に供のものを用意して大名屋敷に乗り込んで、この話も前から出ていて、この詐欺のための伏線であったとは気付かなかったがまんまと詐欺は成功して金は準備できた.併し肝心の原節子の姿が見えない.女房の悋気でまんまと品川に売られていたのである.

そこにヤクザの一団がやってきた.弟を出せという.河内山宗俊、浪人、弟の三人が逃げるのであるがそれがどぶ川の中を通って逃げるのでる.彼らは直ぐさま見つかり大勢の敵とどぶ川で戦いは始まる.当然縦の構図で手前や奥の敵に挟まれて凄まじい戦闘が繰り広げられる.

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併し常に縦の構図ということではない.浪人が盾になって防いでいる間に二人は水の中を疾走する場面が横移動で素晴らしい疾走感とともに観られるのである.

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敵の盾になっていた浪人も前後を挟まれ結局切られてしまう.

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河内山宗俊は弟に金と姉の居場所を教えて逃がし、彼自身は下水道の途中で柵や材木を重ねてそれを体重を掛けて後ろ向きに押さえつけ逃げる時間を稼ぐ.併し彼も結局は隙間から差し入れられた刃で命を落とす.

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弟だけが逃げおおせて、縦の構図で空の白み掛けた中を手前から奥へと姉の許へと逃げていく姿が映され映画は終わる.

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山中貞雄の三本の映画ともにこうした素晴らしいショットの連続で出来ているのである.ショット毎の切り替えがリズムが良く、どこでキャメラを引くか、どこで何を映すかを熟知した完成された映画作家なのである.もっと長く生きて小津や成瀬のように作品を残さなかったということは返す返すも残念なことである.

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