viva cinema

ゴダール「愛の世紀」顔のない愛

BeauMale
2012.2.4

ゴダールが商業映画を止めて「勝手に逃げろ/人生 (1979)」で復活した以降の作品は前期のと明らかに違うが、筆者はどちらも好きである.好きであるが後期のを書くのは始めてで果たして何かを綴ることだできkるのだろうかと中何度も止めたくなった.書くと言っても写真を載せてその隙間を補うだけの事であるが、「彼女について私が知っている二、三の事柄 (1966)」を書くときよりもずっと途方に暮れた.併しこの「愛の世紀 (2001) Eloge de l'amour」は何度も見飽きないほどに素晴らしい.原題は「愛を賛えて」といった意味である.

YouTube - Eloge de l´amour 抜粋(スペイン語字幕)
YouTube - Eloge De L'Amour - Américains - Godard 部分(英語字幕)

参考:ゴダールが、生まれてはじめて「愛」を描こうとしたのです――『愛の世紀』 蓮實重彦


終わりまで観てまた最初から写真を拾おうとしたときに気付いたのだがこの愛の物語は愛が水に関連していると思っていたのが冒頭から噴水の水が映されていた.

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この女性は誰なのかが解らない.次のエグランティーヌという役をやる女性とは違うだろう.併し「彼女」としか呼ばれない女性なのかが解らない.ただでさえ俳優の顔の区別が付かない筆者には「彼女」の顔は殆ど見られないので見分けようがない.姿を映さず主人公の男性が彼女に話している.彼女は彼を喜ばそうと黄色い星を胸に着けて、「失業者よこの時こそ思考すべし」とこれはこの女性の発言だが、そこに男達が現れて黄色い星を剥ぎ取ろうとして、ファシストを見たいか?俺たちだと云って彼女を殴り彼女は失神する、そして男達は...というと、彼女は「ひどい時代ね」といい、人類は存続するという言葉に受け継がれる.

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もう一つ画面を挟んで、映画、演劇、小説、オペラの中どれを選ぶかの問いに彼女が小説と答えると画面はこれになる.彼の読む本は白紙で出来ている.かれは主人公のエドガー(ブリュノ・ピュジュリュ)である.

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エドガーには一つの企画があって、若いカップル、大人のカップル、年配のカップルがあって出会い、肉体的情念、別れ、再開の四つの局面を描く.そしてこの若い女性にどれをやりたいか尋ねると、

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彼女は若いカップルの女性が良いという.相手の男性の名前はペルスヴァルで彼女はエグランティーヌ(Audrey Klebaner)である.この物語はエグランティーヌの物語ではなく彼女を通して描かれる歴史だと説明される.白紙の本を見ながらこの物語は悲惨(レ・ミゼラブル)な人々を、ヴィクトル・ユゴーのを描くだろうという.

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その通りにホームレスの男が呼ばれる.

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この女性は前向きの人生を考える人は以前の自分が存在しなくて過去には無関心.反対に老人は時を受け入れたがらない、衰えを恐れるからだといった話をしてその音声が街頭の風景に被る.

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建物が映され人々が映され車と足早に歩みを進める人々が映されどの映像一つ取っても美しい.

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犬を連れベンチで俯せに寝るホームレスの背後を人々が行きすぎ車が通る.図らずも二枚ともベンチの映像を選んだがベンチも映画的道具なのであろう.

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キャメラは室内に戻る.エドガーの祖父と父が共同経営していたという画廊の持ち主の家である.使用人が二枚の絵を一枚筒ずつ何度も前に差し出すという動作が繰り返され、

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一枚を選び取ったこの老人がその画廊のオーナーである.その父と共同経営のエドガーの祖父は 42 年のユダヤ人狩りで捕まったという.彼はそこの娘に恋をしていて今でも愛していると語る.その縁からか彼はエドガーを支援している.

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エドガーが彼に自分の企画を話す.ここで初めて「彼女」のことが話題に上る.

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キャメラは外に出てエドガーと運転手の会話が被って外の風景が映される.彼は二年前に出逢った「彼女」の話をする.美人ではないがはっきりした意見を持っていて国家の愛の不可能性を語ったという.彼は理想としてシモーヌ・ヴェイユかハンナ・アーレントのような人物を映画に求めている.シモーヌ・ヴェイユに捧げるカンタータは断念したという.

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車を降りて彼は何処に行くのか解らないが、彼自身の姿もよく解らない.ブレッソンの「スリ(掏摸) (1960)PICKPOCKET」の看板が映される.ブレッソンの名はこの映画でもう一度出てくるのだ.「スリ(掏摸)」は初めて観たブレッソン映画である.ドストエフスキーの短編の映画化「やさしい女」はドミニク・サンダのデビュー作でもう一度観たいが DVD が無い.

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縦の構図でエドガーの姿も映っている.

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そのままキャメラは動かずにいる.

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この列は何なのだろう.映画を待つ人々だろうか.

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そんな中大道芸人が煙草を空中を浮かす藝をやっている.

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その中、火がともって飛び散る藝になって、

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その火に照らされてエドガーの顔が浮き出るという憎い演出である.

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運転手から「彼女」が列車の清掃という夜勤の仕事をしていると知らされる.そのすぐ後にホームレスの男女の映像.

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エドガーは列車の車庫へとやってきた.この出だしのシーンから空間を表す映像が素晴らしい.

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これが車庫内.素晴らしい映像である.ジャ・ジャンクーもこういう映像を撮っていた.前のも指摘したが彼はゴダールから非常に影響を受けている.

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縦の構図で列車に沿って「彼女」の働いている列車を探す.

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列車の中で「彼女(セシル・カンプ)」を見つけるが、やっと逆光でちらりと顔が見えただけでとてもじゃないが彼女を同定する事は出来ない.彼女は映画への出演は疎か話し合いにも応じない.

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次はエグランティーヌ役の女性の演技指導である.横に出演するわけではない彼女のボーイフレンドがくっついている.

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横顔と首筋が美しく髪の毛を掻き上げた映像.彼女は表情がないかのように全く無言で無表情である.「パッション(1982)」のミリアム・ルーセルと同じような役柄かと思う.ミリアム・ルーセルはその後「カルメンという名の女 (1983)」、「ゴダールのマリア (1984)」と続け様に出演した.この間エドガーの演技内容についての説明が声だけ聞こえる.プールサイドで真珠の首飾りを引っ張ると首飾りは切れて真珠はプールに落ち一粒だけ拾うという下りがある.これはゴダールの「映画史」でも引用されていたボリス・バルネット「青い青い海」の真珠の首飾りが切れてバラバラとこぼれ落ちるという美しいシーンだろうと思う.

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次いでのシーンは彼女は机の角に腰掛けずっと同じ姿勢を保ちボーイフレンドが何度も空中回転して見せ彼女は無表情の儘である.

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ボールフレンドは彼女が美しすぎて欲望が湧かない.と彼女の膝にすがりついてこうして崇めるだけだという.

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そこにエドガーが入ってきて設定を理解したかを訊いて、

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そして二人の前を回って窓際に立つ.こうした静的なところに動きが入るそして空間全体が生き生きとする演出も素晴らしい.

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このシーンではエドガーが二年目に人から聞いた言葉を古本屋で見つけたが、ジョルジュ・バタイユの言葉だったという.その言葉は、「国家ほど愛されるものとかけ離れたものはない.国家と愛の崇高さは対極にある.国家には世界全体を抱擁する力はないか失われている.宇宙全体は愛されるものに客体として与えられ、愛するものには主体として与えられる」というのを台詞に入れて本読みをしている.併しこれはエドガーは駄目だという.大人が描かれていないからだという.

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これも登場人物らしく彼女に死について尋ねた後台詞を読ませるがそれでは駄目だという.

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この立っている男に台詞回しをやらせるので良く聞くように云う.男の台詞回しは節を付けて歌うように話す事であった.

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車にはエドガーの支援者の老人と姿は見えないがコソボ問題委員会のアメリカ人が乗っている.彼からも資金が出るような話が出て小切手を切るという.ここでも「彼女」の話が出る.

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彼らの行った先はコソボの難民のいる場所のようである.アメリカ人が十二歳のコソボの少女の手記を読み上げる.少女の目の前で家族が惨殺されたという話を英語で朗読する.この二人はコソボの難民らしい.

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エドガーの隣がそのアメリカ人なのかはっきりしない.

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彼女は矢張り難民らしいがコソボの人もセルビア人に同じ残虐行為を行ったことを告白し、普遍性がなければレジスタンスはないという.

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そこの帰り、遠い掛かった女がいきなりコートの前を開いて見せた.そこで降りた男が彼女はユダヤ女かと叫ぶ.

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また噴水の水.

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そしてセーヌ.「真実とは悲しいものか」というエドガーの声が聞こえる.

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水が愛を呼び寄せるかのように、昼間のセーヌ.こんなに美しい映像である.女性の声で彼女は 68 年の三年前に生まれ五歳の時両親は自殺したという.

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語るのは「彼女」で何かに腰掛け、エドガーが水辺からこちらに向かって歩んでくる.彼が向こう岸を見ながら「うつろな砦」というと、彼女はうつろなど無いという.沈黙の時も言葉はあり死は存在しないという.死ぬときに私という意識が現れるという.

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ボートが流れに沿っていく.この間愛を歌うシャンソンが間断的に流れている.

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川を見ながら二人が並んで立ち、彼が労働争議を考えながらうつろな砦と云ったのだというと後ろを労働者達が黙々と歩んでいく.

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後ろ向きの儘二人は話す.彼女から企画の話をしないと指摘されてエドガーは進むべき道に迷っていると応える.何処へ進むかに応えて幼年期から老年期だという.成人期という意味かに、そう思っても良いと応えると、子供がいないでしょうと云われる.その通りだと応えて相手はどうかを訊くと彼女は三歳の息子がいるという.結婚しているかを問うと、していない.彼が去ってから色々考えたら物事が意味を持ってきたという.彼はある事が終わるとある事が始まる.君のでもない僕のでもない物語、僕らの物語が始まる.親しくはなくとも物語=歴史なのだ(フランス語では英語のように story(物語)と history(歴史)のように二語に別れていなくて histoire 一語で両方の意味を持つ).あなたはブルターニュで会ったときは自分の考えを何も話さなかった.どう思っていたのかを彼女は尋ねる.君は正しかった.アメリカ人には過去はない.北米でしょ.ブラジル人やメキシコ人は違う.と言われて、その通り北のアメリカ人だと言い直し、彼らは記憶がない.パソコンにはメモリーがあるが人にはない.他人のを買ってくるのだ.特に抵抗勢力のを.そしてトーキーの映像を売る.併し映像は何も語らない.何も見せない事こそ彼らの手だ.と語ると、彼女は同じ意見だという.

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彼の姿が大きくなって彼女の姿が画面から消えた.彼は何かを考えるときは他の事を考える.新しい景色を見たときそれを他の景色と比較して新しいと認識すると口にしていると、どこからともなく歌が鳴り響く.

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彼女の姿が右に現れ歌にかき消されるが彼女は耳元で何かを云いながら彼に接近する.彼が顔を右に向けたので普通の恋愛映画ならここで二人は口吻をする所だがそうではなかった.

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エドガーは顎で向こうがオートゥイユかと馬鹿な事を訊くものだからキャメラはそっちを向いて美しいセーヌの上流の景色に変わってしまう.折角満々と水をたたえたセーヌなのに恋は実らない.

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彼は紀元前一世紀にここでカエサルとガリア人が闘ったという話をする.当時辺り一面が森でその名残がブーローニュの森だというとキャメラは横移動で森を映していく.

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彼女が電話で話している.相手はエドガーであるが姿は映されない.あなたが言うように真実は悲しいかも知れない.そうした本を送ると話す.相手の声も聞こえないので何を言ったか解らないが、彼からも本を送ると云っているようである.彼女は住所は教えないという.本屋に送ってくれれば預かってくれるという.さよならを言うが電話は切れない.彼女が何故企画の話をしないか訊いて答えに対して今の私じゃ無理だという.美人でもないし.相手の言葉に、そう思ってくれるのねと静かに応える.他に何かを喋った後、彼のいう言葉を復唱する.「どんな思考も崩れそうな微笑みを呼び起こす」と書き取って、さよならを言うがまだ話が続く.先日あなたと会った後私も帰ったという.あなたと同じ列車だと云って電話を切る.ここでも彼女の顔ははっきりとは見えない.

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ホームレスの介護施設のようなところに支援者の老人と一緒に来てベッドが沢山並んで部屋から一人の男を起こしこれから演技させるらしい.

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エグランティーヌと呼ぶと彼女が応えて出てくる.ペルスヴァル役の頭のはげた男が裸足で彼女の前まで来て彼女に上半身を脱がせて貰ってこの縦の構図で撮られた向かって左側の部屋に二人は姿を消す.入り際に男が何をするかを訊くとエドガーからスタートとだけいえばよいと云われる.

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エドガーが手前から姿を現さずにペルスヴァルと呼ぶと腕を出してスタートと元気に応えるユーモラスなシーンである.

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ペルスヴァルとエグランティーヌの再会のシーンだというエドガーの説明で彼女が彼の肩に手をやりもう一方の掌も当てて肩をさすりその手に彼の手が重ねられるというシーンである.

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次のシーンは最初驚かされた.真っ黒な画面が下から切り裂かれているようで何事が起きたのかと思った.シャッターが下から上にあげられる様が内側の暗闇から撮られている.

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シャッターが上まで上がり掃除の男がモップで掃除を始める所にエドガーが通りかかり立ち止まる.

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彼を左から追い越してきた男女の二人連れが彼の姿を認めて近づいて来て挨拶をする.

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挨拶の画面は映した後なのにミディアムショットに切り替えられてもう一度挨拶から始まる.彼はエドガーの支援者の老人の使用人で前に車を運転したり「彼女」を列車の車庫で探しに行ったとき色々世話をしてくれた人物である.彼はその支援者の老人の所に行ったと云う.エドガーとの決別以来記憶がなくなったという話をする.

映画の企画は駄目になっていたのである.

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二人が近況を話し合っている間連れの女はすこし離れていたが歌を口ずさんでいる.

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キャメラが元に戻ると歌声が止んで彼女が「思考も崩れそうな微笑みを呼ぶ」と言うのが聞こえそれを耳にしたエドガーは彼が電話で「彼女」に伝えた言葉であったので驚いて誰から訊いたかを尋ねるが女は今自分で思いついたという.彼は言葉の時代は終わったと云って彼らと別れる.

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美しい噴水の画面が挿入されて、

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パリに来ていた「彼女」の祖父から彼女の自殺を聞かされる.彼女はずっと結核だったという.本を一冊持って行って欲しいそうだと言われる.住所は知らないはずなのに彼女は知っていた.エドガーは祖父に彼女との間は何もなく十分ずつ二度あったきりだという.彼女からはアイデアーが湧いたが幻滅したという.祖父も彼には幻滅したという.それで選んだのかどうか解らないが「エドガーの旅」という本、この本は小学生用の本で 1938 年に発行されると評判を生んだらしい.その本の大写しに波の音が被さる.

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波の音にかなり毒々しいカラーで海が映し出される.この後は画面はカラーになってデジタルヴィデオで撮影されたものらしい.これから二年前の話である.

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元対独レジスタンスの老人にエドガーはインタビューするためノルマンディーを訪れた.道を歩いていると市の文化部の職員が車で迎えに来てくれた.レジスタンスとカトリック教会との関係の論文とか色々資料があると聞かされるのだが彼はシモーヌ・ヴェイユに捧げるカンタータを作っていると云ってシモーヌ・ヴェイユ全集を取りだして見せる.

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そしてシモーヌ・ヴェイユの肖像写真である.

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インタビューはお互いの関心が全く咬み合わずそれぞれ別の事を話している.

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波間に浮かぶ二艘の小舟が映し出される.これは二人の愛を象徴しているのかと思った.エドガーと「彼女」の二人である.

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浜で小舟になにやら書いている女性がいる.

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彼女は立ち上がって筆で虚空に文字を書く.日本だったらこれは何の変哲もない動作であるが西洋人は決してこの動作はしないらしい.初めて日本人が指で虚空に文字を書いているのを目撃した西洋人は何かのまじないなのかと思うほどに希有な事なのである.

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この男はアメリカの国防省の役人で全ては我々が取り仕切りハリウッドは僕(しもべ)に過ぎないと言ってのける.

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レジスタンスの老人と話していると誰かが来た.老人は孫娘だという.エドガーは出迎えに行って挨拶をするが彼女はさっと身をかわして行ってしまう.これこそ初対面の「彼女」なのである.この時だけ彼女の顔がはっきりと映る.船に文字を書いていた女性も「彼女」である.

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風見鶏が飛行機になってプロペラが風を受けて回るその影が小舟に映っているショットが挿入される.

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ハリウッドの映画会社スピルバーグが「彼女」の祖父と祖母のレジスタンス時代(41 年から 44 年)の話を元に映画を作る交渉にやってきていた.国務省はその後ろ盾で来たようである.確認事項をこのエイジェントが読み上げる.題名は「トリスタンとイゾルデ」で、これは祖父が作った組織の暗号名.主演はオスカー女優のジュリエット・ピノシュ、脚本はアメリカで有名な作家誰々と言うところで「彼女」から異議が入る.

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アメリカというのは南アメリカなのかという異議である.連邦だと応えると、ブラジルも連邦だという.北の連邦だというとカナダもメキシコも連邦だという.アメリカ合衆国だという.ブラジルの人はブラジリアンだしカナダの人はカナディアンでメキシコの人はメキシカン、人の名前がないような国とは契約は結べないと.だからこそ他の国の物語が欲しいのだ.歴史のない国は.他国にルーツを求めても良いが、ベトナムとか、サライエヴォとか、それならもっと穏やかに友好的にできないのか.

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そして今度は裸である.最近はどんな映画も恋人同士が裸で転がり回るがこんなのお爺ちゃんとお婆ちゃんの話かと祖母に見せる.そして小声のナレーション.スティーブン・スピルバーグ、シンドラー夫人は一銭も貰わず南米にいる.

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祖父のいるところと祖母達の所は別棟になっているらしく、エドガーは台所の窓から中を窺っている.「彼女」がやってきて彼を招じ入れる.この構図は縦の構図であるが人物は横に中と外に並ぶというこんなシーンを他で観た事があったかと思う.

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エドガーと祖父が話していると彼女が黄色のコートで窓をさっと横切る.入ってきて祖父に何かを渡してまた出ていき逆方向に窓を横切る.これも素晴らしい.

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交渉は終わりアメリカ人三人がお互いにねぎらいあっている様子がロングでとらえられ、エドガーを迎えに来た市の職員の男がこの三人の真ん中を突っ切って国防省の役人を邪魔だとばかり突き飛ばす.次にエドガーが来てそこまでは行かないがかなりよそよそしく通っていく.

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エドガーが別れを言いに行くと「彼女」から話があると言われる.相変わらず顔は隠して彼女はエドガーに訊く.眼の力が衰えたのは何時からだと.テレビが優勢になってからと応えると、何より優勢なのかと云う.人生よりと応えるとそうだと云われる.私達の眼差しは管理されたプログラムで無を打ち消す映像だけが私達に向けられた無の眼差し.と彼女の言葉.

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国務省は来たとき同様ヘリコプターで去っていく.この映像も美しい.

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映画会社も高そうな車で去っていく.

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市役所の男とエドガーは語り合う.タイタニックの世界的ヒットを話題にして何になる.存在を語ろうとエドガー.先ず事物から語ろうと云う.市役所の男はある点賛成するが人は存在を変えるために他人の人生を娼婦のように利用するという.人は汚い他人を自分のために利用するのだという.存在は楽しめるが人生は無理だとエドガー.市役所の男はレジスタンスの汚い実体を話す.そこに「彼女」がやってきて話しに加わる.祖母は収容所でド・ゴールの娘に出逢って宗教心に目覚めたという.

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三人の会話から戻った「彼女」は祖母に映画の事を知らないからとこれをお婆ちゃんに渡すよう預かったという.本はロベール・ブレッソンの「シネマトグラフ覚書」であった.

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最後の最後、未だエドガーは立ち去らずにいると「彼女」が外から戻ってくると、二人は波に包まれる映像となる.

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帰りは彼女が駅まで来るまで送ってくれる.彼女の最後の言葉はアウグスティヌスからの引用で「愛の基準は基準を超えて愛すること」である.そして彼の姿はデジタル処理された水彩のような空と海の青と黄色とオレンジ色の中に溶け込む.

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列車でパリについてエドガーはシャトーブリアンを引用する.「かくてわが物語も終わる.駆け足で過ぎ去ったイメージが残るばかり.シャンゼリゼへ行こう.誰よりも多くの影を従えて」


こんな悲しい映画だとは思わなかった.白黒の部分の最後でそれが解ってカラーの部分はいるのだろうかと思ったが、これがないと悲しみにうち捨てられるのが、何か救いというようなものを後半のカラー画面は持っている.この映画の最大にお謎は「彼女」の顔を決してまとものは見せてくれない事である.その理由は見る人それぞれが解釈して良いのかなと思う.顔は見えないのだけど見えるという奇妙な感覚に捉えられる.それも後半のカラーがあって初めてそう感じられるのである.

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