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マルコ・ベロッキオ「肉体の悪魔」のショット

今回も話の筋は語らず幾つかのショットの連続を観ていくことにする.先ずは出だしのイタリア映画は窓から心地よい微風が入って来るというのに相応しい冒頭のシーンである.


冒頭のシーン

遠くに山並みの眺められる晴れ渡った空の下斜め上から屋根が映し出され右手奥は高校の教室で中から詩についての講義をしている声が聞こえてくる.窓は開け放たれさぞや気持ちよく微風が入ってくるのだとその詩の解説を聞いているとこの爽やかな光景に異物が闖入してくる.

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教室と直角の位置にある屋根の瓦の上を半裸の黒人の女性が現れるのである.女性は泣き声とも付かぬ叫びを上げる.

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キャメラは切り替わって教室の中が映されると生徒達は窓の外の異変に気付き教師の止めるのも聞かずに一斉に窓際に集まってくる.

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キャメラは切り替わり生徒達の視点で屋根の上の黒人女性何を言っているのか解らず取り乱した様子は狂気を窺わせる.

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キャメラがまた切り替えされて教室の生徒達がバストショットで映される.赤いシャツの青年がフェデリコ・ピッツァリス演じるアンドレアである.

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次にさっきの狂気の娘の奥側のテラスでこちらを見ていた男はカトリックの神父でお嬢さん命はあなたのものではない、神のものだと馬鹿なことしか言わず、何の効果もない説得をずっと試みている.狂気の娘はそれを馬鹿にして笑って生徒達に示したりもする.

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神父の執拗な声に娘は耳を塞ぎ叫び悲しみの声を上げる.

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神父のいる側のアパートメントの寝室で表の声に目を覚まされた娘、マルーシュカ・デートメルスの演じるジュリアがまだ目が覚めないという面持ちでテラスに姿を現す.

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狂気の娘の後ろからキャメラは神父のいるテラスの面々を映し出す.左からジュリア、ジュリアの母親神父である.左右は意味があると思う.娘はよろけながら立ち上がろうとする.

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立ち上がった瞬間キャメラはロングで上を見上げて、ジュリアのいる位置、アンドレアのいる教室が平行に向き合っていてその二つの建物を繋ぐ形の屋根に狂気の娘がいて如何に危険な高さにいるのかが知らされる.

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ジュリアは一言も発せず娘を深く悲しげな表情で見つめる.

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屋根の娘は真っ直ぐにジュリアの方を向いて彼女の頬には止めどもなく涙がこぼれる.暫く涙を流した後はっと正気に戻った様子で自分が危険な場所にいることに気付き助けを呼ぶと、教室から出てきた男子生徒に助けられ教室まで誘われる.アンドレアは別の関心事があって助けには行かなかった.彼の視線はジュリアに釘付けである.

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この冒頭のシーンでアンドレアはジュリアという存在を知り、人は左から右に並んで一番右は馬鹿な神父であり、左はジュリアであるという隠されたテーマが語られ、そして狂気というテーマに高さというテーマも語られる.この黒人の娘はそれらを語るためにどこからともなく出現したが、以降は一度も登場しない.

檻とセックス

冒頭のシーンの後アンドレアは教室を抜け出し、運転手付きの車で出掛けるジュリアの後をバイクで追う.途中、車に同乗の神父とジュリアは道路沿いのテロリストに殺されたという人物の小さな墓標に花を捧げ、行った先は裁判所であった.裁判は過激派の活動分子の集団裁判で被告達は改心したものとしないものの二つの檻に分けて入れられている.改心したものの檻にはジュリアの夫で金持ちのぼんぼんが収容され、このぼんぼんの母親やジュリアと盛んに合図を送りあっている.この男はジュリアの夫である.改心したものの檻の被告は特別扱いなのである.

二度目にアンドレアが裁判所に行ったとき傍聴席の長いベンチの左端に座るジュリアが右端にアンドレアが座ると身振りで挨拶を送って来た.暫くしてジュリアは何かを見つけてそれを知らせにアンドレアの隣にやって来る.

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ジュリアに言われるままに改心しない者達の檻の中を見ると他の被告達が周りを囲んで新聞を開き見えないようにしている中で男女の被告が性行為を行っている.全く改心していないとアンドレアはそれを見つめるが、ジュリアから余り見ると見つかっちゃうから駄目だと言われる.

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併し事は発覚、場内騒然でキャメラは引いてロングになり檻の入り口に守衛は殺到する.

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檻は大写しになって性に勤しむ男女を残して他の被告達は入り口で守衛を押し戻し入って来るのを阻止している.

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そこでキャメラはジュリアに向いたかと思うと彼女は大声で「最後までヤラセテあげて」と叫ぶ.慌てたアンドレアは彼女の腕をとって外に連れ出す.

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その後ボートに乗ったり彼女のアパートに行ったりで二人の距離はどんどん縮まって行く.

裸体と鍵

アンドレアの父は金持ちが顧客の精神分析医である.ある日客の一人がお宅のご子息を裁判所で見かけて、それがジュリアの夫の裁判で、ご子息はジュリアと一緒にいたと告げる.その話を聞くとフラッシュバックで患者の一人である素っ裸のジュリアが父に迫ってくるところが映される.

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逃げ惑う父を彼女は部屋から出すまいと部屋の鍵をとって窓の外に捨てる.この素っ裸で鍵を外に投げ捨てるという行為が後で再び起こるのでこの画面は意味があるのかも知れない.そのことで息子とジュリアの関係を知って父はアンドレアに彼女は狂人だから危険だと告げるが彼の聞き入れるところではない.

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ベッドと靴と破壊

ジュリアは直ぐに保釈されるらしい夫と住む新居の広いアパートメントに屡々アンドレアは訪れていた.ある日夫の母親がジュリアとともに部屋の手入れにやってきていた.そこにアンドレアが尋ねてきたが姑が出ると背後のジュリアを見て階を間違ったと言って立ち去る.姑は程なく帰るというとジュリアは暫く残ると言って姑だけを帰し、直ぐさまアンドレアを招き入れる.

所が直ぐに姑が電話を忘れたと言って戻ってきた.そのくせ電話の方向とは別の方向に行こうとするので彼女は慌てて阻止して電話のある方を示す.

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翻ってアンドレアを奥の寝室に隠れるようにする.

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所が姑もさるもの、直ぐに寝室にやってくる.アンドレアはベッドの下にいたがベッドのそこに張り付いて息を殺す.

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部屋を見回した姑はベッドを見たかと思うと驚く行動をする.自分の靴の片方を手にしてベッドの下に向けて思いっきり靴を滑らせた.アンドレアの張り付いた下を通って靴は反対側まで滑って行く.

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その瞬間光景を見ていたわけではないがジュリアは結婚祝いの真新しい皿の重なったのを床に幾つも投げつけた.

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彼女は姑への当てつけでお皿を壊したと語るであろう.表面彼女は良い子振っているがこの女を心底嫌っている.隠れたテーマは、ブルジョワ倫理の権化のような女の猜疑心とそれへの破壊である.

再び高さと鍵

ある時アンドレアは目が覚めると私を捜さないでくれという置き手紙があって、彼女は夫との面会に出掛けていた.夫は平凡が一番でこれからは目立たない生活がしたいと下手な詩を朗読して彼女は彼の股の間をまさぐって性欲を満足させてやろうとするが夫はそれに応える様子もない.

彼女に会えないのでアンドレアはある晩ビルを上って会いに行く.二人の性生活は濃密で殊更それを見せるのはこの映画の表向きの話のテーマ、ニンフォマニア狂女が若い高校生を誘惑するということを強調するためであろうか.モザイクが入って見えないがポルノまがいの映像もある.

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先に目が覚めた彼が学校に行くので戸を開ける鍵はどこだと彼女を起こすが彼女は次の時間からにしろと言って渡そうとしない.理由を尋ねると私は変わり者だと言って埒が開かない.彼はテラスに出て降りられるところを探していると彼女が素っ裸で鍵を振って見せている.

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そうしていたかと思うと彼女はホイと鍵を投げ捨ててしまった.

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やむなく彼は屋根伝いに降りて行く.

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この二度まで出てきた素っ裸で鍵を捨てるという行為の意味が分からない.高さというのは階級闘争の暗示のような気がする.冒頭に黒人娘やアンドレアは高いところで途方に暮れる.

扨、ジュリアの夫はテレビに出て、共産党に声を掛けたが梨の礫、社会党に声を掛けたが梨の礫、教会だけが来てくれたと歯の浮くような改心振りを示し、裁判は結審して彼も含めて全員禁固二十数年の刑を受けるが最後に彼だけが即時保釈なのである.金の力と宗教界の力でそれがなされたことは見え見えである.併し、保釈の日にジュリアだけは来なかった.

卒業試験

卒業試験は筆記試験と口頭試問である.アンドレアは優秀な生徒で筆記試験は大幅二時間を残して出てきてしまう.ラディゲの原作でも彼は優秀な生徒で、粗筋は忘れたが、彼の次に優秀な生徒の二人が学校を止めて学校は一度に二人の最優秀の生徒を失ったとあった.

口頭試問は公開でありジュリアも来ている.問題は哲学のことが訊かれそれには難なく答え、次にギリシャ語のアンティゴネ-の一節を朗読して訳を言い、アンティゴネーとクレオンの相違はどこにあるかの問いにも難なく答える.

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後ろでその様を見聞きしているジュリアは夫の保釈には行かずアンドレアを選んでいた.彼女の頬には涙が見えた.

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この映画初めて観たときは解らなかったが、このマルコ・ベロッキオという監督は若い頃から反体制の作家でそれがこの作品にも裏の意味として見られる.この監督の他の作品は「サバス(1988)」というのを見ただけであるが、魔女の話でなんだか陰惨な感じの映画であった.狂気ということが好きな作家なのかなという気がしていたが、この「肉体の悪魔」はレイモン・ラディゲの一人称小説「肉体の悪魔」を見事に翻案している、原作が心理小説であるがこの映画は一切心理描写はない.鍵を素っ裸で投げ捨てるという行為は今思いついたが後生大事にしまい込んでいる財産を鍵を何もない身体一つで廃棄してしまうという意味なのだろうかと思う.狂気は狂気の世界にあっては正常という意味かも知れない.併し、映画ではなく政治思想に行ってしまって、この映画そのものの魅力はどう語ったらよいのかと思う.この映画は一度も雨が降らず、冒頭の屋根の画面のように晴れ渡って、テラスの花々や、ジュリアの素肌に掛けているガウンのオレンジの色や冒頭のアンドレアのシャツの色が実に美しい.そして全てが映像で表現されている.

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