viva cinema

ヴィスコンティ「ベニスに死す」水と美少年

BeauMale
2011.10.20

ルキノ・ヴィスコンティの「ベニスに死す (1971)」は晩年の最も充実していたときの一本である.この後「ルードウィヒ」シリーズが二本続き、二つの最高傑作「家族の肖像 (1974)」と「イノセント (1975)」が続く.「ベニスに死す」は劇場で昔観たが、今回は二回目である.DVD でも観た.今回の劇場でのはニュープリントだとあったが、雨が降っていた.劇場で観た映画であっても DVD もあるので写真が多くなってしまった.下で述べるように証拠写真は全て撮ろうと思ったので写真の数が多い.

ダーク・ボガード演じる主人公はミュンヘンを拠点にする作曲家であり指揮者である.夏の休暇か病の療養かでベニスにやってきた.まるで真冬の服装であるが、十九世紀末から二十世紀初頭の旅はこんな服装なのか彼が病持ちだからなのか解らない.

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船は浅瀬には来られないので停泊して、ゴンドラやモーターボートで運ばれる.行き先は リド である.水の都だから当たり前かも知れないが圧倒的な水に迎えられる.映画では水が良く映されるが、不定形に形を変える水や雲や蒸気や煙はリュミエールの昔から映画の重要な主題である.

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ホテルに着き窓を開けると、海水浴場でここが行き着く場所であるから最初に示される.

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次はフラッシュバックで現れた画面.ミュンヘンでの演奏中倒れて、年下友人であるの音楽家に慰められている.医者の見立ては心臓で心臓が弱っているという.この友人とは美についての考えを異にして度々論争する画面がフラッシュバックで出てくる.ダーク・ボガードは美は人間の精神の作り上げるもので人間の尊厳を内包している調和の中にあると主張するが、友人は感性のたまもので、悪や堕落を内包していると主張する.

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ホテルの夕食の準備が整うまではロビーはそれを待つ客達で溢れている.キャメラはその人々をゆっくり左右上下に捉えていき、ダーク・ボガードが空いている席を見つけるまで長回しされる.ダーク・ボガードが席に着くやキャメラは切り替わって彼の眼差しに変わる.一つの家族に目が向き左端から、女の子、大人の女性、また女の子、次の女の子と子供達の整った顔立ちが映し出されていく.彼女たちは皆行儀良くきちんと席に着いて余り話をする様子もない.最後の女の子の後に登場したのが美貌の少年タジオである.この物語の中で名前で呼ばれ名前が解るのはこの少年だけである.

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余りもの美貌の少年を目にしたダーク・ボガードは殆ど表情を変えないが、何を思ったか手にした新聞で顔を隠してしまう.

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ホテルの支配人がが食事の準備が出来たことを告げて大部分のグループは食堂へと案内されていく.ダーク・ボガードと美貌の少年の家族だけがまだ座っている.新聞から再び顔を出したダーク・ボガードの視線にキャメラは戻り、ロビー右奥に美しい夫人が現れたところをロングで捉え、夫人が左に向かって歩き出すとキャメラはダーク・ボガードの眼差しがその姿を追っている様を映す.キャメラは切り替えされて、夫人が近づき子供達も一斉に立ち上がり、彼女に一人一人が挨拶して皆の中心となる.彼女の到着を待っていたのである.話は殆ど聞こえないがフランス語らしく当時の貴族の公用語である.子供達の中にいた大人の女性のことはマドモワゼルと云っているので、子供達の養育係、あるいは家庭教師らしい.

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この夫人は子供達の母親で、一人一人に声を掛け子供達は神妙に受け答えをしている.こうした会話は殆ど聞き取れず字幕も出ない.この映画全体でダーク・ボガードの脳裏に浮かぶ画面をフラッシュバックで表した以外殆ど聞き取れる言葉のやりとりはない.さて、この美しい女性がアップで映されると、彼女を演じるのはシルヴァーナ・マンガーノであった.最初のタイトルで一番最後に特別出演として名前が載ったのでどこに出てくるのだろうと思っていた.

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扨ここまでは何かが起きそうな気配は美貌の少年以外にない.マンガーノ一家が食堂に向けて立ち上がり、母親、家庭教師、三人の娘、それと少し遅れて美貌の少年タジオというのがいつも繰り返されるパターンである.この最初の時もそうである.タジオが両の腕を後ろで組んでいることは注意しよう.

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家族が食堂へ姿を消していくが最後のタジオだけが立ち止まり、ダーク・ボガードに視線を向ける.これが最初の証拠写真である.これ以前に一度もダーク・ボガードを意識したことがないのにこれは変なことである.まだ最後に残っている奴がいるなと見ていると解釈できようが、その解釈では収まらない.次々と同じ事が起きるのである.

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ダーク・ボガードもその視線に促されるかのように、食堂に向かう.彼はあの一家の居場所を目で捜すが見つからない、近くの席に着きたかったのであろうが、支配人から無理矢理勧められた席に着く.腹を立てたのか小食なのかスープと魚でよいと注文して辺りを目でやると彼らの席が見つかった.そちらを見ていると、タジオが振り返る.証拠写真の二番目である.

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翌日海岸出でて、彼はテーブルと椅子で書き物をしているが直ぐに飽きて安楽椅子に移る.彼の目はタジオを捜している.タジオが腕を後ろに組んで友達と歩いている

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ダーク・ボガードは水際に行ってみるがこれは驚くべきことが起きているのである.一番左のボートの前に白いスーツを着ているのが彼であるが後ろ手に組んでいるではないか.これ以前に一度も無かったことなのである.タジオの姿勢を反復しているのである.

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ホテルに帰ってエレベーターに乗ると少年や少女の一団が乗り込んで来て彼を囲みクスクス笑いをしている.入り口付近の少年はタジオでありダーク・ボガードの居心地の悪い様子が映される.それどころか、最初に止まった階でタジオだけが降りたかと思ったらそこからダーク・ボガードの顔をまっすぐ見つめているのである.

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部屋に戻ったダーク・ボガードは大荒れである.彼の美には悪は含まれない.当時のヨーロッパでは同性愛は悪であり刑事罰の対象である.それにフラッシュバックで美しい妻との愛に満ちた生活は何度も出てきているし、持ってきた大きな妻の写真に口吻する場面もある.彼自身変態ではないと思いたい.併し、これはどうしたことか、危ない瀬戸際にいるのではないかと、ベニスを引き上げることにする.荷物はミュンヘン宛に送らせ船でイタリア本土に戻り後は汽車でドイツに行けばよい.手続きを済ませてホテルを出ようとするとタジオとすれ違った.そして笑みさえ浮かべて彼を見つめるのである.もう逃げられないぞと云わんばかりである.

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併し彼は船で渡っていよいよお別れだと云うときにホテルから問題発生を知らせてきた.荷物のお送り先を手違いで間違えたという.彼はカンカンになって、荷物が戻らないとここを動かないぞ、今すぐリドに戻せと息巻くのである.とはいえ彼の目は笑っていた.リドへ戻る船では小躍りせんばかりに喜んでいる.水に囲まれあの視線がどれ強力なのかは知るよしもない.

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ホテルの部屋のバルコニーから海岸のタジオの姿を認めるや相手には気付かれないであろうが「タジオ、戻ってきたよ」と独り語を呟き手さえ振る.

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タジオと同じにもうすっかり後ろ手に組んで海の家に向かうのである.

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すると前を赤い水着のタジオが進み柱を片手で掴んでそれを一周してみせる.柱三本までタジオは回転しながら彼の顔を見る.ほら云ったとおりに戻っただろうと云わんばかりである.

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ある日、ホテルのピアノをタジオが「エリーゼのために」を訥々と弾いていた.彼の連想はある時娼館で娼婦の一人が同じように「エリーゼのために」を弾き、彼が現れると弾き止めて下着だけになったところが鏡に映され徐々に彼女の姿が見えてきたところに彼が歩み寄るがその後何事もなく出て行くという想い出がフラッシュバックで映されるが、この画面だけは解らなかった.ただ単に同じ曲を同じに弾いて鏡があるという画面を作りたかっただけかも知れない.

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本当に黒々とした闇夜にタジオの一家とすれ違う.彼の両腕では後ろで組まれている.

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そしてすれ違いざま、いつも通りに微笑を浮かべたタジオに見つめられる.離れてから彼はベンチに座り「タジオ、誰にでもそうやって笑いかけたらいけないよ.君を愛している」とまで独り言を云ってしまう.

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これまでの出会いは偶然であったが、故意に隠れて後を追うようになる.この写真解りにくいが手前に人物がタジオでその肩の辺り奥に彼が潜んでいる.

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扨、状況は深刻になってきた.街に伝染病が流行っているという噂があって、ダーク・ボガードも何人かに訊いたがベニスの住民は誰も取り合わない.ある時街中が消毒されているのに出逢った、銀行に行って訊くと最初は予防のためだと誰もと同じ事を繰り返すだけであったが、奥に入れられて他言無用であるが、コレラの大流行でばたばた人が死んでいる.即刻ベニスを出ないと出られなくなると教えられる.ベニスの夏は観光業の売り上げ時で誰も口外しないのだという.

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そんなとき彼は床屋に行くと、髪と眉と髭は黒々と染められ、顔は白塗りにされ、唇には紅さえさされる.これはまるで死に化粧である.胸に薔薇を挿して貰って彼は満足げである.いよいよ終末に向かってことが動いている.

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外で橋を渡るタジオの一団と運河沿いにいるダーク・ボガードの姿が運河の水面に映る.一瞬の美しい映像であるがこれも良くない徴としか見えない.逆さなのだから.

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街は非道い状態になっている.警告の大きなビラがあちこちに張り出されて、辺りは何やら燃やされ道は燃えかすが散らばっている.いつものようにタジオ達を追って狭い路地を入ると彼が振り返って見ているのが縦の構図で表される.

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更に行くと遅れがちのタジオの許まで家庭教師が戻ってきて、タジオの見る方向にはダーク・ボガードの白い姿がこれも縦の構図で見えるが、さっきと反対で決定的に危ないことである.映画でこれまでない構図は何かの起こる前触れであることが多い.

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そしてそれはその通りになった.さっきの散歩で疲労困憊なのか具合の悪くなったのかダーク・ボガードが浜辺で係員に肩を借りてやっと椅子に座ると、既にコレラ騒動で人気の無くなった海岸の水際に向かってタジオが進んで行く姿がロングで捉えられる.彼は水に入っても構わず進んで行く.あるところまで行くとキャメラは近づき彼が片手を腰にもう一方の腕を伸ばして彼方を指し示している.

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それを見た彼の顔は歓びに打ち震えるがそれが最期であった.椅子の上でくずおれて終う.

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少年の正体は何者であったかこれで分かると思う.勝手な想像ではなく映像が証拠になっている.ダーク・ボガードではなく少年が彼に自分の反復までさせて招き寄せているのである.

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