viva cinema

ホウ・シャオシェン 「ナイルの娘 尼羅河女児」の構図

BeauMale
2011.9.14

侯孝賢 ホウ・シャオシェンを観た.「ナイルの娘(1987)尼羅河女児」である.「ナイルの娘」という漫画に添っているらしいが、最初と最後にエジプト古代王朝時代の壁画がちょこっと出て主人公の若い娘がそこに入ってファラオが好きになるといったことが独白として述べられるが、それについては解らない.最初逆光の暗い画面で二番目の兄が中三の時にヘッドフォンステレオを買ってくれたというナレーションでその様子が映され、この兄は勤めに行くといって泥棒家業に精を出していることが説明される.今では死んだ長兄が生きていたときはその次兄を木刀で殴って悪さをさせまいとして、父親は彼の両足に手錠を填めたがそれでもぴょんぴょん跳ねて出て行ったと語られる.母は癌で死亡してその末期に鎮痛剤を打って介護していたのが次兄であることも語られ暗い画面が出る.

Hosted by Picasa

時は経ってその兄は今ではバーのような店を持ち、彼女はマクドナルドで働き、夜学に通っている.もう一人小学生の女の子が家にはいる.筆者がこの映画を観ていて気付いたのは、縦の構図というか奥行きの構図が特定の場所では多いことである.彼女の家の内部の描写は必ずといって良いほどにこの構図が取られる.下で一番手前が彼女でその奥が台所のような場所で、その左に見える机で妹はいつも勉強している.右の奥が洗面所で今は妹がいて手を洗っている.左奥が網戸になっていて玄関口で人々は必ずそこから出入りする.今見えるのは隣の息子夫婦と住む爺さんで、いつもひょこひょここの入り口から入ってくる.

Hosted by Picasa

もう一つこの構図を取る場所は夜学である.こちらの教室の生徒が向かいの建物の生徒達と話していてそれがこちらに実に垂直になっている.

Hosted by Picasa

次のも学校で、上の窓より少し右によると廊下が見えて向こうから教師が手前に向かって近づいてくるところである.この学校はこの教師の授業しか決して映されないのであるが、授業はこれしかなと云うことは無いであろうが、この授業は哲学・思想といったもので、まったく説明されないが、皆のお気に入りの授業のようで、誰も休まず真剣に話を聞いている.エリック・ロメールの「春のソナタ」でリセの哲学を教えている女教師が、他の科目は勉強したかどうかが問題だが哲学は誰も自分の存在が掛かっているので悪い成績を取りたくなく真剣だと話していたのを思い出す.

Hosted by Picasa

最初の所で向こうから彼女に入ってくるのが爺さんであると書いたが次は、飄々としたこの老人は宝籤好きで、偶に当たったりすると気前が良く、孫達に金を分け与え、また息子夫婦の所より孫達の所の方が好きで、下に映っている小学生の娘からは邪険にされてもやってきて食事もともにすることが多く、これぞ侯孝賢的老人なのである.今下の妹のいる机で姉が料理をしていると、爺さん入ってきて一寸話してまた出て行くので、どうしたのだろうと思っていると、手足を動かして体操のようなことをやっていたかと思ったら、またすぐ戻ってきた.彼女はその様子を見ていたので、何していたのか訊くと、爺さんおならをしてたのだと応える.向こうが風上なのになんていうことをするのだと、彼女は臭いを払うようにするので、爺さんは子供は皆おならすると喜ぶと済ましている.これは小津の「お早う」だなと思う.

Hosted by Picasa

扨、泥棒だった兄の経営するバーはその昔の仲間の出入りする場所でもある.父親は一緒に住んでいないが、他の街に赴任している警官である.偶に家に帰り兄と顔を合わすと、警官だからお前の店がどんなものぐらい知っていると喧嘩が絶えない.兄の仲間の一人は彼女が好ましく思っている相手で彼女もよく会いに行って車を借りたりしている.その男が、下の写真の美人と良い仲になったらしいが、これが他のグループのボスの情婦でもめているらしい.兄は妹にその男は色々問題あるあら近づくなと警告を出している.結局男は襲われ怪我をして、南方にその美人の運転する車で逃げることになるが、途中で殺されてしまう.

Hosted by Picasa

次の画面であるが来れも最初の家の奥行きの構図である.所がこれを見てびっくりした.向きが反対なのである.これまで決して反対の向きから取られたことのない構図が全く反対に映っている.入ってきた男は殺された男か兄かと思ったが傷をしていて、この映し方の向きの逆転でこれは幽霊に違いないと悟った.まっすぐ歩いてきて今までだったら彼女の部屋は向かって左にあるはずだがその男は右に入る.部屋には彼女が寝ていて男はベッドの蒲団もろとも引きづり落とされ悲鳴を上げて彼女は目を覚ます.幽霊は夢の中に出てきたのである.

Hosted by Picasa

兄の店はいきなり警察の手が入ったりして客が寄りつかなくなる.友達の男を殺した敵対勢力の嫌がらせである.結局彼は店を手放し、この家の金を管理している彼女に有り金全てを下ろさせる.その少し前、父は職務中に怪我をしたと知らせがあって戻ってくる.兄は結婚相手のような女を伴って戻り、怪我の癒えない父親とも喧嘩をしない.彼女はその結婚相手に兄が死ぬ夢を見た話をすると、あの仲間が殺されたことを知っているかといってそこで初めて密かに好きであった男の死を知らされる.彼女が金を下ろし、それを兄に渡す所が下である.

Hosted by Picasa

兄は大金を賭けた博打に負けて、行方不明になり彼女は探し回る.家でその時ラジオのニュースで強盗が入って、入られたところの家人がバットで抵抗してスパナーを持った強盗を退治したと云うのが流れるが、誰の耳も入らない.兄の仲間から昔の手口に似ているので兄ではないかと知らされ、数日後に頭を砕かれた兄の確認をして、落ち着いていた父はいきなり遺体に殴りかかっていつまでも息子を詰り続けていたとナレーションで顛末が語られる.

奥行きはある種幸せな空間でそれが逆転すると死が迫るという物語なのであった.

top