viva cinema

エリック・ロメール「コレクションする女」のプロローグ

BeauMale
2011.11.11

この七月に書いた文章からそのまま書き抜いておくことから始める.

エリック・ロメールの多分最後の作品だと思うが「グレースと公爵」はコピーを終えると自動的に始まって普通だったら所々見るのだがついつい引き込まれてしまって最後まで見てしまった.この映画は時代劇で、ロメールの時代劇はアーサー王伝説を扱った「聖杯伝説」というこれも奇妙な映画だが他には見たことがない.この映画は劇場で見たとき、もいつものロメールとは違っている、いつものロメールは「クレールの膝 」、「海辺のポーリーヌ 」、「満月の夜」、「緑の光線」、「レネットとミラベル/四つの冒険 」、「春のソナタ」、「冬物語」、「夏物語 」、「木と市長と文化会館/または七つの偶然」といったお気に入りの作品群とは違っているがどこかは同じの何とも言えない変な心持ちの映画であった.

時代はフランス革命で、パリの街が芝居の大道具のように見えるコンピューターグラフィックで作ってある.始めからこれは嘘の話ですよと云わんばかりの風景の中で行われるが、緑の光線が本当に現れるのかとはらはらどきどきするのと同じにどきどきさせられる.公爵はオルレアン公でオルレアン家はルイ十四世の弟から出来た家で、ルイ十四世の弟は鉄仮面を被せられて投獄されるという話があったがそのます末裔かどうかは知らない.このオルレアン公の息子は七月革命で国王になるルイ・フィリップである.革命当時はジャコバン党に入っていた.父オルレアン公はミラボーやラファイエットなどと同様に革命が起きる前から啓蒙思想にかぶれた反国王の革命派の貴族の大立て者である.

グレースはイギリス女性で貴族であり、オルレアン公の愛人としてフランスに住みパリに屋敷を構えている.時は革命の恐怖政治の始まる所で、グレースが郊外の屋敷からパリに戻ると群衆がどこかを襲撃したばかりで貴族の女性の生首を槍で突き刺し彼女の馬車の中にそれを突き入れて嫌がらせをしたりする.このグレースが殊更美人というわけではないが話っぷりがきっぱりしていてキャメラは真っ正面を向いた彼女を写すことが多い.貴族の男達は彼女に対してもお互いにもこれ以上はないと云うほどに礼儀深い.十八世紀の戦争は両軍が戦場で向き合うとどちらからともなく伝令が相手側に行って、どうぞお先に大砲をお撃ち下さいというのだと以前に読んだことがあるがその雰囲気である.併し最初に上げたどの映画でも現代の若者達は会うと必ず礼儀正しく握手をするではないか.それと同じに見えてくる.

と考えると、大道具こそフランス革命が舞台であるがそれは嘘で本当は現代と同じなのかとも思われてくる.はらはらどきどきは一人の逃亡する貴族を彼女のベッドのくぼみに匿い、家宅捜査が入ったときに同じベッドの上に横たわって捜査隊に応対する時である.隊長だけは礼儀をわきまえ、からかい言葉を口にしたり嫌がらせを云う部下をたしなめる.結局見つからずにその場はやり過ごすが、何時までも匿ってはいられない.結局オルレアン公に頼むことにするが、何という危険なことをするのだ、それによりにもよってあんな恩知らずのために命を危うくするのだと怒り、その言葉は隣室で匿われた貴族は聞いている.そんな姿は写さないが、公爵が帰った後に彼女が聞いたかどうかを確かめると、悪いと思いながらついつい聞いてしまったとどこまでも慇懃に答える.その次に三人が一同に会するときは公爵も声を荒げたりしない.外は怒号と血に飢えた民衆がいるが、彼らは別世界なのである.恐怖は突如その世界が交わるところで起き、彼女は逮捕されるが何とロベス・ピエールに救われる.王殺しに賛同することをよしとしない彼女に棄権すると誓った公爵は結局は賛成票を投じて彼女から絶交されたりもするが、そうした葛藤は舞台装置を取り除けば現代劇のロメールに似てくる.ひょっとすると現代劇も現代という枠組み自体が枠組みに過ぎなくある状況に置かれた男女のあるいは女性だけのある生の一面を抽出しているのかのようにも見える.

2011.7.21

と書いていた.「グレースと公爵」が最期の映画だというのは間違っていた.DVD であるが次の「我が至上の愛 ~アストレとセラドン~ (2007)」を観た.これを引用したのは、ロメールの映画というものがこの「コレクションする女」を観ても「我が至上の愛 ~アストレとセラドン~」を観ても一つの枠組みの中に男女を放り込んでその条件下でどう振る舞うかを見つめるというようになっているという思いを強くしたからである.

「コレクションする女」はそれぞれ題名の着いた三つのプロローグで始まる.そのプロローグがこの物語の枠を用意していると見えないか以下見ていく.

プロローグ 1 アイデ

最初のプロローグは、アイデと名が付いていてアイデはエデ・ポリトフが演じる下の若い女性である.

キャメラは歩んでくる姿をロング気味にで捉えてゆっくりパンしながら行き過ぎたところでカットされ、アップになって足だけを映す.右に進んでいた足の歩みは左に方向を変え暫くして立ち止まったところでカットして、頭から胸の上辺りまでがバストショットで捉えられ静止する.次にゆっくり下に向けて嘗めるうに移動する.胸から下腹部までが入ったところで止まってカット.次は背中を映す.そこでまたカットして膝の裏側を映す.カットしてちょうど反対側の膝を正面から捉えて、さっきと逆に今度は上昇して頭が入ったところでアップになる.

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最初のプロローグは一切言葉はなしでアイデという女性の腰の骨や、肩の骨や、鎖骨が美しく見え、こんな映像見せられたら堪らないといったものだけで終了.水辺を若いビキニ姿の女性が歩くだけで、この女性の官能的魅力が余すところ無く表現される.

プロローグ 2 ダニエル

二人の男性が机を前にして語っているだけのシーンである.ダニエル・ポムルールの演じるダニエルが紹介される.ダニエルの作成したオブジェ、黄色のペンキ缶の廻りにカミソリの刃が手を出すものを拒むように植え付けられている.

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左がダニエルでこうしたものを創る造形作家なのだろうか、後々も全く何をやっている人間かは明かされない.骨董の収集家に食って掛かる画面が一度だけある.

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右の男はダニエルのことを褒めそやし、カミソリのペンキ缶に手を出し指に怪我をするが、殆ど応えもしないダニエルはただ冷笑的に笑みを浮かべるだけである.

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プロローグ 3 アドリアン

人物が一人から二人になって最後のプロローグは三人の人物が配される.大きな屋敷の庭園の椅子にふんぞり返ったように座る男性、パトリック・ボーショーの演じるアドリアンである.

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向かい側のベンチに、右に金髪の女性が座り、左に黒髪の女性が座っている.

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黒髪は付き合う男性は美しいことが条件だと話し、金髪は外面の美醜はどうでも良いと言い、キャメラは二人と一人を、カットで切り替えたり、パンで切り替えたり、二人一緒に撮ったりで、

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会話の主体に関係なく動く.

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このプロローグはここで終わりなのかいきなり中断して、アドリアンと金髪が縦の構図で並んで坂道を下って行く画面に切り替えられる.縦の構図というのは二次元画面に奥行きを導入する手段である.

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アドリアンは久々に休暇が取れるので海辺に別荘を借りるので一緒に過ごさないかと誘うが、彼女は、これからロンドンに行くのであなたこそロンドンに来ないかと誘う.彼は、その海辺で商談があるから駄目だというと、彼女はそんなところにいたくはない、足手まといになるだけだといって、ひょいといってしまう.

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その立ち去るところの速いこと、また縦の構図になって立ち去るのである.

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残されたダニエルはぶらりとして庭のプールを前にしてその水に引かれるかのように屋敷の建物の脇を縦の構図で抜けて、

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屋敷に入って行く.実はここのところで騙される.この入っていった建物が別荘なのかと勘違いする.入っていって二階に登って上に上がったら、

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この場所なのであるが、ここはさっき入った屋敷と同じ建物かと思わされる.会話の中でこれから借りる海辺の別荘だったはずだと思うが、登った上は別荘で場所が違うのがわからない.誰もいないものと思って彼は二階の寝室を見て回る.ここからナレーションがダニエルの一人称で入っていくのだが、そのナレーションで彼は女やその他煩いものに煩わせることなくここで静かに過ごすのだと宣言する.

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彼は、これから画廊を経営することになっていて商談というのは出資してくれる中国人の骨董収集家と会うことであった.そういう彼であるから、部屋にある置物は手に取ってみるのは自然なことであるが、手に取るものはこれであるとか、

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あるいはこれであるとか女性の身体がモチーフになっているものばかりである.

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あまつさえこんな場面にも遭遇してしまう.この男と抱き合っているのはプロローグの最初のビキニの女性アイデである.

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翌朝、先に来ていたあのカミソリのペンキ缶の作者ダニエルと話す.ここには女が来ているぞと知らされる.アドリアンがお前寝ているのかと尋ねると、いや、彼女は男を引っ張り込んでいる、いい女だが尻軽女は飽きるとか応えれば、アドリアンは煩かったら追い出してしまおうと如何に自分が女には興味がないかのように言いつのる.

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彼は朝起きをすることに決め海に向かうのであるが、この写真を見れば明らかに最初の屋敷とは違う場所だと解る.ロメールはこういう混乱を平気で持ち込む作家なのである.筆者が実際気付いたわけではないが、一連ショットの連続の中で女性が髪型や服が替わっているのを平気で繋いだりするそうである.普通の観客は画面など見ないで意味の連鎖を追っているのでそんな事やっても大多数は気付かないのだそうである.筆者も気付いたことがないのは画面をきちっと見ていなかったと云うことであろう.

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海は徒歩で直ぐ近くということになっている.海を前にして上をはだけてそれから実際に海面に浮かぶまでに幾つものショットが入るのは感心する.上からそこの小石や海草が見える画面が幾つか挿入されるのである.

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夜隣の部屋からアイデと相手の男の声が聞こえてくる.何度も彼は壁を叩いて静かにしろと隣の部屋に向かっていわなくてはならない.

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結局ダニエルと二人でアイデの男を休暇の邪魔になるといって追い出してしまう.アイデはそれには一言も文句を言わない.併し彼女は毎日のように違う男に電話して、車で迎えに来させて朝帰りで別の男に送って来させる.この電話のシーンは縦の構図になっていてもう一度繰り返される..

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その後アドリアンはアイデと仲直りして一緒に海に出掛けたりもする.彼には彼女が気になってしようがない.女を断つと宣言したのに四六時中彼女のことばかり考えている.併し、ダニエルには、お前には彼女をものにすることたやすいだろうと頻りにけしかける.

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ある日、人に呼ばれて戻ってくる途中ダニエルに先を越されるのではという予感がして急いで戻って二階に駆け上がれば案の定であった.

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そうはなっても冷笑的なダニエルは彼女には知らん顔である.ある時アドリアンとダニエルが彼女を散々言葉でいじめる.お前の名前はこれからコレクションする女だとアドリアンは云えば、ダニエルはコレクションは手当たり次第だ、将来困るぞと説教したりもする.

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二人の目の前で避難に晒されている彼女は嫌な顔もせず知らんぷりでいる.

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そんなある日アドリアンは今日こそは全勢力を注いで彼女に迫ると自分に言い聞かせて泳いだ後に決行するががすげなく払いのけられ彼女が蹴った砂浜の砂が目に入り失敗する.

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商談だという日が来た.棚の宋の時代の花瓶を飾りやって来たこれから開く画廊の出資者でもある中国人のサムに花瓶を見せ、それは売れるのであるがサムがアイデに関心があるのを見て、彼女も引き出物にすることを申し出てしまう.彼女は彼の命じることだったら何でも聞くといって、その日泊まり掛けでサムの家を呼ばれているが、彼は泊まらずに帰るという話にする.

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出掛ける前に身支度するアイデの後ろで彼は、サムは大事な出資者なので夜は彼と二人になるがよろしう頼むと告げるが、彼女は嫌な顔一つせずに承諾する.

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彼女を置いて戻るが、彼の嫉妬は尋常ではない.街のカフェーで座っていると目に入るのは女性の姿ばかりである.翌日迎えに行くと、彼女とサムは見せつけるように仲良くしている.二人が巫山戯て部屋を走り回ったとき彼女はあの宋の時代の花瓶を台から落として木っ端みじんにしてしまう.

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それを機に彼は逃げるようにアイデを連れて戻るがその途中彼女の友達の数人の男が乗った車に遭遇してこれからイタリアに行くが一緒に来ないかと彼女に誘うが彼女は断り、では住所を教えると云われて車を離れた隙に彼はそのままアイデを置き去りにして戻ってしまう.

戻ってからアドリアンは茫然自失である.意を決したように電話機を手にして電話はロンドンまでの航空券の予約であった.

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冒頭のアイデの魅力ある姿態はこの物語の枠組みと云っても良い.そこに、お高くとまった青年が投げ込まれるのである.カミソリの缶の青年ダニエルは彼もお高くとまっているがカミソリを持つだけの強さとニヒリズムを秘めている.三つ目のプロローグのアドリアンは自分こそ美男子の良い男で女は向こうからいくらでもやってくると思っているがこのロメールのストレステストには通るわけがない.何度か挿入される縦の構図、話の筋の展開するときに使われるような気もするがそうとも限らない.孤独を意味しているのであろうか?

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