viva cinema

ジャームッシュ「ブロークン・フラワーズ」ピンクの手紙

BeauMale
2012.1.13

先日の「デッドマン」に続いて、ジャームッシュの映画を語るのはこれで二本目であるが、出だしの手紙の旅が気に入ってその全ショットを拾うというという実に偏執狂的試みをしたのでこの映画のスクリーンショットはこれまでの枚数に比べて記録的に多くなった.

YouTube - BROKEN FLOWERS - Trailers ( 2005 ) 予告編


最初の映像が始まる前にタッタタタッタッタタタタタタッタタタと心地よいタイプの音が鳴る.コンピューターのキーボードではなく昔のタイプライターを打つ音が小気味よく入ったらこの最初の郵便ポストに手袋をした手がピンク色の封筒を一瞬宛名を確かめるように手が止め投函する.些か偏執狂めいているがその後のショットを一つ一つ拾ってみた.

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投函する人は映されることなくロングで郵便ポストのみが映される.

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そしてポストから郵便物の集配人が現れポストから引き出された箱にはピンクの封筒が確かに入っている.

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集配車は進み、

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建物の奥から映されたショットで建物内にバックで入って来る様子が映される.

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集められた手紙は箱から選別する機械へとバサンと投げ出され、その中にはあのピンクの封筒が確かに見える.

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素早い動きで封筒は機械を通り抜けていく.

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立て幅の広いピンクの封筒はここでもはっきりとその存在を主張している.

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箱に纏められた手紙に中にもピンクの封筒が見え、コンベヤーを移動して行く.

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今度は螺旋状のコンベアーで移動して、

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再び車に積まれてさっきとは逆に建物を出て行き、

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車の向かう方向も逆に進み、

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そして飛行機に積まれたのであろう、飛行機が大空を上昇していく.

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その空をバックに赤いリボンのタイプで打った文字でこの映画のタイトルが表示される.

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次いで同じ書体で映画に登場する俳優の名が現れバックの空を消印が右から左へと流れていく.もしこれが「ピンクの手紙が届くまで」という短編映画であれば、その作業に携わる人々の名前が表示されるのであろう.暫く同じようにスタッフの名前が何人も出てくる.

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扨、ここからは郵便配達の登場である.右から左への横移動で郵便配達は家の前庭で遊ぶ子供達の前を通って玄関脇のポストへとこの家宛の手紙を入れに行く.

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そして郵便配達は隣のもう少し立派な家の玄関先へと手紙を運びここまでずっと横移動は続いている.

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そしてここでカットされてミディアムショットになって郵便配達の女性がこの家宛の郵便の束を確認してそこにはあのピンクの手紙が入っている.玄関の扉に着いた郵便受けの穴に手紙を差し入れ、

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ショットは扉の内側へと変わり郵便の束がバサッと云う音とともに床に落ちる.ここまでで郵便が届くまでの短編映画は終わりである.

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何故ここまでのショットを偏執狂的に拾っていったかというと、機械の中を通る手紙の様子が面白かったのがその理由の一つである.白黒映画で各地で巡業など表現するのに新聞の印刷の輪転機が回って、各地で評判がよいことを示したりする映像が良くあったが、カラーではそれが行われなくなった.恐らく色という情報量が増えると輪転機でめまぐるしく刷り出される新聞というのは目がちらつくばかりで効果が少ないからであろう.この手紙が宛先を分類する機械をめまぐるしく移動する様はそれに似ている気がしたのである.あくまでこちらは移動であるから意味は違うが、それを白い封筒の中でピンクの封筒という色の単純化で上手くやり遂げているというのが面白かったのである.

もう一つはこの手紙が車や飛行機に乗って届けられるという事が本編では人間がそうなるという事を先になぞっているということが面白い.大旅行してきた手紙はそれ相応のことをもたらすに違いないとそれへの期待もあった.ジャームッシュの映画は何ということなく人をある種の移動へと駆り立てるという話が多い.そしてこの映画もまさにそれなのである.前回書いた「デッドマン」ではそれは死への旅であったが、ピンクの手紙は何をもたらすのであろうか.

手紙の束が床に落ちる音を聞いて居間にいたドン・ジョンストン(ビル・マーレイ)はちらりとそちらに目をやるが手紙を取りに行こうとはせず、

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見ているテレビで放映されている映画を見続ける.

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すると奥で、同棲している女性シェリー(ジュッディー・デルピー)が旅行に出るかのように荷物を持って現れる.それが縦の構図で映される.彼女がピンクで身を包んでいることは注意しよう.

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縦の構図がこのように切り替えされるというのはあまりないような気がするが、彼女の側からへと切り替えされる.彼女は彼との生活が嫌になりこれから出て行くところである.

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扉の前の手紙の束を拾い上げあなたの昔の愛人から来ていると態々ピンクの手紙を一番上にして彼に渡す.

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彼はそんな者はいないと云って受け取った手紙の束を再び床に投げ出す.

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隣のウィンストン一家は幸せにやっているのに何故家は駄目なのか、あなたは結婚する気もないしと出て行く決意を語る.

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ドンのこの顔は特に悲しみを表している訳ではなく、常にこの表情でいる男なのである.

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強く引き留めるわけではなく、彼女は出て行く.

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一度声を掛けたが相変わらずこの表情で突っ立っている.

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そして彼女は去ってしまった.

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そして居間に戻って相変わらず見るともなくテレビで放映の映画を観ている.

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ちらりと目を暖炉の方に向けるとピンクの花がコップに挿してある.

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結局の所ドンはソファーにそのまま横になり朝に電話で起こされるまで寝て終う.

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朝の電話は隣のウィンストンからで来てくれと云ってくる.昨日の儘玄関の扉の前に放置したままの手紙を持って隣に向かう.

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お隣さんは郵便配達が最初にポストに郵便を届けた前庭で子供が遊んでいた家で、気の良いエチオピア人の夫婦と幼い子供達で賑やかで色彩に溢れた家でドンの所とは正反対である.お互いに、戸口で声を掛けて勝手に上がり込むほどに仲が良い.

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ウィンストン(ジェフリー・ライト)は推理小説マニアでインターネットで推理小説の解説など見ているがそれが突然は入れなくなったとドンに助け船を依頼した.ドンはコンピューターで財をなしたコンピューターの専門家であるが家にはコンピューターは全く置いていない.彼がちょこちょこと触れば直ぐに繋がった.それに感嘆してコンピューターに向かっているウィンストンの後ろでドンは手紙を開いて読み出す.

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ピンクの封筒にはピンクの便せんで赤いリボンで打ったタイプライターで書いてある.ドンが困った顔をしているのでウィンストンが事情を尋ねると、ドンは内容を朗読する.二十年前の恋人が別れた後妊娠に気付いたが、それを受け入れ一人で育てたが今は十九になったドンの息子だとある.息子はどんドンと違って内気だが、最近旅に出た.父親探しの旅ではないかという.ドンのことは何も話していないが感のよい子だから尋ねていくかも知れないので予め知らせておくとあって住所も名前もない.ドンには相手の見当が付かないという.ウィンストンは俄探偵になって虫眼鏡で消印などを調べるが、切手の意匠ぐらいで何も解らない.二十年前の恋人のリストを作っておけという.それでコンピューターで調べれば直ぐに解るからと請け合う.ドンはそんな事誰がするかと断るが、ジャームッシュ的には賽は投げられている.彼は当時の恋人の名前と住所のリストを作った.ドンは昔はドン・ファンで鳴らした男なのである.翌日ウィンストンはやってきてリストを持って行った.

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その翌日は休みではないので、昼休みに外のカフェーでドンはウィンストンに会う.全員の現在の居所と名前も解ったという.航空券もレンタカーもホテルも予約したので探しに行けと云われる.但し一人だけは数年前に死んでいて墓の場所も解っている、良い格好をしてピンクの花束を持って尋ね、調べるのはピンクのもの、タイプライター、子供の有無だと云う.ドンはそんな事やるものかとまたしても断るが、ジャームッシュ的には賽は投げられている.お前が行ったらどうだ、費用は全部出すとウィルストンにいうが、冗談じゃない、妻子がいるし仕事が三つもある、お前自身の人生だろう、明日朝空港まで送ると云われる.

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昼休みが終わってウィルストンは仕事に戻るが、彼の作ったファイルを見ると地図まで添えられた周到な計画である.

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結局空港に行く事になる.このロングのショットの後、

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さすが元ドン・ファンの目は隣でクロスワードゲームに熱中するご婦人の足を見ずにはいられない.キャメラは足下から顔までを嘗めるように映していく.

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ピンクの手紙がそうして届いたのと同じに、飛行機とバスとレンタカーを乗り継いだドンが最初に訪れたのはローラ(シャロン・ストーン)の家である.母親は仕事に出ているが直ぐに戻ると行ってで迎えたのはピンクのバスローブを纏った彼女の娘ロリータである.ロリータと聞いたドンはその名を繰り返す.明らかに彼はナボコフの傑作「ロリータ」を読んでいるであろう.

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ジャームッシュはスタンリー・キューブリックの「ロリータ(1961)」をお意識しているのではないかと写真を探してみた.ジェームス・メイソンがハンバート・ハンバートを演じてその左がロリータである.五十年代のロリータと二十一世紀のロリータは違うだろうが雰囲気は似ている.ジャームッシュは「デッドマン」で人食いの伝説的殺し屋のは殺しは勿論人食いもさせた.ロリータにもその名に相応しいことをさせるのかと思ったらその通りであった.ドンは室内を眺め回していたがビーズを一面に貼り付けた携帯電話が鳴った.

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すると何とロリータはバスローブは脱ぎ捨て真っ裸で彼の前に出て来て携帯に出る.明らかに彼を誘惑している.ドンはうっかりするとハンバート・ハンバートのようにこの娘に振り回されることを警戒したのか外に飛び出した.

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そこに母親ローラが仕事から戻ってきてピンクの花を渡して再会を喜び合う.彼女の夫はレーサーであったがサーキット場で車が炎上して死んだという.今は物の整理や色のコーディネーターを仕事にいているという.

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晩ご飯に鶏をご馳走になり一夜を同じベッドで過ごす.帰りに戸口で見送ってくれるが彼の目は母親の後ろの娘ばかりに行く.ロリータはビキニ姿で手を振っている.気付いた母親に服を着ろと家の中に追い立てるがそのままの姿で窓から手を振っている.庭にガレージセールの椅子やら何やらが出ていたのでタイプライターはないかと訊くとそれはない.

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次に訪れたのは、ドーラ(フランセス・コンロイ)の許である.彼女の方が立派な家に住んでいるので家を褒めると不動産業が当たって売り家に住んでいるという.

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その不動産業の名刺を渡されたらそれがピンクであった.

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夫のロン(クリストファー・マクドナルド)も出て来て、ドンにロンかと詰まらない洒落を言ってお喋りで妻とべたべたしてヌーベル・キュイジーヌ風の量の少ない食事を出され気詰まりな晩餐である.

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その夜この計画の立案者ウィンストンからモーテルに電話で様子を尋ねてくる.二人会ったがもううんざりだ帰りたい.レンタカーはポルシェぐらいにしてくれないとストーカーと間違えられると訴える.

三番目に訪れる女性はカルメン(ジェシカ・ラング)である.このアシスタントの女(クロエ・セヴィニー)に待たされるが、元ドン・ファンは見るべきものを見ることは忘れない.

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彼女はギロリと横目で睨み付け、彼をカルメンから離したがっている.

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カルメンは弁護士をやっていたが、動物行動学の学位を取って、あのエチオピア人の俄探偵と同じウィンストンという名の飼い犬の死後動物との通信が出来るようになって、ペットのコンサルティングと云ったらよいような仕事をしている.彼女からはピンクの物もなく、子供は娘がいるだけでという話で得るものもなくアシスタントの女から持っていった花を返され追われるように帰る.

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最後がペニー(ティルダ・スウィントン)である.家はバイク野郎の巣のような場所でみすぼらしい小屋が建っている.そこでタンクがピンクのバイクを見つけた.バイク野郎に彼女の居所を訊いてその家に行く.

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彼女は何しに来たというばかりに再会を喜ぶ風でもない.息子はいるかと訊くといきなり怒り出し叫び家に入ってしまう.

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さっき家を訊いた男達が駆けつけてくる.ドンは外にピンク色のタイプライターが捨ててあるのに気付く.

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二人の男達はペニーを泣かしたと怒っている.そしていきなり目に強烈なパンチを食らって気絶したのを車に乗せられて放置された状態で目を覚ました.

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実はこれが最後ではない.もう一人墓の中に残っていた.供える花を買った花屋の娘が親切に殴られた傷の手当てをしてくれるが、彼は彼女に好意を感じている.併し彼は手を出さない.ジャームッシュ的掟は厳しく目的以外の事は許されないかのようである.

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墓地に花を供えそこでしばし寛ぎ戻ることになる.

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家に近い空港でタクシーに乗ろうとすると所在なげな若者がいる.気に掛かったがそのまま家に帰り着く.

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家に戻り着くとピンクの花は枯れていた.

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そしてまた一通ピンクの封筒が届いていた.

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翌日ウィンストンにファイルを貰ったのと同じカフェーで会って報告書を提出して散々文句を言う.ウィンストンは重要なのは息子がいるかどうかで余計な沢山の調査項目を詰めすぎたと謝る.そうだお前が悪いのだ、この件に関しては暫く引退だというと、またウィンストンはお前自身の人生だろうというので、だから生きて来たのだともう一通のピンクの手紙を差し出し、出て行ったシェリーからだいうと、何故先に云わない、と手紙を取って中身を見る.お前のこと未だ愛しているなという.封筒も便箋も最初のとは違いまた自筆で書いてあってシェリーの字とは似ているが筆跡鑑定はしてみる、所で最初の手紙もシェリーだと思うかとドンに訊く.ドンは解らないと答える.

ウィンストンが仕事に戻ってからドンは外に空港にいた青年がいるのに気付く.彼は外に飛んで行き青年に、私はホモでも警察ではない.ただ君にサンドイッチを奢りたい男だというと、青年は受け入れ、外でがつがつと食べる.

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青年の荷物にピンクのリボンが結んである.それは母親がお守りに付けた物だという.目の傷を見てどうしたか訊かれるので、強烈なパンチを食らったとドンが答えると、ギャングなのかと云われる.そこで、ドンはコンピューターと女が専門だという話をすると、青年は哲学に興味があるがそれと女だという.青年はドンにサンドイッチを奢る男として何か哲学的助言のようなものはないかと尋ねるので、過去は終わって了った.未来はこれからどうにでもなる.重要なのは現在だと答える.青年は親父臭い説教よりずっと良いと云って礼を述べて行こうとする.ドンは青年に君は私を父親だと思っているのだろうと詰め寄ると気味悪がって逃げ出してしまう.

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追いかけたが追いつかず四つ辻の所で立ち止まるとキャメラは彼の廻り三百六十度を映してから彼を正面から捉えて停止する.相変わらずの彼の表情である.そこで映画は終わりである.

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最後のサンドイッチを奢る男としての哲学的助言という言い回しは面白い.過去からやってきた一通のピンクの手紙はそれがやってきたのと同じに過去である現在の探索へと男を差し向ける.そこに何も見つからない徒労で終わったが、過去と交差した現在は多分別の現在へと変質したはずである.この映画を観た現在と同様に.併しそんな物語の主題は語りたくない.過去ではなく現在がピンクという色で生々しく刻印されているのがこの映画の魅力である.決してピンクが好きだとは云いがたいがそれでもピンクは肉体的に痕跡を残す.

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