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ウィリアム・A・ウェルマン「中共脱出」はゲテモノではない

BeauMale
2012.1.25

確かにこの映画、ウィリアム・A・ウェルマンの「中共脱出(1955)BLOOD ALLEY」制作当時日本では中国のことを中共と呼んでいたし、クレジットには出ていないが、監督、プロデューサーに、反共主義者で戦争好きのジョン・ウェインが名を連ねていると、この映画反共の宣伝映画でかなりにゲテモノ趣味だと思われるが、原題は BLOOD ALLEY で「血の道」で映画では厦門から香港に到る航路の難所で「血の水路と」訳されている.そしてこれがそんなに非道い映画なのだろうかと観てみる事にした.


出だしは厦門にあるのだと思うがその牢屋でジョン・ウェインが囚われている.ジョン・ウェインの手にはどこからともなく渡された書き付けがあって彼は枕に火を点けてその内容を読むと脱獄の手はずが書かれている.彼はこれは罠であると云って取り合わず枕が燃え上がるので看守を呼ぶと数人の人民軍の制服を着た兵隊がやってきて燃えている枕を持って行く.彼の独り言から船を海賊だと思ったら中国軍に奪われここに入れられたという事が解る.そしてして暫くすると愛想の良い兵隊が一人、火を消した枕か別の枕かを持ってくる.その男の行った後枕の破れ目から中を見るとロシア軍の制服と弾の入った拳銃が出てくる.

その後、どのように脱獄したかがの描写が全くないまま次のシーンがこれである.紙切れに書いてあった岬らしいところにロシア軍の軍服を着たジョン・ウェインがやってくる.

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崖を飛び降り待っていたらしい男に全くの無言で従って小舟に乗る.

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この映画で最も美しい描写は水面を滑る船の描写である.水面を動く船、水と空と雲、そして蒸気船であれば吐く煙のたなびき、どれもリュミエール以来の活動写真の面目躍如たる被写体である.ジョン・ウェインを乗せた小舟は静かに水面を滑っていく.何処に行くのかの問いに船を操る男は教えてくれない.

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やがて、大きな船尾に木製の水車を取り付けその回転で動く川蒸気と呼ばれる蒸気船がもくもくと煙を吐きながらやってくるのに行き会い、その前を故意にぎりぎりに横切る.

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こうして美しい描写で何気なく後々ジョン・ウェインが舵を取る川蒸気が紹介されるのである.この辺りはとても丁寧なのである.脱獄シーンは不要とあっさり省略されるが、もっと重要な川蒸気はしっかりと描写される.

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その中、丘の上の城壁で囲まれた村に到着する.小舟を操るのはビッグ・ハン(マイク・マズルキ)という男で英語も解しその後ジョン・ウェインの手足となって働く男であるが、自分の村であるという.城壁の上でなにやら合図をしている.

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桟橋を登ると村長や長老達に丁重に迎えられ、縦の構図で奥から赤い服の女が近づいてくる.この映画は横長のシネマスコープであるから 「加藤泰研究序説」奥行きを利用した映画の演出について にあるように縦の構図で奥行きを表す事は効果的である.

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近づいて来た女はローレン・バコールである.牢獄に書き付けを送ったのは彼女であると解る.ハンフリー・ボガードの実の妻であり彼との共演でその素晴らしさを知っているものにとってはそのローレン・バコールがジョン・ウェインと共演するという歓びをこのシーンで感じるのである.

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ミディアムショットの桟橋での出会いと挨拶で、何故ジョン・ウェインを呼んだ事の理由を尋ねるが、神の使いで奇跡を起こす男だという言葉に眼を白黒させる.

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そして一行は後ろ姿で桟橋を陸に向かって歩みを進めるショットが縦の構図で表現されると、

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キャメラは上昇して丘の上の城壁の村が再び映され、

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そのショットにオーバーラップして一行が城壁の門を潜るところが映される.この辺りの空間を把握する的確さはとてもゲテモノ映画ではないという事が解る.

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先ずはゆっくり休む事だという村長の言葉に促されて、滞在する彼女の家にローレン・バコールとジョン・ウェインは向かい庭の木戸から入って来るところがロングで映され庭を横ぎって、

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建物の入り口の前でミディアムショットに切り替えられる.こうしたところがこの映画は素晴らしいのである.

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翌日村長と長老達がやってきてローレン・バコール、ジョン・ウェインでの会談である.中共政府の独裁には」もう我慢しきれないので、180 人の村人全員で香港に逃れる計画だが、ジョン・ウェインに川蒸気で香港まで運んでくれの依頼である.川蒸気は底が浅くて平らな船で荒海を乗り越えるのは無理だということと、海図がないという事で、ジョン・ウェインは躊躇してすぐには答えない.

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外では村人達が群がって自分たちの運命を変えるかもしれない会談の様子を窺っている.

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答えを延期したジョン・ウェインはローレン・バコールが医者の娘で共産党幹部は父の医療を当てにして手放そうとしない事.丁度今は党幹部の治療で出掛けているという話を聞く.その父もこの作戦には大賛成で船医になれると大喜びだという.家の楼閣からは港が一望できるが、男達が小舟で大きな石を運んでは海に投げ込んでいるという不思議な光景に何をしているのかを訊いても秘密作戦だと云って答えて貰えない.

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海図の事を考えていると海岸付近を色々思い出し、自分で描いてみようと、階段の上から召使いの少女を呼び、大きな紙と筆記具を頼む.これが縦の構図である.

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切り返して上からの縦の構図で了解と云って挨拶する少女が映される.

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持ってきた紙は大きいが医学の解剖図でその裏に筆で海図を描いてみると行けそうな気になってきた.

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もう一度少女を呼ぶと、

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現れたのはローレン・バコールであった.香港への輸送は引き受けたと村長に伝えて欲しいと告げると、彼女は召使いの少女を真似ておどけて見せ既に伝えたと応える.同じ縦の構図で同じ切り返しで相手が変わるという洒落た演出である.

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所が軍隊が脱獄犯を調べに来るという.ローレン・バコールの家は真っ先に調べられるというので、ジョン・ウェインは、学校に死体安置所があるというのも奇妙であるが、勉強してる奥で縦の構図で案内の村長と一緒にやってきて、

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空けてある棺桶の中に隠される.併し彼は海図を残してきて見られたら逃げ道が解ると棺桶から出て再び彼女の家にとって返す.彼女のベッドのマットレスの下に隠れる.

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併し、一人の兵隊が彼女に襲いかかるのを見て、銃剣で刺し殺してしまった.人と人との戦闘シーンはもう一箇所出てくるが、この画面でジョン・ウェインが銃剣を振るうこのシーンだけで突き刺される兵隊は映されず、何とも慎ましやかな演出には驚かされる.

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殺された兵隊は脱走という事になったのかその事は問題にならず軍隊は出ていった.川蒸気の機関長がやってきて、ボイラーは鋼鉄に直し、死体は始末したという.

ボイラーは直され、出航の準備でペンキを塗り直したり皆忙しく立ち働くのをローレン・バコールが見物に来ていた.操舵室のジョン・ウェインの姿を認めると、敬礼を送ってくる.スタンバーグの「モロッコ(1930)」でマレーネ・ディートリッヒが敬礼を送ったのが最初なのか解らないが、あの女性を何とも魅力的に見せる敬礼が再現されている.小津安二郎の「秋刀魚の味(1962)」で岸田今日子が敬礼して見せ、黒沢清の「トウキョウソナタ (2008)」で小泉今日子が敬礼する.映画は間テキスト的なのである.

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ジョン・ウェインは敬礼を返すが、敬礼はこれで終わらない.

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ジョン・ウェインは熱いお茶を貰った.併しそのお茶を持ってデッキに行くのに垂直な梯子を登るのは不可能である.そこで彼は茶碗を頭の船長帽の上に乗せて零さないように慎重に梯子を登る.

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彼がデッキに頭を出すと、デッキにいたまん丸な顔の少女が彼に向かって笑顔で敬礼を送ったのである.何とも可愛らしいシーンである.ジョン・ウェインはそれに対して秋波で応える.この映画はこうして素晴らしい細部に満ちているのである.

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愈船に乗船の当日である.村人は思い思いに荷物を担って丘の城壁から出て来た.

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家畜あり鍋釜あり宗教用具ありでありとあらゆるものが持ち込まれる.

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この男は共産党の幹部でその一族を残していくわけにはいかない.危険であると同時に残してきたら残ったものは殺される可能性がある.一族全員を数珠つなぎにして拉致していく.

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所がローレン・バコールだけが乗船していない.実は彼女の父親は酒癖が悪く飲んで共産党の幹部の手術をして死なせてしまった.そのため人民裁判で処刑されてしまった.その知らせを村長が持ってきて、ここは西洋人同士だから彼女に上手く伝えてくれと頼まれていたのだが、ジョン・ウェインは言い出せずにいたのである.彼女は父親が帰るのを待って乗船しないのだった.

ジョン・ウェインは飛んでいき楼閣にいて乗船しないという彼女の顔を平手打ちして父親の事を話し、乗るように勧める.

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彼女は同意して荷支度をして、彼の手伝いを断るが、

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結局両手に荷物を抱えて船に戻る.

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出発となると人々の視線は皆一斉に丘の上の城壁のある村に注がれ、無人になった城壁が映されるであろう.

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こうして人と荷物を満載した船は桟橋を離れていく.この光景も美しい.

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すると警備艇がやってきた.その映像さえもが美しい.

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キャメラは水中に切り替えられる.直前にも石を落として小舟自体も沈めた場所が映され、そこに警備艇の底がぶつかり座礁したのである.この水中の映像と、川蒸気の人々の喝采でのみ警備艇の座礁は表現され、船の醜い姿は映したくないと云うかの如く警備艇は映されない.

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船は霧の中に突き進んでいく.これから数多くの困難に遭遇してそれが如何に克服されるかが今後の展開である.

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ジョン・ウェインは沖の軍艦に対してはどうするのかと懸念を抱いていたが、村長は霧の中だから見えないと云っていた.併し霧は晴れて丸見えである.知らせが未だ届いていない事に賭けて彼はわざと船を軍艦に近付けた.軍艦では古ぼけた水車の蒸気船の出現で大笑いして無事難を逃れた.

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ある時はこんな木の葉や草を廻りに付けて隠れる.

併し船では事件が起きた.共産党員の一族の誰かが食物に毒を盛ったのである.ジョン・ウェインは子供の一人にその毒の入った食べ物を食べさせようと脅かすと、母親が一族を裏切って犯人を指差した.犯人は見つかっても食料と水は不足である.皮肉な事に人民は毛沢東主義で団結して食料と水の配給制に耐えるのである.この母親役がアニタ・エクバーグなのかなと思うが確証はない.

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次は嵐である.底の平らで浅い、それでいて重心の高い川蒸気には大変な事である.

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ジョン・ウェインは懸命に舵を握っていたがそこに共産党員一族の二人の男がやってきて彼に襲いかかる.この殴り合いのシーンも操舵室の窓の外から映され慎ましい.助けが来る前に二人を倒して彼は舵を握り続ける.

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ローレン・バコールは彼の傷の手当てをして包帯を頭に巻き、一時舵を握る.

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これは計画していた事であるが船は昔座礁した船の残骸に横付けして、材木を集め蒔と修理に使う.総出で材木運びである.また水も雨水がたまっているのでそれも運ぶ.足りないのは食料であるがそれは香港に着けばいくらでも食べられる.

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ここではもう一つやる事があった.共産党員の一族を船の残骸に全員降ろして、君たちは村の友人であるから連れてきた、共産党員と共にいたいものは残していくというと、誰もが船に戻りたく、共産党員は一人だけ孤立して逃げ出したところに軍艦の撃った大砲の弾が炸裂した.全員船に乗せて逃げるのである.

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浅瀬の葦原に逃げ込んで通路を葦で塞ぎエンジンを止めて総出で船を引いて逃げ果せた.

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そして船は夜の香港へと到着したのである.多分イギリス軍の軍艦だと思うがデッキからこの様子を見て老若男女の乗るこの船を歓迎する.そしてこの二人は当然ながら熱い抱擁を交わすのである.

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幾つかの細部を含めて書いたが言うまでもなくこれはまともな良質の映画であり決してゲテモノではないということは自明だと思う.

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