viva cinema

ヴェンダースの「都会のアリス」はどこに連れて行く

BeauMale
2011.10.11

ヴェンダースの「都会のアリス (1973)」は処女作の「都市の夏 (1970)」の三年後の作品である.筆者はこれまでずっと「都会のアリス」こそが処女作だと思っていたがそうではなかった.「都市の夏」は最後に主人公がアメリカに行くといって唐突に飛行機に乗り込み飛行機の窓から映した翼と雲の影像で終わるが、「都会のアリス」は上空遠く空飛ぶ飛行機のシーンから始まる.

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その映像がパンすると交通標識が映って、砂浜の海岸に伸びる桟橋を映してその桟橋を支える柱を海から陸に移動してくると一本の柱によりかかりポラロイドカメラで撮影している男が映しだされる.この男を演じるのはリュディガー・フォグラーで「リスボン物語」で煩いヴィデオを弄ぶ子供たちにヴィデオットと叫んえ追い払う映画の音声を演じたのと同じ役者である.「リスボン物語」の子供たちがヴィデオカメラを片時も手放さないのと同じにポラロイドカメラを手放すことができない.

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かなりの昔に観たこの映画の舞台はドイツであるとばかり思っていたが如何にもアメリカの安モーテルと思われるところに宿泊するので、これはひょっとしてアメリカだったのかと思った.部屋のテレビにはジョン・フォードの「若き日のリンカン」が放映されているが彼は殆ど目をやらないので彼が映画関係の仕事をしているとは思えない.写真家かなと思ったが写真家がポラロイドカメラで撮影しまくるのかと思う.他のいろいろな放送が入って彼は腹を立てて TV 受像器は床に落として壊してしまう.

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どうも最初の場所はフロリダであるようで、彼は北に向かって車を進めるがこうした住宅地の様子からここがアメリカであると云うことがはっきり解った.

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住宅地を抜ける車からの視線で家々のたたずまいが映されていたが、いきなり逆方向からロングで車が捉えられ大きな一本の木が黒々と映される.これは「若き日のリンカン」で初めて法律書をリンカンが川辺の一本の大木の根元でに寄りかかって読むその大木を想起しての映像ではないかと思う.ヴェンダースの映画には必ずといって良いほど映画的記憶が記されている.

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車は北に進みシェイスタジアムの近くの店で車を売り電車でマンハッタンに入り出版社の小さな事務所に行く.ミュンヘンの本社から彼への原稿依頼のアメリカについての話はまだかと催促が来ていると云われる.写真に全部納めているのでドイツに帰ってから書くがと弁解すると、写真など注文していない期限延長はないからさっさと書けというばかりで、原稿料の前貸しを頼むがそれも断られてしまう.彼はぎりぎり飛行機代しか持っていない.当時アメリカの飛行機会社と云えばパンナムしか知られていなかったのか、「都市の夏」のアメリカ行きもパンナムに電話しているが彼はその事務所に向かう.そこの回転ドアーで遊んでいたアリスに初めて出逢うのである.

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アリスの母親とアリスはアリスの父親ではないという男と別れてドイツに帰るのだと云うが、彼女は英語が苦手で航空券を買うのに彼に通訳を頼む.折しもドイツの空港はストライキに突入しそうでドイツ行きは全て欠航で航空会社の提案で取り敢えずアムステルダムまで三人分の航空券が買われることになる.母親は不安なので一緒にいてくれと云われ彼は二人のためにホテルを取ってやる.

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彼の方は女友達の所に行くが、その友達から、彼の話は全て独り言だし、そんな写真ばかり撮って現実を受け止めていない、慰めて上げたいが出て行ってくれと追い出されてしまう.彼自身証拠と思って写真を撮るが写真は直ぐに古びてしまって現実が先に行ってしまうとそのことは認識している.

追い出されて彼はアリス達の部屋に潜り込む.ベッドは同じでも寝ない釘を刺されるがどうなったかは知らされない.翌日はアリスの望みでエンパイアステートビルの展望台に行くことになっていたが、母親は朝置き手紙で昼にに落ち合うと行って出て行ってしまう.彼はアリスを連れて展望台に行くが母親は現れない.リュディガー・フォグラーはだからこそ「リスボン物語」で主人公を演じたように子供に対し、つまりアリスに対して決して優しい態度は取らないでいる.ホテルに戻ると母親がチェックアウトして男が荒れているので直ぐに出られないので明後日までアリスをアムステルダムに連れて行き待っていて欲しいと置き手紙があった.

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アリス達はアムステルダムはにアメリカの前に住んでいた地で、アリスはオランダ語を解する.空港近くに宿を取ったが、アリスはじっとはしていられない.アムステルの街を案内すると云って聞かないので彼も致し方なくついて行くことにする.バスを待つ間、アリスは彼のポラロイドカメラを手にとってあなたの写真を撮るという.撮り終えた写真がはっリリ出てきたつやつやの表面にアリスの顔が映って写真の彼の顔と重なってしまう.この場面は全く覚えていなくて驚いた.「パリ、テキサス」の十年前に同じ事をして視線の交わりを行っていたのである.もうこれで幾ら嫌がっても彼はアリスを送り届けるという仕事を完成しなくてはならないである.その魔術は覿面でその後彼はポラロイドカメラを手にしない.

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動いているのでぼけたスクリーンショットしか撮れないが、運河の観光船に乗せられて彼はそれにはこりごりで、次の船着き場で降りると言い張る.その降りる画面が美しい.ほぼ縦の構図で奥から手前に観光船が滑るように岸に近づいてくると、船の後部から二人が岸に飛び降りるのである.この画面はほんの一瞬であるがこの映画で一番美しいのではと思う.

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彼はアリスには付き合いきれないと空港の相談所に彼女を預けることにするが、勝手にお役ご免は出来ないのである.それどころかもっと大変なことまで引き受けてしまう.相談所に行く途中彼女はトイレに入るが中々出てこない.婦人用なので入るわけにも行かず入り口付近で中をのぞき込んでいると、係員が来てあの娘はあなたのか、ずっと泣き通しだと云われ頷くと入って良いと許可が出る.扉をノックするが泣き声が聞こえるだけで返事も開けようともしない.彼はアリスをお婆さんの所に連れて行くと約束する.どこの街にいるのかを云えと言うが思い出せない.手帳に書いてあるドイツの都市の名前をアルファベット順に挙げていくがやっと W の所でそこだと応えて出てくるのだが、母方の祖母で名字は知らない.雲を掴むような話であるが家を見れば彼女は覚えているという.兎に角街中を車で探し回るのである.

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彼は実際彼女の云うことが本当かどうかを疑いだした.結局彼女は事情を話して警察に頼んで置いていくことにする.彼女の方は今度はトイレに閉じこもりようなことをしない.

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肩の荷を下ろしてロックコンサートに行ったりして戻ってきたら彼女が車に乗り込んできた.なにやら顔つきまで変わっている.警察で話して解った情報を持ってきたのである.まず思い出したこととして、祖母がいるのはこの町ではなく日帰りで行けるところで、祖母は本を読んでくれたがページをめくるときざらざらいう音がしたことを思い出したという.石炭の粉が窓から入ってくるのだという.警察はそれはルール地方だと言ったとのこと.更に彼女自身が祖母の家の写真を持っていた.で、お婆さんお名前はと尋ねると、お婆さんはお婆さんだと言って名前は分からない.兎に角地域は分かったし家の写真があるのだから必ず見つかると二人はまた探索を始める.

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ヴェンダースの映像は硝子に外や内のものの影が映るということが多い.そしてそれは多くの場合良い兆候なのである.車を進める並木の樹木が車のフロント硝子に映って彼女の顔と重なる.こうなったらもう見つかったようなものである.

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彼女の提案でタクシーの運転手に家の写真を見せて訊くと通りの名前が解った.そしてその通りに入ると彼女の止めてくれと云う声.彼女は車を飛び出して行った先には写真通りの家がある.

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アリスがドアーをノックして出てきた人と何事かを話す情景がロングで映される.やがてドアーは再び閉じられてアリスはうなだれて戻ってきた.住んでいるのは祖母ではなくイタリア人でもう二年居住していてそれ以前の人のことは何も知らないという.万事休すである.彼はここから河を渡れば彼の実家があるのでそこに行こうと提案するとアリスも頷く.

フェリーで河を越えるときに彼は再びポラロイドカメラの撮影を始める.今度撮った写真はどこかの母娘の前にアリスも入った三人の人物が重なった縦の構図である.この映画で縦の構図は交通手段に多用されている.車であったりバスであったり列車であったりする.縦の構図は現実に追い越されないで先に進むという吉兆なのだと思う.

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このフェリーにはアリスを預かった私服の警察官がパトカーの儘同乗していた.アリスと彼の姿を認めて何故警察に知らせなかったのかというものの、アリスの母親は帰国してミュンヘンにいること、祖母の居場所も解ったことを告げられた.アリスはミュンヘンに向かうことになったが彼はもうミュンヘンまでの旅費がない.アリスはいつも大事にに首から下げていて、これまでかなり困窮していたにも拘わらず一度も開こうとしなかった財布を開けて彼に紙幣を渡す.

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二人は列車で向かい合わせに座り、彼が今後どうするのかを尋ねると、彼の答えは物語を書くである.彼女はまた落書きを書くのだとからかう.彼が新聞を読み始めると大きくジョン・フォードの死を知らせる記事が載っていた.ジョン・フォードの死は 1973 年 8 月 31 日であるから、年も季節もこの映画の時と同じである.

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リュディガー・フォグラーは「リスボン物語」でも何かを運んだと言うより姿を現さない監督に導かれたように見えるが、この映画でも彼がアリスを運んでいったのではなくアリスが彼を導いたように見える.この映画は処女作の「都市の夏」の続編でアメリカに発った主人公はこの映画の主人公に重なる.そしてヴェンダース自身にも重なって、映画に向けて運んだのだという思いがする.

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