viva cinema

「ヤンヤン 夏の想い出」二重化する物語

BeauMale
2011.9.25

臺湾のエドワード・ヤン 楊徳昌 という監督の作品はこれまで「嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 (1991)」しか見たことがない.臺湾には侯孝賢 ホウ・シャオシェンという優れた監督がいることを知った後にこの監督の名を知って劇場に駆けつけたが、この監督の力強さというのに圧倒されて、一体、ホウ・シャオシェンとの違いはどこにあるのかと思ったが分からなかった.この監督は作品の数が少なく観る機会に恵まれなかった.この「ヤンヤン 夏の想い出」は「嶺街少年殺人事件」の九年後の作品である.残念ながらこれはヴィデオで観たものである.

この映画は一つの家族を描いたもので、父親は友達とコンピューター会社をやっていて、妻と妻の母親と高校生の娘と小学生の男の子がいて、それぞれ個室を持っている大きなマンションに住んでいる.ヤンヤンというのは小学生の息子の名前である.ある日息子が父に変な質問をする.「真実の半分だけを知ることが出来る?」という質問である.この挿話は冒頭にあるわけではなくもっと先に出てくる.

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父親は意味が分からなくて聞き返すと表だけ見えて裏が見えないようなことだと云われる.父親は応えられない.その後のある日父が息子の部屋で息子の撮った写真があるのを発見して一枚一枚手に取ってみると、どの写真も人物を後ろから撮ったものであった.最後に祖母が死んで、父の弟の、いい加減男が来たときに彼を撮った写真を渡すと、何じゃこの写真は、後頭部の写真ではないかとヤンヤンにいうと、彼は、だって頭の後ろは見ること出来ないでしょうと済まして行ってしまう.

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父の恋
物語は父の弟の結婚式から始まる.式場でのこと、父はヤンヤンを連れてエレベーターに乗ろうとしていると、美しい女性が降りてきて私はアメリカに今は住んでいる、あなたは臺湾にまだいるのだといって息子を可愛いと褒めて名刺を渡して立ち去る.父はずっと押し黙っているが息子はただならぬ雰囲気を感じて父を観察している.立ち去った女がまたすぐ引き返してきて、あの日はずっと待っていた.まだ立ち直れないでいると大変な剣幕でまくし立てる.そこに双方の旧知の友達がエレベーターから降りてきたので、彼女の怒りはそこまでである.

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結婚式の日に気分が悪くなった妻の母親は家に戻ったが脳溢血で倒れてしまい、寝たきりになる.医者からは常に話しかけていると意識が戻るかも知れないと云われているが、ヤンヤンは話をするのは嫌だと云い、弟は口八丁でそれは得意だと云うが直ぐに話が尽きてしまい、母も話題が無くなってしまってとノイローゼ状態になり宗教団体の山ごもりというのに行ってしまう.父と娘だけが、自分の悩みを打ち明けるという形で話すことが出来る.

父の会社はコンピューターのハードウェアーを売っていたが、投資会社から見通しが甘いとせっつかれ、苦し紛れにソフトをやる計画で日本のゲーム会社と話が出来ていると説明する.ゲーム会社の代表の日本人をイッセー緒方が好演していて接待役の父とは親しくなるが、会社は契約の決定は先延ばしして、コピー業界と手を結ぶ見せ玉として使いたがっている.会社はコピー業界と関係が出来たが、後もう一息は日本のゲーム会社と契約ということで、彼は東京に出張になる.その時彼はエレベーターの前で出逢ったアメリカに住む昔の恋人と東京で出会うことにする.東京のホテルに着くと、彼女が出迎えていて二人は抱き合う.

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イッセー緒方を交えての会談で緒方は事情を察して、仕事の話は一度食事したら済むことだと一週間の滞在を二人がゆっくり楽しめるようにしてくれる.

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東京のどこかの境内で彼女は猛然と彼が姿を消して約束の場所に現れなかったことを激しく詰問する.彼は彼女のことを小学校の時からずっと好きで学校に行けば彼女の姿を探して、いないと一日憂鬱になった.高校生になったある時彼女が彼に向かって何か話したいなら話なさいと詰め寄ってきたことも覚えている.併し、ある時これではいけないと気付いたという.彼女の良いようにされるに決まっていることが耐えられなくなったという.一番好きな女性の許から姿を消すことがどれほど辛い事か解らないのか、その後も愛しているのは彼女だけだと語る.

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二人は熱海に行きホテルに滞在するが部屋は二つ取った.併し彼女は彼の部屋に来てまた同じように彼を詰る.自分は離婚しても暮らせるだけの境遇で一緒になって欲しいと詰め寄る.彼は彼女を優しく抱き留めると、彼女は同じ失敗をまた繰り返そうとしてしまったという.縦の構図で手前側には蒲団が敷いてあるが抱き合うと云うか泣き崩れる女を抱き留めるといった抱き方である.

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翌朝、彼が熱海の海岸の埠頭で一人たたずんで波が打ち寄せる場面が映し出されるだけで昨晩何があったか、無かったかは知らされない.

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知らされなくとも、一人の彼女が部屋の窓の夜景と、室内の微かに映る姿の中で啜り泣く姿を見ると解る.この映画は時々この硝子の画面が出てきてそれで人の悲しみや不安を表現している.

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その後、イッセー緒方との一杯飲み屋での会談で彼はますます緒方が好きになる.「物事は複雑ではない.とても単純なのだ.」という言葉は最後に妻によって繰り返されるが物事を映画にすればゴダールの言葉である.もう契約にこぎ着けるばかりの時会社から電話が来てコピー屋と契約できたから緒方とは契約を結ぶなといってきた.暗澹たる思いの彼は彼女を求めたが、既にチェックアウトした後であった.その後、会社に行かなくなっていた彼にこの件は君が正しかった.今時消費者は出来の悪いコピーなんかほしがらない.コピー屋は食わせ物であったから会社に戻ってくれと頼まれる.

娘の恋
父の出張の最中娘にも辛い失恋が起きていた.時間的にも物語は同じように運ぶ.父が恋人の住まうシカゴは何時で臺湾は何時東京は何時と云うのと同じにその台詞が出てくるのである.この二つの失恋物語は交互に映し出される.娘の家の隣の部屋に同じ年頃の音楽学校に通ってチェロをやっている娘がいる.彼女には恋人がいて、下の写真は二人で恋人を待っているところである.彼らの付き合いは彼女は何度も目撃している.この時も彼女は遠慮して先に帰る.

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所が彼女はある時隣の娘が部屋の前で別の男と口づけをしているところを目撃してしまう.その後何度か隣の娘の恋人から渡してくれと手紙を渡されるが、何で自分で渡さないのかと怒り出す.その何度目かの手紙でもう嫌だと云ったであろうと告げるとそれは君にだよと云われて、二人は付き合い出す.同じ店での二人である.

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美しく着飾ってこれから出ようと云うときに隣の娘から呼び出されて衣装をじろじろ眺めて、どういうことかと詰問されるが、蚊の鳴くような声で友達だと応えるのが精一杯である.隣の娘は気性が荒くて、彼女は怖がっている.ある時自分の母親が彼女の英語の先生と懇ろになっている様を目撃したときの怒りは目にしている.

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彼は隣の娘が自分の所にも来たが、ああいう奴だから放っておけばよいといって、とうとうホテルに誘われてしまう.部屋の明かりがつくまで彼女は外にいるが明るくなったら彼に誘われておずおずと入ってくるが、緊張で汗だらけになった彼の方から、矢張り良くないと云って彼女を置いて逃げ出してしまう.彼女は人気のない道を一人とぼとぼ帰るがそれは、苦しむ様子はない.

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所がある日のこと、隣の娘が愛想良くマンションの下で声を掛けてきたと思ったら彼が自転車でやってきて彼女はこれ見よがしに大声ではしゃいで行ってしまう.それでも彼女は涙を見せない.所がその後のある日、隣の娘を待っている彼と出会って彼女の方は無視してやり過ごそうとすると、男から声を掛け、恋というものは綺麗事ではないと謝るどころか散々に彼女をののしる.さすがにそれには彼女も絶えかねて自分の部屋で泣き崩れてしまう.

彼女はある日警察に呼び出されて彼が隣の娘の母親の恋人の英語の教師を刺し殺したということを知る.

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もう一つの恋
ヤンヤンは身体の小さな男の子で、いつも身体の大きな女の子達にいじめられている.ある日のこと、視聴覚の授業の時、そのいじめっ子の中で一番すらりとして可愛い女の子が頭目であるが、その彼女が遅れて入ってくるときにスカートがまくれ上がって、写真で向かって左端に小さくて姿が見えないところに座っているヤンヤンはそれを正面から目撃してしまう.

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次の画面は女子更衣室と思われる所にヤンヤンがのこのこやってきて脱ぎ捨ててある服を眺めている.そんなところで何をしているのだ.またいじめられるだろうと思って見ていると、

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更衣室はプールのであった.プールではパンツを見せたあの女の子が一人泳いでいる.彼はその姿を見ているが彼にはキャメラが向けられない.

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その晩、お婆さんの看護婦がトイレの戸を頻りに叩いてヤンヤンに早く出ろと叫んでいる.中ではヤンヤンが水に顔をつけて潜ったときの練習をしていた.

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そして彼は遂にプールに飛び込んでしまう.プールから悲鳴とも云える声が聞こえたが直ぐに止んでしまう.おいおいである.空には雷の音が鳴り響くのが聞こえている.併し、無事生還してきて折からの雷雨が幸いして彼の恋のための冒険は誰にも気付かれない.雨でずぶ濡れになったと思われた.

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エピローグ
泣き疲れた娘がお婆さんの部屋に行くと彼女は目を冷ましている.長いこと寝ていた病人とは思えないばかりに色つやよく孫娘に折り紙で蝶のようなものを作ってくれ、彼女の髪を撫で彼女は祖母の膝に顔を埋める.

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と思っていると、彼女は一人長椅子で寝ていて辺りの騒ぎに目を覚ますと、祖母の死に人々が騒いでいた.彼女の手には夢の中の蝶が握られている.

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葬儀の日にヤンヤンはお婆さんに話したいと自分から云って、ノートに書き付けた文を朗読する.僕はお婆さんに話をするのが嫌だったわけではない、だって、お婆さんは僕にいつもお聞きといって僕の知らない話をしてくれる.僕の話なんてお婆さんは何でも知っているからと思っただけだよ.これからもっと物知りになってお婆さんのいるところに行く方法を見つけてみんなを連れて行くといった文面である.

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母親は戻り山の生活は私が母親の立場になって廻りの皆が私の立場になって話してくれるのを聞いていた.父は妻の留守中に青春を繰り返そうと思ったがそれは出来なかった.終わったものは繰り返せない方がよいという.

同じ物語が父自身の中で繰り返されようとして娘にも繰り返されヤンヤンでさえもその繰り返しに加わるという何重にも重なる物語であった.この映画の原題は Yi Yi: A One and a Two である.

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